遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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5-8 横軸ポンプ始動前の空気抜き
ポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
そのため、ポンプは始動する前に、ポンプの吸込配管及びポンプ内にある空気を全て抜く必要があります。 空気を抜かないでポンプを運転すると、ポンプ内部に「かじり」を起こしたり、主軸を折損したりして、ポンプは分解不可能な重大な事故を引き起こします。 仮にポンプの吸込配管またはポンプ内部に空気が残った状態でポンプを始動すると、ポンプの軸動力は液体でなく気体にエネルギーを与えるために、非常に小さくなります。 このような場合、例えばポンプがモータ駆動であれば、モータの低電流を検知してモータを停止する方法がありますが、ほとんどの場合この方法は役に立ちません。
空気を抜くための方法にはいろいろとありますが、ポンプの吸込側がどうなっているかによって、2つに分かれます。 1つは吸込側の液面がポンプの軸中心より低い場合、もう1つは吸込側の液面がポンプの軸中心より高い場合です。ここでは、低い場合を「吸上げ」、高い場合を「押込み」と呼ぶことにします。
主に次の2つの方法があります。
a.真空ポンプ+満液検知器
図5-8-1に示すように、ポンプのできるだけ上部または吐出し管から枝管を出し、その枝管の先に、ポンプよりも高い位置に満液検知器を接続し、満液検知器に真空ポンプを接続します。 吐出し弁は全閉、バイパス弁は全開にします。そして、真空ポンプを運転してポンプ内を真空にしながらポンプ取扱液を吸込タンクから吸い上げます。 ポンプ内が満液になったことを満液検知器で検知します。主に水を扱う大形のポンプ及び自動運転されるポンプに適用されます。
b.呼水漏斗+フート弁
図5-8-2に示すように、ポンプのできるだけ上部または吐出し管から枝管を出し、その枝管の先に、ポンプよりも高い位置に呼水漏斗を接続します。 そして、吸込配管の最下端にフート弁を設けます。吐出し弁は全閉、バイパス弁は全開にします。また、ポンプ内の空気を抜くために空気抜き弁を設け全開にします。 そして、呼水漏斗から取扱液を注ぎ込みます。空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことが分かります。主に水を扱う小形のポンプに適用されます。

図5-8-1 真空ポンプ+満液検知器

図5-8-2 呼水漏斗+フート弁
これについても、主に次の2つの方法があります。
a.押込み
図5-8-3に示すように、吐出し弁を全閉、吸込弁及び空気抜き弁を全開にして、ポンプ内にポンプ取扱液を流し込みます。 空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことが分かります。
ただし、この方法はポンプがセルフベントの場合に適用できます。 セルフベントとは、図5-8-4に示すように、液がポンプに入ってきて液面がどんどん上昇していくと自動的にポンプ内の空気が抜ける構造のことを言います。 主に水以外の液を扱うポンプに適用されます。また、有毒性液や液化ガスなど大気に漏れると危険な液の場合、空気抜き弁の後流側に配管して、液や空気を安全な吸込タンクなどに戻す配管が必要になります。 そして、吸込タンクは密閉構造にします。

図5-8-3 押込み

図5-8-4 セルフベントの構造
b.押込み+空気抜き弁
ポンプが図5-8-5に示すようなセルフベントでない場合、図5-8-6に示すように、ポンプ内の空気が溜まる最上部に更にもう1つの空気抜き弁が必要になります。 この空気抜き弁も全開にしておき、空気抜きの方法は、前述と同様に、吐出し弁を全閉、吸込弁及び2つの空気抜き弁を全開にしてポンプ内にポンプ取扱液を流し込みます。 両方の空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことが分かります。
この方法も主に水以外の液を扱うポンプに適用されますが、セルフベントの場合と同様に、有毒性液や液化ガスなど大気に漏れると危険な液を扱うときは、 空気抜き弁の後流側に配管して、液や空気を安全な吸込タンクなどに戻す配管が必要になります。そして、吸込タンクは密閉構造にします。

図5-8-5 セルフベントでない構造

図5-8-6 押込み+空気抜き弁造
前述の方法によって空気抜きを行って、ポンプを始動しても吐出し圧力が規定値まで上昇しない場合、ポンプ内に空気がまだ残っていると考えられます。そのときには、ポンプを運転している状態で、電動弁や手動弁などの吐出し弁を、
a.4~6秒間全閉
b.10 %開度ぐらいに吐出し弁を開けて、5秒間ぐらいそのままの状態を保持
c.その間に吐出し圧力を確認
これらの操作を繰り返します。そして、吐出し圧力が規定値に達したら空気抜きは完了です。3から4回この操作を繰り返しても吐出し圧力が上昇しない場合、他の原因が考えられるので、ポンプを停止して確認します。
高圧ポンプなど軸動力の大きいポンプは、吐出し弁を全閉にすることは危険です。このようなポンプでは、吐出し弁を2 %開度ぐらいで4から6秒開けて、次に10 %開度ぐらいに吐出し弁を開けて、5秒間ぐらいそのままの状態を保持する操作を3から4回繰り返します。
『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。