遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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5-10 ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係
ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
吐出し圧力=吸込圧力+全圧力 |
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になります。全圧力とはポンプ自身が発生する圧力であり、全揚程を圧力に換算した値です。また、吸込圧力及び吐出し圧力を読み取る圧力計器の中心高さが異なる場合、高さの差を換算する必要があります。
したがって、吐出し圧力及び吸込圧力を読んで全揚程が不足していると、問題にしてはいけません。それでは、詳しく説明しましょう。
単位は「SI系」でなく、「CGS系」になっているので、「SI系」の単位のときは、
1 MPa = 10.1972 kg/cm2 |
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を使って換算してください。
- H:全揚程 (m)
- Hd:基準高さにおける吐出しヘッド (m)
- Hs:基準高さにおける吸込ヘッド (m)
- vd:吐出し口の流速 (m/s)
- vs:吸込口の流速 (m/s)
- g:重力加速度 (m/s2)
- vd2/2g:吐出し速度ヘッド (m)
- vs2/2g:吸込速度ヘッド (m)
- ρ:液の密度 (g/cm3)
- Pd:吐出し圧力 (kg/cm2) =ρHd /10
- Ps:吸込圧力 (kg/cm2) =ρHs /10
全揚程Hは、ポンプを運転することによって液が得たエネルギーを全ヘッドで表示した値であり、基準高さにおけるポンプの吐出し口と吸込口の全ヘッド差になります。 基準高さは、横軸ポンプでは軸中心になります。ポンプの性能試験のとき、吐出しヘッド及び吸込ヘッドは、圧力計器で測定するために、静圧しか測定できません。 しかし、ポンプの運転中は、吸込速度を持った液がポンプの吸込口から流入し、ポンプの吐出し口から吐出し速度を得た液が流出します。 吸込速度及び吐出し速度のエネルギーは動圧と呼ばれます。そして、全揚程Hは、全圧をヘッドで表したエネルギーなので、静圧と動圧の和になります。
このことをもう少し単純に説明しましょう。吸込口径が吐出し口径より大きい場合、ある一定の吐出し量において、吸込口の流速と吐出し口の流速の関係は、次のようになります。
吸込口の流速<吐出し口の流速 |
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吸込口から入った液の流速は、ポンプを通過して、吐出し口では更に高速になったのです。
これは何を意味するのでしょうか。 液が低速から高速になったのは、エネルギーを与えられたからであって、何のエネルギーも与えられなければ液の流速は変わらないはずです。 ポンプ自身が液にエネルギーを与えて、液を高速にしたのです。 したがって、このエネルギーは圧力計器に表れない動圧ですが、この動圧に静圧を加えて全揚程としているのです。

図5-10-1 圧力の測定位置
全揚程H (m)は、基準高さにおけるポンプの吐出し口と吸込口の全ヘッド差なので、
H=(Hd+vd2/2g)-(Hs+vs2/2g ) = Hd-Hs +vd2/2g-vs2/2g・・・・(5.1) |
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になります。
吐出し口径と吸込口径が同じ場合、速度ヘッドの差 (vd2/2g - vs2/2g ) = 0になるので、
H = Hd -Hs ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5.2) |
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になります。
(5.1)式から、吐出しヘッドHd (m)は、
Hd=H+Hs-vd2/2g+vs2/2g=H-(vd2/2g-vs2/2g )+Hs ・・・・(5.3) |
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になります。つまり、吐出しヘッドHd (m)は、全揚程H (m)から吐出し速度ヘッドと吸込速度ヘッドの差 (vd2/2g -vs2/2g )を差引き、吸込ヘッドHs (m)を加えた値になります。したがって、Hd = Hとはなりません。吐出しヘッドHd (m)は、常に吸込ヘッドHs (m)によって変わります。
液の密度をρ(g/cm3)として、吐出しヘッドHd (m)を吐出し圧力Pd (kg/cm2) に換算すると、
Pd =ρHd /10 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5.4) |
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になります。同様に、吸込圧力Ps (kg/cm2) は、
Ps =ρHs /10 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5.5) |
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になります。
吐出し圧力Pd (kg/cm2) は、(5.3)式から、
Pd =ρH /10 -ρ(vd2/2g - vs2/2g )/10 +Ps |
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になります。
吐出し口径と吸込口径が同じ場合、速度ヘッドの差 (vd2/2g - vs2/2g ) = 0になるので、
Hd = H + Hs |
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Pd =ρH /10 +Ps |
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になります。
図5-10-1では、圧力計器はポンプの軸中心の位置にあります。 それでは、圧力計器が軸中心でない場合、吐出しヘッドHd1 (m)と吸込ヘッドHs1 (m)はどうなるのでしょうか。 圧力計器が軸中心より高くなる分だけ、指示値は低下します。吐出し口の圧力計器が高さΔHd (m)、吸込口の圧力計器が高さΔHs (m)だけそれぞれ軸中心より高い場合、 吐出しヘッドHd (m)と吸込ヘッドHs (m)は、次のようになります。
Hd = Hd1 +ΔHd ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5.6) |
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Hs = Hs1 +ΔHs ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5.7) |
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吐出し量Q = 1.9 m3/min, 吐出しヘッドHd1 = 150 m, 吸込ヘッドHs1 = 20 m, 吐出し口径Dd = 80 mm, 吸込口径Ds = 100 mm, 吐出し口の圧力計器の高さΔHd = 0.3 m, 吸込口の圧力計器の高さΔHs = 0.1 m, 液の密度ρ= 0.78 g/cm3の場合、 全揚程H (m), 吐出し圧力Pd (kg/cm2) 及び吸込圧力Ps (kg/cm2)を計算します。
(5.6)式から、
Hd = Hd1 +ΔHd = 150 + 0.3 =150.3 m |
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(5.7)式から、
Hs = Hs1 +ΔHs = 20 + 0.1 = 20.1 m |
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吐出し口の流速vd (m/s)は、
vd =(Q/60)/{π/4x(Dd /1000)2}=(1.9/60)/{π/4x(80/1000)2}=6.3 m/s |
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吸込口の流速vs (m/s)は、
vs =(Q /60)/{π/4x(Ds /1000)2}=(1.9/60)/{π/4x(100/1000)2}=4.0 m/s |
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(5.4)式から、吐出し圧力Pd (kg/cm2)は、
Pd =ρHd /10 = 0.78 x 150.3 /10 = 11.7 kg/cm2 |
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(5.5)式から、吸込圧力Ps (kg/cm2)は、
Ps =ρHs /10 = 0.78 x 20.1 /10 = 1.57 kg/cm2 |
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になります。
『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。