加工現場の手仕上げ作業の勘どころ
3-1 やすりの目と種類
やすりは、炭素工具鋼や合金工具鋼に目と呼ばれる切れ刃をたがね、または機械で打ち込んで熱処理をして製作した工具です。やすり作業は、このやすりという工具を用いて平面や曲面、角を加工する熟練を要する作業です。
やすりは、用途に応じて鉄工やすりや組やすり、刃やすりなどいろいろとありますが、機械作業現場で広く用いられているのは鉄工やすりと組やすりです。図1-1に鉄工やすりの各部の名称を示します。

図3-1:鉄工やすりの各部の名称
鉄工やすりは断面形状によってJISによって図1-2に示すような、平形、半丸形、丸形、角形、三角形の5つに分けられますが、用途によって台形やひし形など各種の形状があります。これらの使い方は一般に部品の加工箇所の形と同じ形のやすりを使います。
- 平形
- 半丸形
- 角形
- 三角形
- 丸形
図1-2:鉄工やすりの断面形状
やすりの加工を行なう面には無数の突起の切れ刃があり、目と呼ばれます。目の大きさは、荒目、中目(ちゅうめ)、 細目(さいめ)、油目(あぶらめ)の順に細かくなってきます。 この目の大きさは、やすりの長さによってJISで決められていますが、その目数は、25mmの長さにおける目の数で表せられます。 表1に目の種類と目数を示します。 表1に示されるように、同じ荒目でも、長さが100mmと200mmとでは一定の長さにおける目の数(25mmの間に切られている目数)が異なり、 長くなるほど粗くなっています。作業別に目の大きさをみると、荒仕上げには荒目を使用し、一般の精密仕上げには中目や細目、油目が使われ、 機械部品のすり合わせなどには細目や油目が使用されます。作業は順次目の荒いものから目の細かいやすりを使用して行きます。
表1 鉄工やすりの目の種類と目数
呼び寸法 | 上目数 | 下目数 | ||||||
荒目 | 中目 | 細目 | 油目 | 荒目 | 中目 | 細目 | 油目 | |
100 | 36 | 45 | 70 | 110 | 各目数とも上目数の80~90%とします。 | |||
150 | 30 | 40 | 64 | 97 | ||||
200 | 25 | 36 | 56 | 86 | ||||
250 | 23 | 30 | 48 | 76 | ||||
300 | 20 | 25 | 43 | 66 | ||||
350 | 18 | 23 | 38 | 58 | ||||
400 | 15 | 20 | 36 | 53 |
また、目の切り方によって図1-3に示すように、複目(あや目)、単目(筋目)、鬼目(石目、わさび目)、波目(フライス削り目)、三段目などの種類があり、材料によって使い分けられます。 単目やすりは目が65°~85°の角度に一方向だけ目が切られています。複目やすりは、一般に上目が 70°~80°、 下目が 45°斜め交叉状に目が切られていますが、上目は主に切削作用を行い、下目は切屑の排出作用を行います。波目やすりは目が円弧状の波形に切ってあります。 これら三種類が主として金属の加工に使用されます。鬼目やすりは目が鋭い三角形状の山形になっており、 単目や複目のように一本一本の線が目になっているのではなく、個々の山が目になっているため、削り取る量は多いのですが、摩耗は早く仕上げ面も粗くなります。 三段目は、複目にさらに1本の目が入って三方向に目がついています。
- 単目
- 複目
- 波目
図1-3:鉄工やすりの断面形状
- これらの目による材料の使い分けとして
- アルミニウムは素材が軟らかく削りやすいため荒取りでは波目を使用します。これは、一回に削り取る量も多く、目づまりが発生しないためです。しかし、良好な仕上げ面を要求する場合は単目を使用します。
- 鋼、鋳鉄のやすり作業では、波目は食い込みが小さいため能率が悪いです。しかも仕上げ面も粗くなるために荒加工にも使用しません。そこで、荒仕上げには荒目の複目のやすりが使用されます。複目は、切れ刃にニックが付いた状態と同じなため丈夫で単目よりも適していますが、良好な仕上げ面を得るには単目を使用します。
- 銅、黄銅はアルミニウムより硬いため波目より複目を使用し、仕上げ面を重視する場合には単目を使用します。
- プラスチック類では角が欠けやすいプラスチック類には複目より単目が有効です。
- 仕上げ加工別の使い分けとしては
- 荒仕上げには工作物が軟質材の場合は波目が有効ですが、鋼や鋳鉄などの硬い工作物は複目の荒目が有効です。
- 中仕上げには単目か複目ともどちらでも良いのですが、複目の中目、細目の方が能率よく作業が出来ます。ただし、良好な仕上げ面を得るには単目が適しています。
