化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長

5-4 ポリ塩化ビニル

ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。ポリ塩化ビニルは密度が1.4g/㎤で、ポリプロピレンやポリエチレンとは逆に最も重いプラスチックです。ポリスチレンと同様に側鎖に塩素基という大きな官能基が付いているため結晶性でなく透明な硬いプラスチックです。ガラス転移点が70~80℃、融点が約170℃ですが、70℃程度で軟化し120~150℃程度で成形可能です。190℃以上では分解して塩化水素を発生しやすいので成形温度には注意が必要です。ポリエチレンやポリスチレンに比べて射出成形がやや難しく、成形加工法としては押出成形やカレンダー加工、積層成形が良く使われます。またペースト状にして塗布加工する方法も他のプラスチックにはない成形加工法です。ポリ塩化ビニルは熱ばかりでなく光によっても塩化水素を発生して分解し、黄変などの着色を起こしやすいので、金属石けんなどの安定剤を成形加工する前に少量加えます。そのような処理をしたポリ塩化ビニル成形加工品は耐候性に優れたプラスチック製品になります。

ポリ塩化ビニルは硬質品と軟質品の二通りの使われ方をします。プラスチックの中では珍しい使われ方ですが、これによってポリ塩化ビニルは非常に広い用途を持っています。

電線その他用も軟質用途と考えられる

硬質品はポリ塩化ビニルをそのまま成形加工する使い方です。ポリ塩化ビニルの硬く、耐薬品性、耐候性に優れた性能を活用してパイプ・継ぎ手(上水配管、下水配管、排気管)、建材(樋、平板、波板、結露の少ない窓サッシなど)に広く使われます。ポリ塩化ビニルは塩素を含むためにプラスチックの中では燃えにくい部類に属すので建材に適しています。まったく一般の人の目につくことがない重要な用途として、ダムやトンネルなど大型コンクリート構造物に埋め込まれる止水板があります。また、以前はボトルやたまごパックなどにもよく使われましたが、最近はPET樹脂にこれら用途を奪われました。硬質品は硬い半面もろい欠点があります。これを補うために耐衝撃性付与剤としてMBS樹脂(MMA、ブタジエン、スチレンのコポリマー)や塩素化ポリエチレンなどを5~10%加えることもしばしば行われます。

軟質品はポリ塩化ビニル100部に対して可塑剤を40~100部加えて製造します。可塑剤は4-3で紹介していますが、高分子を溶解する高沸点の溶剤です。フタル酸エステル(DOPやDIDP)がもっとも多く使われますが、脂肪酸エステル(アジピン酸エステル、セバチン酸エステル)は食品用や耐寒用に、また難燃用にはリン酸エステル(TCP、TOP)が使われます。軟質品は高分子が可塑剤に溶解した状態なので成形加工しやすく、軟らかな製品ができあがります。代表的な軟質成形品は農業用ハウスに使われる透明なフィルムです。もっと薄いフィルムはラップフィルムとしてスーパーで大量に使われています。ポリエチレンラップフィルムに比較すると密着性、耐熱性に優れています。家庭ではポリ塩化ビニリデン製ラップフィルムが多く使われています。ポリ塩化ビニリデンの方が、ポリ塩化ビニルよりも密着性、耐熱性、酸素や水蒸気の透過しにくさに優れています。しかし、ポリ塩化ビニリデンはポリ塩化ビニルに比べて高価なのでスーパーなどの業務用には圧倒的にポリ塩化ビニルのラップフィルムが使われています。そのほか軟質塩化ビニルは遮水シートのような土木用途から文具・玩具・医療など幅広い用途に使われています。

軟質品には他の材料を被覆した成形加工品も多くあります。金属を被覆したものとしては電線被覆や塩ビ鋼板があります。また、織布や不織布、紙などを被覆したものとしては合成皮革(ソファー、かばん、靴、ベルト、衣服など)、ターポリン(防水布)・養生シート、ホース、床材、壁紙などがあります。

このようにポリ塩化ビニルは非常に幅広い用途を持っています。2016年にで需要を産業別に整理しますと建築・土木や工場設備の用途が圧倒的に大きく占めていることが分かります。ポリ塩化ビニルは、以前はごみ焼却場で塩化水素や塩素を発生し、さらにダイオキシンを生み出す厄介者の扱いを受け、消費者団体などから目の敵にされたことがあります。現在ではごみ焼却場の燃焼方法の改善や廃ガス処理装置の整備によってそのようなことはなくなりました。ポリ塩化ビニルは使い捨て用途よりも、長く使われる用途が圧倒的に大きく、私たちの生活を支えている縁の下の力持ちのプラスチックなのです。

ポリ塩化ビニルの産業別需要割合(2016年)

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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