遠心ポンプの基礎講座

電力、自動車、建設機械、鉄鋼、化学、食品など、多くの産業分野において使用されている「ポンプ」。
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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第1章 ポンプの基礎

1-5 ポンプの特徴

ボックス小見出し

「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。

まず、ポンプの設置する場所です。「OH」及び「BB」のポンプは地上に設置されますが、「VS」のポンプは、地中に穴を掘ってモルタルなどで養生したところへポンプを設置します。 したがって、「OH」及び「BB」のポンプは、「VS」のポンプと比較して、据付け工事、保守点検などが容易です。「VS」のポンプは、保守点検のときはポンプを地上へ引き上げる必要があるために、労力と費用がかなり大変になります。

「OH」のポンプのうち、「OH1」は一般には、全揚程が120 m以下で取扱液温が150 ℃以下の場合に使用されます。それらを超えた場合には「OH2」を使用します。 「OH3」から「OH6」は一般に「インラインポンプ」と呼ばれていて、ポンプの吸込配管及び吐出し配管の中に挟み込んでポンプを設置します。 「OH5」は立形モータの主軸に羽根車を直接取り付けたポンプです。「OH6」は内蔵されたギヤでポンプを増速するので、高圧を発生するポンプになり、ポンプの能力としては高圧ポンプに相当します。

「BB」のポンプのうち、「BB1」は一般には、全揚程が120 m以下で取扱液温が150 ℃以下の場合に使用されます。それらを超えた場合には「BB2」を使用します。 「BB3」から「BB5」は多段ポンプで高圧ポンプと呼ばれています。「BB3」のポンプは、取扱液温が200 ℃以下、取扱液密度が0.7以下、及び吐出し圧力が10 MPa以下の場合に使用されます。 「BB4」のポンプは高圧ポンプの中でも低価格で製造できるのですが、ケーシングから漏れる危惧があるために、取扱液温や吐出し圧力など使用実績がある場合に顧客が認めることがあります。 「BB5」のポンプは、ケーシングが二重になっていて、外側のケーシングの中に、「BB3」または「BB4」のポンプが格納されています。非常に高価格になるのですが信頼性が高いポンプです。

「VS」のポンプは全て、羽根車は最下端にあります。「VS1」から「VS3」は吐出し管がケーシングと一体になっていますが、「VS4」と「VS5」はケーシングとは分離した揚液管を取り付けた構造になっています。 「VS6」と「VS7」は、それぞれ「VS1」と「VS2」に吸込キャンを追加したポンプです。 ポンプが発生するアキシャル荷重は、モータの軸受またはポンプ上部に設けた軸受で支持します。ラジアル荷重はポンプの中間に設けた1個ないし数個の液中ラジアル軸受で支持します。 これらの液中ラジアル軸受は直接液に接するのですべり軸受になっています。ただし、「VS5」のラジアル軸受だけは、モータの軸受またはポンプ上部に設けた軸受によって支持されています。

記号ごとのポンプの特徴についての詳細は、表1-5-1を参照してください。

表1-5-1 ポンプの特徴

API610の記号 段数 ケーシング 羽根車の形状 ポンプの主軸数 ラジアル軸受 アキシャル軸受 モータとの結合 ポンプの設置方法
OH1 1 ボリュート 片吸込または両吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング下脚
OH2 1 ボリュート 片吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング中心脚
OH3 1 ボリュート 片吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル 配管またはケーシング下脚
OH4 1 ボリュート 片吸込 1 ポンプ モータ リジッド 配管またはケーシング下脚
OH5 1 ボリュート 片吸込 0 ポンプ モータ 不要 配管またはケーシング下脚
OH6 1~3 ボリュート 片吸込 2 ポンプ ポンプ ギヤ 配管またはケーシング下脚
BB1 1 ボリュート 両吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング下脚
BB2 1または 2 ボリュート 両吸込または片吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング中心脚
BB3 3以上 ボリュートまたはディフューザ 片吸込または両吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング略中心脚
BB4 3以上 ディフューザ 片吸込または両吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング中心脚
BB5 3以上 ボリュートまたはディフューザ 片吸込または両吸込 1 ポンプ ポンプ フレキシブル ケーシング中心脚
VS1 1以上 ディフューザ 片吸込または両吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたはフレキシブル 据付けフランジ
VS2 1 ボリュート 片吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたはフレキシブル 据付けフランジ
VS3 1 軸流 片吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたは 据付けフランジ
VS4 1 ボリュート 片吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたはフレキシブル 据付けフランジ
VS5 1 ボリュート 片吸込 1以上 モータ モータ リジッド 据付けフランジ
VS6 1以上 ディフューザ 片吸込または両吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたはフレキシブル 据付けフランジ
VS7 1 ボリュート 片吸込 1以上 ポンプ モータまたはポンプ リジッドまたはフレキシブル 据付けフランジ
執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの基礎講座』の目次

第1章 ポンプの基礎

第2章 ポンプの豆知識

第3章 ポンプの性能

第4章 ポンプの選定

第5章 知っておきたいポンプの技術

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