洗浄剤の種類

製造や工事の現場では、汚れや機器設備など目的に応じて洗浄剤を選ぶ必要があります。洗浄剤は、大きく分けて「水系」「準水系」「非水系」の三種類です。それぞれに特徴があり、汚れや対象物への向き不向きが存在するのでよく覚えておきましょう。

水系洗浄剤

その名の通り、水を溶媒として、界面活性剤、無機・有機ビルダーなどから構成された洗浄剤です。その成分の内容によって、「アルカリ性」「中性」「酸性」に更に種類が分かれます。

界面活性剤による乳化で油が水溶化するため、油性汚れをはじめ粉塵、不純物といった固形汚れの除去に広く使用されます。また、水で希釈して使用するため可燃性がなく、広範囲に塗布できる点も特徴のひとつです。ただし、金属には腐食の可能性があるため、主に鋼鉄や電気機械器具、ガラスなどに使用されます。

【アルカリ性】

アルカリ性洗浄剤は石鹸や合成洗剤と似ていますが、落としたい汚れ(とくに油汚れ)と反応させて鹸化させて汚れを落とすといった仕組みがあります。皮脂汚れや油汚れ、たんぱく質でできた汚れ(垢、食べ物汚れ、血液など)に強く、皮脂や油の中にある脂肪酸と反応して鹸化させて汚れを落とすのです。 また、たんぱくの汚れの場合は、汚れの中にあるアミノ酸の構造を元から変えて汚れを落としやすくしてくれるといった特長があります。さらに、切削油や加工油の他、研磨粉や切削粉、カーボンなどの固形物の除去も可能です。低コストで脱脂力に優れている点が大きな魅力でしょう。 ただし、腐食リスクがあるため金属には向いておらず、洗浄・排水・乾燥に時間がかかる点がデメリットです。

【弱アルカリ性】

弱アルカリ性洗浄剤には、近年注目を集めている「重曹」が当てはまります。重曹は炭酸水素ナトリウムであり、パンなどに使う「ふくらし粉」やこんにゃくなどの「凝固剤」、胃薬の成分などに使われるものです。食品にも使われている安全性と、ハウスクリーニングの洗浄剤としての効果からテレビなどでも取り上げられています。 居住地内のさまざまな油汚れに対して効果が期待できますが、使う素材によっては(とくにアルミ製の鍋など)その素材をいためてしまう可能性があるので気をつけましょう。

【中性】

非鉄金属の洗浄に適しており、精密部品やアルミ部品、光学レンズなどに使用されています。アルカリ性に比べて金属の腐食が起きにくい点が特徴です。また、油性汚れが落ちやすく、安全性が高い点がメリット。 そのため、素肌で直接使うような台所用洗剤やお風呂用洗剤、生地にダメージを与えることのない洗濯用洗剤などに使われています。ただ、脱脂力はアルカリ性に比べてやや低めです。

【酸性】

金属の腐食リスクが高いため、主に金属表面の錆・スケール除去、酸化膜除去など、一部の特殊な汚れの除去のみに用いられます。特殊な汚れを落とすことができるのが最大の魅力ですが、金属を腐食させやすく、安全性においては不安がある点がデメリットです。 また、酸性洗浄剤は強力な殺菌力も特長の1つです。トイレの水垢や尿石、お風呂場の垢汚れや台所回りの殺菌に有効といわれています。ただし、基本的には汚れに対しての即効性はあまりありません。 もし、酸性洗浄剤で汚れを落としたいのであれば、新聞紙やティッシュペーパー、布などに洗浄剤を含ませ汚れた部分に塗布し、時間をかけて汚れを落とすようにしましょう。

【弱酸性】

弱酸性洗浄剤は、一般的にpH値3~6の値を持つ洗浄剤のことを指します。酸性洗浄剤の場合はpH値1~3、中性洗浄剤の場合はpH値6~8です。弱酸性洗浄剤は主にお風呂用洗浄剤で使われています。 お風呂場の汚れ(垢や皮脂汚れ、石鹸カスなど)に対して、お風呂場のタイルや素材をいためることなく効果的に汚れを落とせることが特長です。 また、「弱酸性」といえば洗浄剤としてではなく、お肌に直接触れるボディーソープやクレンジングなどの化粧品などで使われているイメージも強いでしょう。こういったものもやはり一種の「洗浄剤」です。

準水系洗浄剤

有機溶剤と界面活性剤によって構成されている洗浄剤です。溶剤には引火性がありますが、水を配合することによって引火性を消失した「非可燃性」と、溶剤で洗浄後に水ですすぐ「可燃性」の2タイプがあります。

