遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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5-13 ポンプの管理標準
管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。トラブルは一度起こると、想像を超えて労力及び費用がかかります。 しかし、トラブルを初期の段階で早期に発見して対応できると、労力及び費用を縮減できる可能性があります。
管理標準は図5-13-1に示すように、関係者によってまず方針を立てて、目標にしたがって実行していきます。そして、あらかじめ決めておいた点検項目に従って計測し記録します。 その結果、改善点があれば随時改善していきます。具体的な流れの例を表5-13-1に示します。 ここで重要なことは、管理基準が「常に正しいのだ」と決めつけるのではなく、労力及び費用を最小限にできる基準は何かを考え、必要に応じて改定していくことです。 このことは、品質管理における計画(Plan)、実施(Do)確認・評価(Check) 、修正・処置・対策(Action) と根本的には同じです。

図5-13-1 管理標準
表5-13-1 管理標準の流れの例

次に、点検項目と基準例を表5-13-2に示します。ポンプメーカが推奨する点検項目と基準に準ずることが原則です。しかし、ポンプの重要度や故障頻度などを考慮して、自らの点検項目と基準を設けることが最善だと考えます。 基準は判定が容易にできるように、できるだけ数値化します。点検項目を決めて記録を蓄積していくと、ポンプごとに、点検が必須になる項目、不要である項目などに違いがあることに気づくはずです。 そして、日常、毎月、半年ごと及び1年ごとの点検項目を、ポンプごとに見直して不要な項目は削除して、労力及び費用を縮減していくのがよいと考えます。
表5-13-2 点検項目と基準例
頻度 | 点検項目 | 基準例 |
---|---|---|
日常 | 電動機の圧力または電力 | 新設時を基準にして+5%以内 |
吐出し量 | 新設時を基準にして-5%以内 | |
吐出し圧力 | 新設時を基準にして-5%以内 | |
吸込圧力 | 新設時を基準にして-5%以内 | |
漏れ | メカニカルシール液漏れ5.6g/h以内 | |
振動 | JIS | |
騒音 | 異音がないか | |
軸受温度と周囲温度 | JIS | |
毎月 | 潤滑油 | 適正量、劣化確認 |
半年ごと | 潤滑油交換 | 全量交換、または経験 |
軸シール交換 | 交換、または経験 | |
電動機の絶縁抵抗 | 1MΩ以上 | |
ボルト増締め | 適正トルク | |
1年ごと | 全分解 | 適宜 |
ポンプにおいて重大なトラブルになる事象はいろいろとあるのですが、日常点検できるものに軸受温度と振動があります。 軸受温度は異常に上昇すると、軸受を破損し回転する部品などを損傷する重大な事故につながります。また、振動も同様です。軸受温度と振動の異常を初期の段階で早期に発見することが重要なのです。
表5-13-3に軸受温度の許容値、図5-13-2に振動許容値をそれぞれ示します。点検項目と基準は、ポンプメーカが推奨している基準値を考慮して決定します。
表5-13-3 軸受温度の許容値
ポンプJISB 8301
許容温度上昇(K)軸受表面において | 許容最高温度(℃)軸受表面において | |
---|---|---|
自然冷却式普通潤滑油 | 40 | 75 |
自然冷却式耐熱性潤滑油 | 55 | 90 |
水冷式 | 受渡当事者間の協定による。 |

図5-13-2 振動基準値
出所:JIS B 8301
『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。