化学製品・高分子製品の基礎講座

私たちは、あらゆるところで多種多様な「化学製品」に囲まれています。 それらの化学製品、あるいは化学物質について、知っておくべきこととは何か。 本連載では、製品の成分や仕様説明に記載されている化学物質、高分子材料について理解できるよう、 化学製品の基礎知識をご紹介していきます。
第3章 化学製品の基本

3-4 塗料の特徴と分類

塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。通常、塗膜の厚さは一回塗り当たり数十ミクロンです。塗膜は、モノの表面に長期間にわたって密着するとともに、太陽光(とくに紫外線)、水、酸素、温度変化、外力などによって簡単には劣化したり、ひび割れたりしないことが求められます。

塗料は、次の図に示すように、塗膜形成樹脂(油性塗料のように油の場合もありますが)、溶剤、添加剤、顔料から成ります。塗料には塗膜形成樹脂が必須です。塗膜形成樹脂は塗膜の基本的な性能(密着性、寿命、硬さなど)を基本的に決めます。溶剤、添加剤、顔料は、塗料の種類に応じて含まれないものもあります。 顔料を含まない塗料は透明で、クリアとかワニスと呼ばれます。木材の木目の美しさを生かしたり、塗装の最終仕上げをしたりする場合に使われます。顔料を含む塗料は一般にエナメルと呼ばれます。下地の色を隠蔽し、新たな色や光沢を与えるために使われます。

塗料の構成

塗料は色々な視点から分類されるので、多くの種類があります。このため、モノタロウの商品を見ても選択に迷うと思います。選択に当たって参考になる塗料の種類の基本知識を説明します。

塗装は一回だけ厚く塗ればよいというものではありません。塗装工程から塗料は、次の図のように、下塗り塗料、中塗り塗料、上塗り塗料に分けられます。塗料は様々な素材を塗る必要があります。金属やプラスチックは表面が均一平坦ですが、コンクリートや木材は表面に凹凸が多く、塗料を吸収し、また下地に湿気を含むこともあります。 同じ金属でも、さびやすい鉄は塗料が密着しやすいのに対して、アルミニウムは塗料の選択を誤ると密着性が悪くなります。プラスチックにも塗料を塗りやすいものと、ポリプロピレンのように非常に塗りにくいプラスチックがあります。 下塗り塗料は、様々な素材に密着し、しかも素材からの影響(塗料を吸収するとか、下地から水蒸気が出て塗膜に下から圧力をかけてくるとか、大きな凹凸があるなど)を遮断するために使われます。シーラー、プライマー、パテという名称を付けている塗料は下塗り塗料に属します。 下塗り塗料の上には中塗り塗料が塗られるので、塗料同士の相性も考えて選択する必要があります。硬い塗膜をつくる下塗り塗料を使うと、その上には硬い塗膜をつくる塗料でも、軟らかい塗膜をつくる塗料でも塗ることができます。 しかし、下塗り塗料として軟らかい塗膜をつくる塗料を使った場合には、上には軟らかい塗膜をつくる塗料しか選択できません。軟らかい塗膜は温度変化によって伸び縮みしやすく、下塗り塗料と中塗り塗料の間で密着性が悪化するためです。後で述べるエポキシ樹脂塗料は代表的な硬い塗膜をつくる下塗り塗料です。

中塗り塗料は、たとえば自動車の塗装では小石などによる傷つき防止のために使われます。また、サーフェイサーと呼ばれる表面を滑らかにし、つや消しをする塗料も中塗り塗料に属します。上塗り塗料は着色などによる美観を与えるばかりでなく、紫外線など外乱から塗膜全体を守る重要な役割ももっています。

  • 塗装工程
  • 下塗り塗料(シーラー、プライマー、パテ)
  • 中塗り塗料(サーフェイサー)
  • 上塗り塗料(トップコート)
  • 被塗装物
  • 鉄用
  • 非金属用
  • 木材用
  • コンクリート用
  • プラスチック用
  • その他用

形態から塗料には液状と粉状の2種類があります。粉状の粉体塗料は、一般にはあまり使う機会は少ないと思うので説明を省略します。液状塗料には、有機溶剤を使った溶剤系塗料と水を媒体とした水系塗料があります。水系塗料には水溶性樹脂を使った水性塗料と水に樹脂を乳化させたエマルション塗料がありますが、後者が主体です。 塗料業界、塗装業界では、2006年4月から実施されたVOC(揮発性有機化合物)規制(2-4 参照)が現在でも重要な課題です。この規制によって溶剤系塗料から水系塗料、粉体塗料への転換が図られていますが、製品性能面から転換はなかなか進まず、現在でも溶剤系塗料が過半を占めています。しかも、多くの水系塗料も有機溶剤を含んでいます。

