洗浄剤の選び方

油汚れやフラックス、グリスなど、汚れの構成成分はケースによってさまざまです。また、対象の機械設備の素材や性質も多種多様。そのため、洗浄剤も、汚れや機械設備に適した種類を選ばなければ、最適な効果を得られません。そこで今回は、どのような洗浄剤を選んだら良いのかを目的別に解説していきます。

洗浄剤の種類と特徴

産業洗浄に用いられる洗浄剤にはいくつかの種類があります。まずは各洗浄剤の特徴を確認しましょう。

【水系】

引火性がなく、コストが安く済む点が魅力です。多くの樹脂へ使用できるものの、金属の場合は腐食が懸念されます。排水処理が必要で乾燥に時間がかかるという点もデメリットです。

【準水系】

引火性がなく油分溶解力は水系よりも高いため、油汚れの洗浄に活躍します。再生利用はできません。また、排水処理と、防腐対策が必要です。

【炭化水素系】

脱脂力・油分溶解力が高く、油汚れの洗浄が得意。比較的安価で蒸留再生が可能です。しかし可燃性のため設備の防爆対策が必要なほか、イオン性汚れの除去は苦手としています。

【アルコール系】

浸透性が高く、細かい部品や精密機器の洗浄に最適。比較的乾燥性も良いですが、引火性があり、油分の溶解力は高くありません。

【フッ素系】

引火性がなく、乾燥性・浸透性ともに優れており、蒸留洗浄も可能です。金属への錆のリスクが低く、プラスチックの洗浄にも向いていますが、コストが高いのが難点です。

【塩素系】

引火性がなく、油分溶解力が非常に高いため、特に油汚れの洗浄で高い効果を発揮するでしょう。ただし、人体への影響が懸念されるため、扱いには注意が必要です。

【臭素系】

油分溶解力と浸透性が高いため、細かい部分の油汚れまで落とせます。引火性もありません。ただし、コストが高く、毒性データの一部に不明点があります。

洗浄目的による選定方法

では、実際に洗浄剤の選び方をご紹介しましょう。洗浄剤を選ぶ際には、まず対象の機器設備の環境や生産工程の確認が必要です。生産工程を考えることで、どんな汚れが洗浄対象に付着しているのかわかります。その汚れに応じて、以下のような基準で洗浄剤を選びましょう。

【汚れが鉱物油系の場合】

準水系洗浄剤、特に石油溶剤が配合されているタイプが適しています。石油溶剤系洗浄剤は炭化水素の油分溶解力に界面活性剤が配合されており、加工油など鉱物油の除去に特に効果的です。ただし、鉱物油には酸化防止剤などの添加物が含まれていることが多く、これらの添加物が残る場合もあります。

【汚れが動植物油系の場合】

グリスや冷鍛用潤滑剤などには、動植物油が含まれています。準水系洗浄剤、もしくは水系の中でもアルカリ性の洗浄剤を使うのがよいでしょう。油分の融点以上の温度で高温洗浄してください。

【汚れがフラックスの場合】

フラックスの除去には、準水系洗浄剤が適しています。なかでもグリコールエーテル系洗浄剤は、主成分がはんだフラックスの溶剤成分と似ているため溶解性が抜群です。その他、テルペン型なども向いています。

【汚れが粒子状・固形状物質の場合】

粒子状や固形物の汚れの場合、ジェット噴射による高圧洗浄または洗浄槽に入れて超音波洗浄を行い、物理的に除去するのが一般的です。そのため、洗浄剤は水系もしくは準水系が望ましいでしょう。粒子には油分が含まれていることが多く、その点も考慮して選定する必要があります。

【印刷インクの場合】

スクリーン版などに付着したインクの成分を落とすには、準水系洗浄剤が使用されます。対象物の素材に注意して選定しましょう。また、粒子状の汚れが強い場合は、超音波洗浄を併用すると効果的です。

洗浄剤は、汚れの種類だけでなく、被対象洗浄物の大きさや素材なども考慮して選ぶことが大切です。たとえば、油汚れを落としたい場合や床など面積の広い部分を洗浄したい場合は水系、精密機器など小さな部品を洗浄したい場合はアルコール系など、総合的に判断して洗浄剤を決定してください。

洗浄剤選定における考慮ポイント

洗浄剤を選ぶ際には、汚れとの相性、機器設備への影響のほかに、いくつか考慮すべきポイントがあります。洗浄剤を選ぶ際のポイントを見ていきましょう。

1.可燃物系の洗浄剤は使用できるか

使用が難しい場合、不燃系には水系・準水系・フッ素系・塩素系・臭素系があります。

2.排水処理の設備を設置できるか

炭化水素系・アルコール系・フッ素系・塩素系・臭素系の場合は難しいため、水系・準水系を使用します。

3.対象の洗浄物の大きさや形状、数量

一日当たりの処理可能件数や稼働時間を考慮して選んでください。

4.対象の洗浄物への影響はあるか

金属への腐食や錆の発生、ゴムや樹脂への腐食の可能性はあるかなどをチェックします。

5.清浄度

半導体部品やハードディスク部品などは精密洗浄が必要です。

6.洗浄方法

ジェット洗浄、シャワー洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄などがあります。

7.コスト

洗浄剤の単価、装置の設置コスト、ランニングコストを総合的に考慮しましょう。

8.適用法規・安全性

消防法、有機溶剤中毒予防規則、PRTR法など、毒性のチェックも忘れてはいけません。

9.リサイクルの有無や回収方法

炭化水素系・フッ素系・塩素系・臭素系・グリコールエーテル系・アルコール系はリサイクルが可能です。

10.廃棄物の処理について

どんな廃棄物が出るか、内部で処理するか外部で処理するかを明確にしておきましょう。

こうした基準のうち、何を重視するかは会社によって異なります。デメリットも工夫次第で補うことができるので、総合的に見て判断しましょう。

正しい洗浄剤を選ぶには、まず洗浄剤の特性を把握したうえで、落としたい汚れや被洗浄物の素材について考慮することが必要です。更に、コストや設備投資など、企業ごとの状況や条件に合わせて最も適した洗浄剤を選択しましょう。