化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長

5-9 エポキシ樹脂

エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。鎖状分子構造で熱可塑性のプレポリマーと、それらを架橋して網目状構造をつくり上げる硬化剤の役割分担がはっきりしています。この点は、前節で説明したポリウレタンとは同じ熱硬化性高分子でも網目状分子構造のつくり方が異なります。しかし、重合が完了したペレットを購入して成形加工だけ行えばよい汎用樹脂と異なって、エポキシ樹脂は成形加工や塗装・接着を行いたい利用者自身がプレポリマーと硬化剤を混合し、重合・硬化を完了させなければならないので、この点はポリウレタンと同じです。

ビスフェノール系エポキシプレポリマー

エポキシ樹脂の硬化反応の例

プレポリマーとしては、図に示したビスフェノールA型がもっとも汎用的に使われています。ビスフェノール系の中でもビスフェノールF型はA型より低粘度の液状プレポリマーになります。難燃性を付与したいときは芳香環に臭素を導入したビスフェノールAが使われます。ビスフェノール系プレポリマーはビスフェノールとエピクロロヒドリンをアルカリ存在下で重縮合させてつくられます。重合度xは0から十数個程度です。このほか耐熱性、耐薬品性、電気特性に優れたノボラック系プレポリマーが半導体封止材料用途によく使われます。

硬化剤は非常に種類が多く、またプレポリマーの重合度によって硬化剤の最適な配合量も異なり、硬化条件も変わります。この点は注意が必要です。とくにプレポリマーとの反応性が高い硬化剤(ポリエチレンテトラミンなど)は、プレポリマーと混合後、成形や塗装・接着を行える時間(ポットライフ、可使時間)が短くなります。

エポキシ樹脂の一般的な性能は、機械的強度が高く、硬化反応が重付加なので成形収縮が小さく、寸法安定性がよいことが挙げられます。また、耐熱性、耐水性、耐薬品性に優れ、さらに電気特性も優れるので電気・電子材料用途によく使われます。さらにエポキシ樹脂はポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ケイ素樹脂以外のプラスチックはもちろん、金属でも、ガラスでも、陶磁器、木材、コンクリートでも何でも使える優秀な塗料、接着剤です。最大の欠点はコストが高いことです。また弾性がなく、黄変しやすいことにも注意が必要です。

塗料・接着剤は、エポキシ樹脂が市場にデビューした1950年代当初から注目された用途です。エポキシ塗料による塗膜は強靭で耐水性、耐薬品性に優れるので、防錆・下塗り塗料として圧倒的な強みをもっています。身近なところでは缶詰や飲料缶の内面塗装によく使われています。食品による錆を防ぐだけでなく、食品や飲料に金属臭が付くことを防いでいます。このほか薬品タンク、ドラム缶、化学機器、配管などの塗装に、また船舶や建築物の防錆塗装にも使われます。自動車の下塗り塗料としてよく使われ、電着塗装されます。

接着剤としては、エポキシ樹脂の接着力の強さに加えて、樹脂自体の強度の高さから構造用接着剤という分野を開拓しました。構造用接着剤は溶接やリベットによる金属の接合に代わって使える接着剤という意味です。アルミニウム板に対しては、リベットによる接合よりも強い接着ができます。このため溶接やリベット接合、あるいはボルトナットで接合していた作業を接着に置き換えることを可能にし、機械産業をはじめ、様々な組み立て加工産業分野の作業効率の改善に大きく貢献してきました。

このほか、コンクリート構造物のひび割れ補修やエポキシ樹脂コンクリート(骨材を混合したエポキシ樹脂)による欠損部の補修など建築土木用途にもエポキシ樹脂は使われています。

このほか、コンクリート構造物のひび割れ補修やエポキシ樹脂コンクリート(骨材を混合したエポキシ樹脂)による欠損部の補修など建築土木用途にもエポキシ樹脂は使われています。

ガラス繊維だけでなく、炭素繊維を強化材料としたエポキシ樹脂は、構造用複合材料として近年注目されています。パイプ、タンク、耐圧容器はもちろん、航空機の構造材料として今や胴体から翼、床まですべてこの複合材料が使われるまでになりました。風力発電用の羽根も大きな成形品です。軽量で、しかも強度が高い材料として金属を代替してきました。次の注目用途は自動車です。自動車は燃費改善のために一層の軽量化が求められています。電気自動車の普及のためには、車体の軽量化がさらに必要です。このため炭素繊維とエポキシ樹脂の複合材料に期待が寄せられています。しかし課題はエポキシ樹脂のコスト低下です。

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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