形態 液状 溶剤系塗料
水系塗料 エマルション系塗料
水性塗料
粉状 粉体塗料

塗膜を形成する樹脂から分類した塗料の種類はたくさんあります。明治以前に日本や中国で盛んに塗料として使われた漆は不飽和結合を含む長い炭化水素側鎖をもつ2価フェノールの天然化合物です。 酸素と反応して酸化重合を起し、硬い塗膜をつくります。一方、油脂には亜麻仁油や桐油のように、不飽和脂肪酸をたくさん含む油があります。 これら油脂を使った塗料が油性塗料です。油性塗料は漆と同様に空気中の酸素と反応して酸化重合を起し、塗膜を形成します。漆が「乾く」(重合反応が進む)のに長い時間が必要であるように、油性塗料も「乾く」のに時間がかかります。 このため、あらかじめ加熱して重合をある程度進め、また触媒となる金属塩を添加することがあります。これをボイル油と言います。

20世紀に入って様々な合成樹脂がつくられるようになると、これを活用した多種類の塗料が生まれました。合成樹脂塗料は油性塗料に比べて早く「乾く」大きなメリットがあります。 合成樹脂には加熱すると溶融する熱可塑性樹脂と、高分子鎖間に三次元橋掛け構造が出来上がっているために加熱しても溶融しない熱硬化性樹脂があります。熱可塑性樹脂は、溶剤に溶かし、また水系エマルションにして塗料として使うことができます。溶剤や水が蒸発すると、残った熱可塑性樹脂が塗膜を形成します。 塗膜は樹脂の性質により、また可塑剤を加える程度によって、硬いものも、軟らかいものもできます。 これに対して、熱硬化性樹脂では橋掛け構造をつくる前の高分子を溶剤に溶かすか、エマルションにし、塗装して乾燥させる際に橋掛け反応を起こさせて三次元構造の熱硬化性樹脂の塗膜にします。一般に熱硬化性塗膜は硬くなりますが、硬いばかりではもろく、密着性が悪くなるので、分子構造を修正することによって硬さを調整します。

塗料の種類によって塗料の乾燥(硬化)方法が異なります。最も普通の塗料は、常温乾燥や常温硬化です。溶剤や水が常温で蒸発して塗膜を形成し、また油性塗料のように常温で橋掛け反応を起こして硬化します。これに対して、一部の熱硬化性樹脂塗料では高温で焼付け硬化が必要なものもあります。 特殊なものとしては、紫外線などによって硬化する塗料もあります。

硝化綿塗料(ラッカー)は最初につくられた合成樹脂塗料です。合成樹脂と言っても、天然高分子のセルロース(木材パルプなど)を原料にした硝化綿(ニトロセルロース)を使います。ラッカーは「乾き」が早く、しかも強い、光沢のある塗膜をつくるので現在でも使われています。 ビニル樹脂塗料は、塩化ビニル樹脂や酢酸ビニル樹脂を使った軟らかい塗膜をつくります。これらは、すべて常温乾燥塗料です。

アクリル樹脂は代表的な上塗り、中塗り塗料ですが、分子構造を変えることによって塗膜の硬軟、熱可塑性/熱硬化性、溶剤系/水性/エマルション/粉体などの形態を変えることができるので、非常にたくさんの種類があります。 しかも他の合成樹脂成分を化学的に一緒にしたアクリルウレタン樹脂、アクリルメラミン樹脂、アクリルシリコン樹脂などもあります。常温乾燥の塗料も、焼付け硬化の塗料もあります。

ウレタン樹脂とエポキシ樹脂は、代表的な二液型塗料です。ウレタン樹脂塗料では、高分子鎖主剤のポリオールと硬化剤のジイソシアネートを塗装直前に混合します。エポキシ樹脂では、高分子鎖主剤のエポキシ化合物と硬化剤のポリアミン化合物を混合します。 二液の混合割合によって橋掛け構造の出来不出来が決まるので、規定通りに行うことが重要です。二液混合の煩雑さを避けるために分子構造を工夫した一液型の製品もあります。

アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料は、アクリル樹脂塗料やエポキシ樹脂塗料に比べると歴史が古く、第二次世界大戦前から使われてきた塗料です。建築、金属構造物、車両などの防食塗料として今でもよく使われます。 フッ素樹脂塗料やシリコン樹脂塗料は、耐候性に優れるので橋梁や航空機などの上塗り塗料の最上層に塗る塗料として少量使われます。エポキシ樹脂塗料や一部のアルキド樹脂塗料が下塗り塗料として使われるのに対して、ポリエステル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料は、中塗り塗料、上塗り塗料として使われます。

塗膜形成樹脂
油性塗料 硝化綿樹脂 ビニル樹脂 アクリル樹脂
アルキド樹脂 アミノアルキド樹脂 ポリエステル樹脂 ウレタン樹脂
エポキシ樹脂 フッ素樹脂 その他
執筆: 日本化学会フェロー 田島 慶三

『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次

第1章 化学製品を理解するための基本

第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制

第3章 化学製品の基本

第4章 高分子製品を理解するための基本

第5章 主要な高分子材料の種類と特長

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