化学製品・高分子製品の基礎講座
5-8 ポリウレタン
ポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。アミド結合をもつナイロン(ポリアミド)、エステル結合をもつPET(ポリエステル)ができる反応と似ていますが、ウレタン結合が生成する反応の大きく異なる点は水などの低分子物質が副生しないことです。ナイロンやポリエステルをつくる反応を重縮合と呼ぶのに対して、ポリウレタンをつくる反応を重付加と呼びます。重縮合反応を進めるためには、副生物を除去するために高温、高真空または副生物と反応する物質(副生塩化水素に対してアルカリなど)を加える必要がありますが、重付加では必要ありません。この点は重付加反応でつくるポリマーの大きな長所になります。

イソシアネートは非常に反応性が高い物質なので、アルコールのほか、水、アミン、尿素化合物など、反応性の高い水素をもつ化合物と次の図のように反応し、ウレタン結合によく似た尿素結合やビュレット結合を生成します。これらの反応も、後で説明しますが、ある種のポリウレタン製品をつくるためによく使われます。このため、正確に言えばポリウレタンはウレタン結合だけでなく、尿素結合やビュレット結合をもつ高分子も含みます。実際に、水やアミンの方がアルコールよりもイソシアネートと素早く反応し、生成する尿素結合はウレタン結合よりも強いためにポリウレタンの耐熱性を向上させることにも役立ちます。

ポリウレタンをつくるためには、分子内にイソシアネート基(-NCO)を2つもつ化合物(ジイソシアネート)が使われます。TDIやMDIが大量に使われていますが、古くなったウレタンフォームが黄色くなることにお気づきのように、これらの芳香族ジイソシアネートを使ったポリウレタンは黄変するという欠点があります。一方、HMDIやIPDIなど芳香族でないジイソシアネートは黄変しないので用途に応じて使い分けられます。

また、ジイソシアネートも種類の選択だけでなく、2量体、3量体をつくらせたり、フェノールなどによってマスク(一時的にイソシアネート基を不活性化したもので、加熱によってマスクを解除できるので、後述の焼付塗料などに使える)したり、多価アルコールとあらかじめ反応させて分子量を上げ、毒性を低下させるとともに、トリイソシアネートにしたりと色々な操作を行うことができます。
ポリウレタンをつくるためのもう一つの原料は、分子内にヒドロキシ基(-OH)やアミノ基(-NH2)を複数もつ化合物(ポリオール、ポリアミン)です。ヒドロキシ基を2つもつジオールとジイソシアネートを反応させれば、直鎖状の分子構造をもつポリウレタンをつくることができます。熱可塑性のポリウレタンです。一方、ヒドロキシ基を3つ以上もつポリオールとジイソシアネートを反応させると、網目状の分子構造をもつポリウレタンができます。熱硬化性のポリウレタンです。
ポリオールは、ヒドロキシ基を2つ以上もつ多価アルコール(2つのエチレングルコール、3つのグリセリン、4つのペンタエリトリトールなど)にプロピレンオキシドやエチレンオキシドを重合させたポリオールがよく使われます。このほか、高分子の両末端にヒドロキシ基をもつポリエステル(ポリエステルポリオール)も使われます。ポリオールの分子鎖の長さや分子構造の硬さ・軟らかさ、分子内のヒドロキシ基の数によって、生成するポリウレタンの性質を大きく変えることができます。

このようにポリウレタンは、両方の原料を色々変化させることができるので、様々な性能のポリマーをつくることができます。一般にポリウレタンはゴム弾性のあるプラスチックで、引張り強さなどの機械的強度も高く、強靭であり、耐摩耗性、耐溶剤性、耐油性、接着性に優れています。欠点としては、耐熱性が比較的低く(連続使用温度は80~100℃)、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性があまりよくないことです。高温多湿の場所にしまっておいた鞄のポリウレタンがベトベトになったり、ボロボロになったりした経験をお持ちの方も多いと思います。
ポリエチレンやポリスチレンのような汎用熱可塑性高分子は、化学工場でポリマーの粒(ペレット)をあらかじめつくっておいて、成形加工工場でペレットを溶融して成形品に加工します。ポリウレタンは、それとはまったく異なります。成形加工工場や塗装・接着の現場で、イソシアネートとポリオールやポリアミンを混合して重合させながら、成形したり、塗装・接着したりします。
ポリウレタンの用途は非常に幅広く、正確な統計がありませんが、発泡体(フォーム)が半分を占め、残りが成形品、塗料、接着剤、繊維、人工皮革・合成皮革などです。このうちポリウレタンの軟質フォームは、自動車・電車の座席や家庭のソファーのクッション、ベッドのマットレス、台所や風呂で使うスポンジとして身近な製品です。TDIとトリオールを主原料に、水を少量加えて二酸化炭素を発生させて重合しながら発泡させます。トリオールを使うので熱硬化性ポリウレタンです。窒素ガス、空気などを機械的に混ぜたり、分解性の発泡剤を加えたりすることもあります。連続気泡で通気性、吸音性にも優れるのでフィルターや防音材にも使われます。ポリウレタンの硬質フォームは日頃目にすることはほとんどありませんが、独立気泡で発泡させてつくるので断熱性と強度に優れた発泡体になります。家庭用冷蔵庫、業務用保冷庫の断熱材、プラントやパイプの保温材、家屋や船舶の断熱材など、見えないところで使われています。
人工皮革・合成皮革と弾性繊維は、ポリウレタンのもうひとつの身近な用途です。人工皮革・合成皮革は、織物や不織布にポリウレタンを含浸させた製品です。天然皮革をまねてポリウレタンを何層も重ねたもの、起毛したものなどもあり、ポリ塩化ビニルを使った合成皮革よりも高級感のある製品になるので、靴、鞄、手袋、コートなどに使われます。弾性繊維はゴムのように伸びる合成繊維です。ゴムのような太い糸ではなく、普通の合成繊維並みの細い繊維をつくることができるので、ナイロン繊維などと一緒に糸として使われ、一緒に染色もされます。下着、水着、靴下、ストレッチ性のあるズボン、スポーツウェアなどに使われています。
成形品は熱可塑性、熱硬化性のポリウレタンの両方が用途や成形加工性に応じて使い分けられています。ゴム弾性をもった強靭な成形品がつくられ、自動車のバンパー、ソリッドタイヤ(フォークリフトや電動車椅子などに使われるパンクしないタイヤ)、ローラーなどの大型成型品から、靴底、ヒール、パッキングのような小型の成形品まで様々な製品がつくられています。
ポリウレタンの接着性の良さを生かした用途として塗料、接着剤があります。塗料には常温硬化型と焼付型の両方の製品がつくられています。こういうところにイソシアネートの反応性を制御する技術が生かされています。自動車、車両、船舶、建材などの上塗り塗料や床材塗料に使われます。またタールを添加したタールポリウレタンは防水材としてビルの屋上、屋根の防水塗装に使われます。接着剤としては、多層フィルムの製造、ポリウレタンフォームの接着、靴・履物の接着など、ポリウレタンの弾性を生かした接着用途につかわれています。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。