- 精密仕上げには仕上げ面の面粗さの厳しい場合には、初めに複目で荒仕上げをして、その後に単目を用いて仕上げを行うと良好な仕上げ面が得られます。
工作物の小さな部分を手作業で仕上げるために使用するやすりで、それぞれが異なった形(平形とか角形とか)を組み合わせて1組にしたやすりです。その1組は目の形で統一されており、単目ならば単目だけで組み合わされていますが、複目の組み合わせが多いです。組み合わせは5本組、8本組、10本組となっています。

図4:組やすり
『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次
第1章 切断作業
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1-1弓ノコとノコ刃弓ノコはフレームにノコ刃を取り付けて手作業で工作物を切断するために使用される工具です。
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1-2弓ノコによる切断作業切断作業にあたっては、工作物の材質や形状によって有効な刃数のノコ刃を選びます。 一般には、1インチ当たり刃数が14~18のものを使用しますが、薄い板などには細かい24~32のものが使用されています。 切る時は、図1-10のように切る位置に親指を置いてノコ刃を当て、片手で軽く押して切り込みを与えノコ刃を安定させてから作業をします。
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1-3電動工具による切断作業電動丸鋸は、丸ノコ刃を電動工具の軸に取り付けて回転させ、直線に切断する工具です。
第2章 きさげ作業
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2-1きさげの基本と摺り合わせきさげ作業は英語でHand Scrapingと呼ばれ、きさげという一枚刃の工具を使用して、押すまたは引っ掻くことで金属表面をわずかに削り取る手作業の仕上げ技術です。 最終的に高い精度の面(平面、直角面、V面、円筒内面など)を得ることが出来ます。
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2-2きさげ作業の種類と仕上げ面の性状図2-6のような平面を得るには、摺り合わせ定盤(当たり見定盤)とを工作物表面と摺り合せ、目視できる凸部(当たり)だけを平きさげで削り取り、それを何度も繰り返して仕上げます。 きさげ作業は平面を得るだけでなく接合面の剛性や振動減衰性を得るために、平面度や粗さ、角度の形成なども行ないます。
第3章 やすり作業
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3-1やすりの目と種類やすりは、炭素工具鋼や合金工具鋼に目と呼ばれる切れ刃をたがね、または機械で打ち込んで熱処理をして製作した工具です。
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3-2やすりかけ作業を行なうためにやすりの柄の付け方は図3-5のように柄とやすりを垂直になるよう支えて、図3-6のように柄の頭部を万力の胴のような硬いところで打ちつけて慣性でやすりのこみを柄に真直ぐに深く入れます。 柄からやすりをはずすときには、図3-7のように万力の角などに柄を当てて、やすりを引き抜く方向に引っかけて滑らせながら軽く打ちます。
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3-3やすりかけ作業平面のやすりのかけ方には、やすりを長手方向に進ませる方法、やすりを右方向に斜めに進ませる方法、工作物に対しやすりを横に動かす方法などがあります。
第4章 磨き作業
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4-1磨き用研磨剤磨き作業には、工作物の表面を磨く、滑らかにする、光沢を出すなどの技術や定められた形状を高精度、高品質に作りあげる技術など目的によりいろいろな技術があります。 磨くためには、研磨剤(ラップ剤ともいわれる)を使用します。研磨剤は硬い粒子の砥粒で構成されています。
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4-2遊離砥粒による磨き作業遊離砥粒による磨き作業は、工具(ラップともいいます)と工作物の間に研磨剤を入れて擦り併せ、工作物表面の凸部を微量に取り除きながら順次細かい研磨剤に変えて寸法精度が高く、滑らかな表面を得る技術です。 この磨き作業をラッピングやポリシングもといいます。
