化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長

5-3 スチレン系樹脂

スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。また、ポリスチレンには、汎用ポリスチレンGP、耐衝撃性ポリスチレンHI、発泡用ポリスチレンFSがあります。このほかスチレンとブタジエンから成るコポリマーにはいくつかの製品があります。スチレンブタジエンゴムSBRは5-12汎用合成ゴムで、スチレンブタジエンブロックコポリマーSBS、スチレンイソプレンブロックコポリマーSISなどスチレン系熱可塑性ゴムは5-14その他の高分子材料で説明します。

主要なポリスチレン系樹脂

スチレンはエチレンやプロピレンに比較すると非常に重合しやすい常温で液体の炭化水素です。エチレンとベンゼンを原料に、石油化学工場で大量に生産される比較的安価なモノマーです。汎用ポリスチレンGPはスチレンだけを重合させた高分子です。図に示すように炭素鎖(-CH-CH2-のつながり)に大きなベンゼン環がぶら下がっているので、ポリエチレンやポリプロピレンと異なり非晶性です。GPはガラス転移点が80℃から100℃、融点が140℃の透明な硬い樹脂です。ポリプロピレンに比べて耐熱性が劣り熱湯に耐えませんが、透明性は著しく勝ります。成形加工性がよく、射出成形品は電器製品のケーシング(筐体)、台所用品、容器、プラモデルに、押出成形品はシートを経てスーパーで使われる食品用トレーに広く使われています。

分子構造

GPの欠点は耐衝撃性が低いことです。GP成形品を落としたり、他の硬いものにぶつけてしまったりすると、割れたり、欠けてしまったりする経験をされたことがあると思います。この欠点を改良するためにSBRやブタジエンゴムBR(5-12参照)をポリスチレンにグラフト重合させた合成樹脂が耐衝撃性ポリスチレンHIです。ポリスチレンの骨格にSBRやBRを枝状に伸ばした分子構造をしています。このように枝を伸ばさせる重合法をグラフト重合と言います。よく見かける乳酸飲料の小型容器がHIの成形品です。つぶしても割れにくくなっています。HI製の食品トレーもよく見かけます。半面、HIはGPの長所であった透明性が失われ半透明になります。同じ半透明でも5-1で述べたHDPEや5-2で述べたPPに比べてかなり不透明に近い状態です。

一方、スチレンにアクリロニトリルを共重合させた高分子がAS樹脂です。GPより耐衝撃性が向上し、しかもGPと同等の透明性が保たれます。AS樹脂はGPと同じ用途に使われます。歯ブラシの柄、使い捨てライター容器、カセットテープやCD・DVDの容器、扇風機の羽根など、硬くて透明な成形品によく使われています。

HIとASの両方を兼ね備えた高分子がABS樹脂です。ABS樹脂は5-2ポリプロピレンのブロックコポリマーで述べた構造と同じくゴム層とAS層に分かれたミクロ構造をしており、GPに比べて耐衝撃性が著しく改善されています。しかも成形加工性がよいので射出成形品として電気器具、機械部品、車両部品、雑貨に広く使われ、大型テレビの筐体のような大きな成形品にも使われます。ただしABS樹脂の欠点はHIと同じく透明性がないことです。テレビやパソコンの筐体に見るように必ず着色して使われます。

発泡用ポリスチレンは、ポリスチレンにブタンガスなどを混合したビーズ(粒状)です。押出成形すると発泡ポリスチレンのシート(スチレンペーパー)になり、2次加工して食品用トレーとして大量に使われています。射出成形すると数倍から百倍近い高倍率まで様々なポリスチレン発泡成形品をつくることができます。この発泡体は独立気泡から成るので断熱性、遮音性に優れ、冷凍容器、お風呂、建築などの断熱材や遮音材として使われます。また発泡体の柔らかさと著しい軽量性を生かして包装材、魚箱や緩衝材に、また、ブイや水泳練習用の浮揚材に使われます。発泡体は見た目には柔らかですが、泡の薄い壁をつくっているポリスチレンは本来硬い高分子であり、しかも独立気泡なので、板状やブロック状の発泡体は耐圧縮性を持ちます。この特徴を生かして畳の芯に広く使われています。これは畳のわら不足を補うとともに畳の軽量化、遮音性向上にも大きく貢献しています。さらに発泡スチロール土木工法が開発され、高速道路の盛土基礎や軟弱地盤の改良などの土木用途にも使われるようになりました。ポリスチレン発泡体の軽量性、耐水性、耐圧縮性を生かした用途です。

ポリスチレンはプラスチックの中でもマテリアルリサイクルが進んでいます。特にポリスチレン発泡体は廃棄されると海岸、河川敷を汚し、目立ちます。半面、ポリスチレン発泡体は誰でも簡単に判別できるので分別収集が行いやすいプラスチックです。プラスチック全体ではリサイクル率が8割強、そのうちサーマルリサイクル(ごみ焼却炉で燃焼後、熱を有効利用)がリサイクルの約7割を占めるのに対して、ポリスチレン発泡体のリサイクルではリサイクル率が90%である上に、マテリアルリサイクルが6割、サーマルリサイクルが3割とマテリアルリサイクルが著しく多くなっています。(プラスチック循環利用協会、発泡スチロール協会資料による)

執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

目次をもっと見る

『科学研究・開発用品』に関連するカテゴリ

『研究関連用品・実験用必需品』に関連するカテゴリ