化学製品・高分子製品の基礎講座
4-4 ゴム薬品
4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。前者を熱可塑性ゴム、後者を加硫ゴム、架橋ゴムと言います。前者には、もっぱら4-3で述べた樹脂添加剤が使われるのに対して、後者にはここで述べるゴム薬品が使われます。
天然ゴムや多くの合成ゴムは、硫黄や架橋剤と言われるゴム薬品を成形加工前に加えてよく練り、比較的低温で成形加工した後に、120~170℃、数分から数時間加熱してはじめて安定した弾性のあるゴム製品がつくられます。天然ゴムは、1492年にコロンブスがアメリカ大陸を見つけた時に欧州にもたらされました。しかし、1839年にチャールズ・グッドイヤーが加硫現象を発見するまでの約350年間、天然ゴムは満足な性能のある材料として使えませんでした。加硫によって、図のようにゴム分子(図では天然ゴムや多くの合成ゴムに使われるジエン系ゴムの代表としてブタジエンゴムを例示)と硫黄が反応し、共有結合が形成されます。この共有結合によって、伸ばしても柔らかなゴム分子が伸びるだけで、ゴム分子同士がずれてしまうことがなくなり、力を抜けば元の形に戻ることができるようになります。ジエン系ゴムのすべての二重結合を反応させるわけではありません。共有結合を増やしすぎると、熱硬化性プラスチックと同じ構造になり弾性が失われます。半面、二重結合が多数残ることがゴムの老化という問題の主要な原因になります。

天然ゴム、合成ゴムは、熱可塑性プラスチック(4-5参照)に比べて成形加工しにくい材料です。しかも、上記の加硫と言う時間のかかる工程が不可欠です。このため、ゴムの成形加工には、充填材・補強材、発泡剤、離型剤などプラスチックの成形加工と同じような添加剤が使われるほか、ゴム特有の薬品も使われます。その代表例がすでに述べた硫黄のような加硫剤・架橋剤です。
代表的なゴム薬品
種類 | 働き | 製品 |
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加硫剤・架橋剤 | 高分子同士を架橋し、ゴム弾性を発現 | イオウ、パーオキサイド架橋剤(QO,BOQ) |
加硫促進剤 | 加硫時間を大幅短縮 | 多彩/アルデヒドアミン系、グアニジン系、チオウレア系など |
スコーチ防止剤 | 加硫前の加工中の早期加硫を防止 | Nーニトロソジフェニルアミン、無水フタル酸、Nーシクロヘキシルチオフタルアミド |
素練り促進剤 | 素練り中の分子鎖切断を促進 | ベンズアミド系 |
軟化剤・可塑剤 | 混錬り中の配合剤の分散促進、架橋後のゴム製品の弾性改善 | アジピン酸ポリエステル系、アルキルスルホン酸エステル系、エーテル系 |
滑剤 | 成形加工時におけるゴムの流動性向上 | パラフィンワックス、ペンタエリルリオールステアリン酸、炭酸Caの混合 |
補強材・充填材 | ゴム製品の強度向上、性能改善 | カーボンブラック、ホワイトカーボン(含水シリカ)、カオリン、タルク、亜鉛華繊維・コード(合成繊維、スチール)、布 |
粘着付与剤 | ゴムと布や金属との貼り合わせを改善 | レゾルシンホルムアルデヒド樹脂 |
カップリング剤 | 補強材・充填材とゴム分子を化学的に結合 | シラン系、チタン系、アルミネート系 |
発泡剤 | ゴムの発泡製品をつくる | アゾジカルボンアミド、オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド) |
老化防止剤 | 熱、光、外力、オゾンなどによるラジカルを除去 | 多彩/芳香族第2級アミン系、フェノール系、硫黄化合物など |
加硫・架橋に関連したゴム薬品には、加硫剤・架橋剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤があります。加硫剤としては硫黄のほかに硫黄化合物が使われることもあります。また架橋剤には数種類ありますが、パーオキサイド架橋剤がもっともよく使われます。パーオキサイド架橋剤は、加熱によって酸素ラジカルを発生させ、ゴム分子同士を炭素-炭素結合によって架橋します。ジエン系合成ゴムはもちろん、ジエンを持たない合成ゴムの架橋にも使えます。加硫・架橋反応には多くの時間がかかるので、この時間の短縮と低温での実施のために非常に多くの加硫促進剤が開発されてきました。一方、加硫工程の前にある混練り工程や成形工程では、ゴムに機械的な力が加わるために温度が上昇します。この際に加硫反応が勝手に起きては困るので、早期加硫を防止するためスコーチ防止剤と呼ばれるゴム薬品が使われます。
ゴムは成形加工しにくい材料なので、この改善のためのゴム薬品も開発されています。天然ゴムは非常に分子量が高く加工しにくいので、ゴムに多くのゴム薬品を加える前に素練り工程で分子を切断し、分子量を下げます。この際には素練り促進剤が使われます。次に補強材・充填材、加硫剤などの配合剤(ゴム薬品)が加えられ、よく混合する混練り工程があります。この際に配合剤の分散促進のために軟化剤が使われます。混練り工程の次にゴム製品の形をつくる成形工程があります。成形工程でのゴムの流動性を高めるために滑剤を混練り工程で加えておきます。
タイヤやベルトのような力のかかるゴム製品には、大量の充填材・補強材がゴムに加えられています。このうち、カーボンブラックはゴム分子と結合してゴムの強度を著しく高めることが古くから知られており、現在でも大量に使われています。ホワイトカーボンは、省エネタイヤ作成のために最近よく使われるようになりました。カーボンブラックと違ってホワイトカーボンはゴム分子との結合力が弱いので、この点を改善するためにカップリング剤が使われ、ホワイトカーボンの表面性能を改善します。またタイヤやベルトには、スチールコードや合成繊維コード、布などが補強材として大量に使われます。その際に、ゴムと補強材の接着強度を高めるため粘着付与剤が使われます。タイヤ用に使われるレゾルシンホルムアルデヒド樹脂は有名です。
輪ゴムを伸ばしたままで放置すると、比較的短時間でゴム弾性を失って、硬くなったり、べとべとになったりする現象を良く経験します。ゴムの老化という問題です。多くのゴムは、熱や光、外力によって高分子鎖が切断されやすく、またオゾン、酸素との反応も起きます。これによってゴム材料の中にラジカルが発生すると、連鎖反応が起きてゴム分子の老化が急速に進みます。このラジカルをとらえる薬品が老化防止剤です。老化防止剤には、加硫促進剤と同様に非常に多数の種類がありますが、芳香族アミン系とフェノール系が代表的な薬品です。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。