溶接の基礎講座
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
1-1 接合方法の種類について
ものづくりにおける組み立て手段としての接合方法には、締結部品であるボルトやリベットなどを利用して接合される機械的接合法、溶接やろう付けなどの金属材料の持つ特性を利用して接合する冶金的接合法、そして各種接着剤を利用する接着剤接合法があります。接合を利用して効率的なものづくりを行いたい場合、「どの接合法を選択するか」、「どの接合法を組み合わせると効果的か」などを考える上で、それぞれ接合法の利点、欠点を熟知しておくことが非常に重要となります。
エジプトのピラミッドから発掘された王冠では、装飾品を鎖状につなげたり、鎖の輪の始端終端をつなげるなどの接合手法が利用されていました。
さらに、2枚の重ねた板に貫通する穴をあけ、この穴に同種もしくは異種の金属棒を通して両端をつぶして接合するリベット的な方法も利用されています。その後、リベット的な締結部品にネジの機能を付加したボルトナット接合など機械的接合法と呼ばれる接合法が広く利用されています。
この機械的接合法の利点と欠点をまとめると表1-1のようになります。
表1-1 機械的接合法の利点と欠点
機械的接合方法の特徴 | 利点 | 1.簡便な工具で容易に組み立て解体することができる |
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2. 信頼性の高い接合ができる | ||
3. 破断が生じたとしても接合部で進展が防げる | ||
欠点 | 1.信頼性の高い接合を得るには多数の部品や加工が必要となり、工数が多くなり製作日数やコストがかかる | |
2. 継手が重ね継手ちなることや接合部品により製品重量が重くなる |
人類が金属を使い始めたメソポタミア時代から、部材と部品の間に溶けた金属を流し込んで接合するハンダ付けと同様の手法で立体的な金属装飾品を作り上げていました。また、我が国においても、日本刀や包丁など刃物の製作では、薄い2枚の板状材料の間に刃となる固い金属を挟み込んで加熱し、ハンマーで叩いて一体の材料にする鍛接(圧接)と呼ばれる接合手法などでも使われています。さらに、接合する金属を局部的に溶かして接合する溶接のような方法も利用されています。
これらの接合法は、次の項に示す「金属の成り立ち」そのものを利用することから冶金的接合法と呼ばれ、その利点と欠点をまとまると表1-2のようになります。
表1-2 冶金的接合法の利点と欠点
冶金的接合法の特徴 | 利点 | 1. 継手の形状が簡単でしかも自由度が高い |
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2. 短時間で固定でき、極めて簡便に接合できる | ||
3. 継手効率が高く、気密・水密性が容易に得られる | ||
4. 製品重量が低減でき、組み立ての工数も減らせる | ||
欠点 | 1. ひずみや残留応力を発生し、寸法精度の維持がむつかしい | |
2. 溶接による特有の欠陥を発生することがある | ||
3. 解体がむつかしく、破断が生じると止めることがむつかしい | ||
4. 製品全体からみると、機械的性質や形状の不連続を発生する |
家庭などで広く利用されている接着剤を用いる接合法も、最近では高強度接着剤の開発などにより工業製品の接合にも広く利用されるようになっています。特に、表1-3中に示した金属と非金属の組み合わせ接合や機密性が得られやすい特徴を活かしたシールをかねた接合に効果的に用いられています。ただ、接合状態が得られるのに時間がかかるなどの欠点もあります(接合部の加熱処理や2剤の混合による反応熱の利用、さらには後に示すスポット溶接との複合接合の利用などで改善されています)。
表1-3 接着剤接合法の利点と欠点
接着剤接合法の特徴 | 利点 | 1. ほとんどの材料ならびにそれらの異材で接合ができる |
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2. 素材の性質や形状を変化させない | ||
3. 気密・水密性が得られやすく、製品の外観品質も良い | ||
4. 電気的・熱的な絶縁効果が得られやすい | ||
欠点 | 1. 固定するのに時間がかかる | |
2. 継手の耐熱性に限界がある | ||
3. 継手の信頼性や耐用年数に関するデータが少ない |
図1-1は、板金製品での各部材の組み立て状態を示すもので、絶対的な固定が必要な部分には溶接が、組み立て中に調整が必要な部分はボルトナット接合が使用されています。こうした接合法の使い分けの明確な事例の1つが、「簡単な方法で容易に解体できる」といった機械的接合法の大きな利点に着目したリサイクル性に配慮したものづくりです。この場合、同質材の組み合わせ部品などは溶接で一体化したとしても部品あるいは素材としてのリサイクル性は確保できます。一方、異材組み合わせの部品を溶接で一体化してしまうと、部品としてのリサイクルは可能ですが素材リサイクルの面では不都合となり、こうした場合には機械的接合が有効となります。

図1-1 板金製品での各部材の組み立て状態
複合接合とは、1つの接合部に複数の接合法を利用する方法で、①機械的なボルト接合での「ゆるみ止め」のため、接着剤や溶接で止める手法、②スポット溶接や機械的接合による接合部の気密性を得るため、シール材として接着剤も使用する手法、③接合状態が得られるのに時間がかかる接着剤接合に、瞬間的に固定できるスポット溶接を併用する手法、などの考え方です。こうした複合接合の手法では、目的とする接合結果が得られやすくなるとともに、接合部強度が、最終的な製品強度はスポット溶接部や機械的接合部品によって決まるものの、これらの部分が破断し始めるまでは接着材接合部で食い止められることで疲労強度の改善できることが確認されています。
このように、「1つの材料や技術、加工方法で目的とする製品の機能が得られない場合、互いの長所を活かし欠点を補い合う複数の材料や技術、加工方法を組み合わせて利用する複合化」の考え方は、日々のものづくり現場で、「ちょっとした発想の転換や工夫」で活用でき、思わぬ効果が得られことがあります。このような複合化の工夫は、複合接合法で示したように「各接合法の長所欠点といった基本事項を良く認識し、活用できるようにしておくこと」が非常に重要となるのです。