準水系洗浄剤は油分溶解力が高く、油汚れの洗浄に最適です。また、多くの金属に使用が可能で、精密器具の洗浄にも向いています。人体・環境への影響が低いのも嬉しい点でしょう。ただし、いずれも水を使用するので、サビの発生には注意しなくてはなりません。

【非可燃型】

火災の心配がないのが大きな魅力。フラックス、ワックスなどの除去に適しています。ただしコストが高い点と、水分管理が必要な点がデメリットです。

  • グリコールエーテル型
  • グリコールエーテル型溶剤が配合されているタイプです。特にフラックス用途の洗浄に向いています。
  • 水溶性溶剤型
  • アルコールなど、水に溶けやすい溶剤が配合されています。また、石油系溶剤や界面活性剤を使用している場合もあるのが特徴です。
【可燃型】

すすぎ性・分散性に優れ、高い洗浄力を発揮します。すすぎに純水を使用することで更に効果が上がるでしょう。ただし火災のリスクがある点や、再生利用が難しく、排水処理が必要な点がデメリットです。

  • テルペン型
  • テルペンと界面活性剤が配合されており、ロジン系フラックスを除去することができます。
  • 石油系溶剤型
  • 炭化水素系溶剤を使用することで油汚れの溶解が可能。また、イオン性の汚れに適したタイプもあります。

非水系洗浄剤

水によるリンス工程を必要としない洗浄剤で、「炭化水素系」「アルコール系」「フッ素系」「塩素系」「臭素系」などが代表的です。成分によって、引火性のあるものとないものがあります。

全体的に溶解力が高く、希釈せずに原液のまま使用します。乾燥も早く、洗浄液の再生が可能な点が大きな特徴。金属製品や精密機器、電気機械器具など、広い分野で使用されています。

【炭化水素系】

ノルマルパラフィン系とイソパラフィン系、ナフテン系、芳香族系に分けられます。特に鉱物油系加工油の洗浄に適しており、グリースや潤滑剤、防錆剤など、さまざまな汚れを落とすことが可能です。溶解力・浸透力に優れ、金属への錆やシミなどの影響がない点が大きなメリットでしょう。引火性がある点や、固形物汚れやイオン性汚れには不向きな点には注意が必要です。

【アルコール系】

イオン性の汚れにも対応でき、シミ、切粉、粉塵や不純物などの除去に向いています。浸透性が高いため、小型製品や複雑な部品も洗浄することが可能です。乾燥が早く、低コストである点も嬉しいポイントといえます。ただ、油分溶解力は低めで、引火性があるため水分管理が必須です。

【フッ素系】

油分溶解力が高く、油汚れやシミ、フラックスや不純物などの除去に適しています。浸透性が高く、細かな部品の洗浄にも効果的です。比熱・蒸発潜熱が小さいため、プラスチックなどの素材も傷つけずに洗浄することができるでしょう。毒性が低く安全な点が魅力的ですが、コストが高いという一面もあります。

【塩素系】

油分溶解力が高いため、鉱物系加工油などの油汚れには特に効果的です。浸透性が高く、細部まで洗浄できるうえ、ランニングコストが安い点がメリット。しかし、毒性が高いため、法規制に抵触する恐れもあります。また、広く金属に使用されていますが、水分が付着すると錆びるケースもあるため慎重に扱いましょう。

【臭素系】

油分溶解力が高く、鉱物系加工油、水溶性加工油などの洗浄に適しています。不燃性で浸透性が高く、細部まで洗浄が可能です。精密機器の洗浄にも向いています。また、蒸留再生が可能という点もメリットです。デメリットとしては、コストが高く、毒性などのデータに一部不明な点があることが挙げられます。

洗浄剤の中和の必要性

一般的な家庭用の洗浄剤であればさほど気にする必要はありませんが、工業用などの強力な洗浄剤を使う場合、その廃液は産業廃棄物扱いとなるため注意が必要です。さらに、強い酸性、アルカリ性を持つ洗浄剤の廃液は特別管理産業廃棄物となり、非常に厳しい規制の対象となっています。 この場合そのまま捨てるのではなく、強いpH値を中性にまで落とし、中和し中性廃液とすることが必要です。詳しくは管轄の各行政機関にお問い合わせください。

洗浄剤は、どれを使うのが正解ということはありません。しかし、合わない洗浄剤を使ってしまうと、汚れが落ちないばかりか、被洗浄物や設備を破損してしまうこともあります。洗浄剤の特徴をしっかりと把握し、最適なものを選びましょう。