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4-3固定砥粒による磨き作業砥粒を固定した手作業の磨き工具には、スティック砥石や砥粒を布や紙、無機材料、樹脂フィルムなどの基材に接着剤で砥粒を保持した工具などがあります。
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4-4電動工具による磨き作業紙や布などの基材の表面に砥粒を接着剤で固着させた図4-23のような帯状の研磨ベルトを使用した加工をベルト研磨といいます。図4-24に手作業で用いられる卓上ベルト研磨盤を示します。ベルト研磨では図4-25のようにベルト研磨布紙に工作物を押し付けて研磨をします。
第5章 けがき作業
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5-1けがき用工具の種類けがき作業は、工作物を要求された形状に加工するために、図面に指示された寸法や形状をけがき工具を用いて直線、円、中心線を描いたり、穴あけの中心点にポンチを打ったりする作業です。けがき工具にはいろいろなものがありますが、作業に当たってはこれら工具を正しく用いて行う必要があります。
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5-2けがき作業を始めるにあたってけがき作業をはじめる時には、図面の確認や工作物の形状の確認も大切ですが、けがき針やトースカン、ポンチの刃先など道具の整備や点検も必要です。
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5-3けがき作業の方法けがき作業では、どこを基準にしてけがくかが課題となります。また、丸棒の中心を求める、水平線を引く、垂直線を引くなど工作物に応じてさまざまなけがき線の引き方があります。
第6章 穴あけ作業
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6-1卓上ボール盤の使い方穴加工をする加工方法には、ボール盤やマシニングセンタを用いる方法、放電加工やレーザ加工などさまざまな加工方法がありますが、手作業で穴あけ作業を行なうためには、卓上ボール盤が欠かせません。
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6-2ドリルの各部の名称穴あけ作業用工具としてドリルは欠かせません。ドリルには材質で分類すると超硬やハイス、形状からは直刃形状や段付形状のものがありますが、ここでは広く活用されているハイスのツイストドリルについて示します。
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6-3ドリルの種類と特徴ドリルといえば一般にツイストドリルを指しますが、用途に応じてさまざまな種類があります。
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6-4ドリル作業の方法卓上ボール盤の作業は比較的容易に行なうことが出来るため、作業を安易に行なっている場合が多いのですが、トラブルをなくして作業をするためには、基本的な取り組みを理解する必要があります。
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6-5ハイスツイストドリルの手研ぎの方法
卓上ボール盤で穴加工を行なっていると、手送りに抵抗を感じたり、真円があかなかったりといったことが発生した場合は角部や切れ刃が摩耗したためで、再研削をして切れ刃を修正します。
第7章 リーマ作業
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7-1リーマの各部名称あらかじめ開けられた下穴を仕上げ面粗さの向上や良好な寸法精度を得る方法として、ファインボーリングや内面研削などがありますが、これらの加工法と比較して
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7-2リーマの種類と特徴JIS(日本工業規格)ではリーマの種類を、(1)刃部の材料および表面処理、(2)構造、(3)取り付け方法、(4)機能または用途の4種類で分類しています。
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7-3リーマ作業の方法リーマ加工は、要求される寸法よりわずかに小さい下穴にリーマを通して真円で滑らかな面の穴を得る作業です。