化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第4章 高分子製品を理解するための基本

4-7 強度

金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。材料に力を加えた時に起こる変形に対する抵抗力(応力)が強度です。材料に加わる力には、引張り、圧縮、せん断の3種類があります。また抵抗力の指標にも引張り強さ、降伏強さ、衝撃強さなどいくつかの種類があります。

材料に引張り力を加えると図(応力―ひずみ曲線)のように最初は応力とひずみ(変形)が比例関係で変化します。力を抜けばひずみがなくなる弾性変形の領域です。力を強くしていくと直線から少しずつ外れ、もはや力を抜いてもひずみが完全になくなることはありません。降伏点と呼ばれ、塑性変形の始まりです。さらに力を加えると、ひずみがズルズルと大きくなるネッキングという現象が起きます。そして、さらに力を強めると最後には破断します。降伏点による強度の指標を降伏強さ、破断点による強度の指標を引張り強さと呼びます。材料の比較データとしては引張り強さが良く使われますが、実用上は外力によって機械部品や建築部品に塑性変形が残っては困るので、降伏強さが重要です。また、直線部~降伏点~破断点までの曲線に囲まれた図の斜線部の面積は、材料の破壊に要するエネルギーに相当するので粘り強さの指標になります。弾性変形する領域の直線部の傾きを弾性率と呼びます。

材料に応力が加わったときのひずみとの関係

様々な材料の引張り強さを見ると、高分子材料(プラスチック、ゴム)は、それほど強い材料とは言えません。シリコーンゴムや低密度ポリエチレンのような非常に弱い材料から、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミドのような相当に強い材料まで様々な高分子があります。それに加えて、ガラス繊維や炭素繊維などの充填材を加えると、それほど高価なプラスチックでなくても強さを数倍上げることができます。引張り強さは同じ体積当たりの材料の強さを比較していますが、航空機のように同じ重量当たりの材料の強さの比較(軽くて強い材料)が重要となる利用分野もあります。この場合は引張り強さを比重で割った比強度(比抗張力)という指標が使われます。比重が小さいプラスチック材料は比強度では鉄鋼などの金属材料に匹敵するものになり、とくに炭素繊維強化プラスチックではジュラルミンやマグネシウム合金を凌ぐ強さを発揮します。

様々な材料の引張り強さ

ガラス、セラミックスのような材料は圧縮強さが高いのに対して、引張り強さが極度に低いという、材料に加わる力の種類によって強さの極端な偏りがあります。高分子材料ではそれほど大きな偏りはありません。

弾性率は外力によって材料が弾性変形しやすいか否かの指標なので、強さというよりも軟らかさ・硬さの指標といえます。ゴムの弾性率は多くの材料の中でも極端に低く、これがゴムの大きな特徴となっています。プラスチックも、多くの材料の中では弾性率が低い部類に入りますが、引張り強さと同様にガラス繊維など充填材が加わると、弾性率も大きく上がります。ただし、表面硬さという点では高分子材料は金属やガラスに比べて大きく劣ります。最も表面硬さの高い高分子材料はメラミン樹脂で、テーブルやこたつ板の表面装飾によく使われます。最近はメラミン樹脂発泡体(メラミンスポンジ)による“汚れ落とし”が売られていますが、これもメラミン樹脂の表面硬さを利用して発明された商品です。ガラス繊維強化ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、AS樹脂などがメラミン樹脂に次いで表面硬さの大きいプラスチックです。

最初の図で示した応力-ひずみ曲線は、高分子材料の種類によっては必ずしもこの形のとおりになりません。その形によって、高分子材料を次のように大きく特徴づけて区分することができます。ただし、ここで言う“硬い”“軟らかい”などは高分子材料の中での比較であり、金属など他の材料との比較で述べている言葉ではない点にご注意ください。

  1. 弾性率が大きい(最初の直線部の傾きが大きい)割に降伏点以前で破断してしまい、破壊に要するエネルギーが小さい“硬くてもろい”高分子:ポリスチレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂
  2. 同じく弾性率が大きく、引張り強さも大きいものの降伏点付近で破断し、破壊に要するエネルギーが中程度の“硬くて強い”高分子:硬質塩化ビニル樹脂、AS樹脂
  3. 弾性率が小さく降伏強さも小さい割に伸びて引張り強さが中程度になる“軟らかくて粘り強い”高分子:軟質塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン
  4. 弾性率が大きく降伏強さも高く、しかも伸びも、引張り強さも大きく、破壊に要するエネルギーも大きい“硬くて粘り強い”高分子:ABS樹脂や様々なエンジニアリングプラスチック
  5. 弾性率が極端に小さく伸びも非常に大きいが、引張り強さは小さい“軟らかくて大きく伸びる”高分子:様々なゴム
執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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