『溶接の基礎講座』の目次
第1章 溶接の基礎
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1-1接合方法の種類についてものづくりにおける組み立て手段としての接合方法には、締結部品であるボルトやリベットなどを利用して接合される機械的接合法、溶接やろう付けなどの金属材料の持つ特性を利用して接合する冶金的接合法、そして各種接着剤を利用する接着剤接合法があります。
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1-2金属材料の成り立ちと特性溶接は、2つの金属を加熱して溶かし、その後冷却して固めることで2つの材料を接合、一つの部材にします。
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1-3溶接の接合メカニズム金属を加熱すると、材料は熱膨張で長くなります。
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1-4ひずみが発生する原因とひずみ取り溶接組み立て品の寸法精度不良は、溶接によって発生する変形(溶接ひずみ)や溶接時のセッティング不良などが原因となります。
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1-5ひずみ対策と製品の高精度化溶接によるひずみの発生は、材料や製品形状、部材としての加工状態などによって個々に違います。
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1-6溶接作業における安全対策ガスやアークなど高温の熱源を使用し、金属が溶ける温度状態で切断や溶接の作業を行う場合の共通的な安全上の問題として、①高温の熱源から放出される赤外線や紫外線による目や皮膚の障害
第2章 溶接方法と溶接材料
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2-1ガス溶接とガス切断ボンベに充てんされたプロパンやアセチレンなどの可燃性ガスと酸素を混合して燃焼させ、得られる高温のガス炎は、金属を溶かして接合、溶断(金属を溶かして切断することから溶断と呼びます)するのに利用されます。
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2-2溶接用熱源としてのアークについて一般に最も広く利用されている溶接の熱源が、「アーク」です。アークは、その形状や電流、電圧条件を変化させることで、目的の溶接に見合った熱源に容易に制御できます。こうしたことから、アークは、幅広い材料や製品の溶接に利用されるのです。
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2-3TIG溶接と溶接装置の設定作業ティグ(TIG)溶接は、融点の高いタングステン電極と母材との間にアークを発生させ、このアークで溶かした金属をアルゴンなどの不活性ガスで保護しながら溶接します。
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2-4TIG溶接トーチ、タングステン電極の設定TIG溶接における溶接トーチ、タングステン電極は、その取り扱いにより作業性や溶接品質が強く影響されます。したがって、その取り扱いや設定には、十分な注意と確認が必要です。
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2-5TIGパルス溶接についてTIG溶接は、溶接部の冶金的な特性や溶け込み特性の両面で高品質の溶接結果が得られやすく、近年、各種材料の溶接に広く利用されています。
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2-6TIG溶接における溶接棒の添加作業TIG溶接による開先内肉盛り溶接などでは、作業者は、熱源と切り離された溶接棒をプールに挿入して棒の先端部を溶融させ溶着金属を形成させます。
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2-7半自動アーク溶接とその溶接半自動アーク溶接は、0.4~1.6mmといった細い径のワイヤをモーターで自動的に送り出す溶接法の総称です。
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2-8半自動溶接でのシールドガス及び溶接ワイヤの選択ミグ(MIG)、マグ(MAG)溶接など細径ワイヤを自動的に送給しアークやプールをシールドガスで保護する半自動アーク溶接では、使用するワイヤとシールドガス、 溶接条件によってワイヤ先端に形成されるワイヤ溶融金属が母材プールに移行していく現象(以後、移行現象と呼びます)などが変化し、使用できる作業も変化します。
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2-9半自動アーク溶接の設定条件半自動アーク溶接における溶接条件の設定は、一般的な溶接条件表を頼るような方法は余り推奨できません。
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2-10半自動アーク溶接でのトーチ保持角の設定半自動アーク溶接では、設定した電圧(アーク長さ)条件はほぼ一定に保たれます。
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2-11各種姿勢での半自動アーク溶接作業電極材料であるワイヤの溶ける量が多い半自動アーク溶接では、溶接姿勢によりプールの溶融金属の挙動が変化するため、姿勢に合わせ溶接条件の設定やトーチ操作を適正に行う必要があります。
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2-12ステンレス鋼のミグ、マグ溶接についてステンレス鋼の半自動溶接では、ソリッドワイヤ使用のミグ溶接とフラックスワイヤ使用のマグ溶接が利用できます。
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2-13アルミニウムのミグ溶接についてアルミニウム材料の高能率溶接は、ミグ半自動アーク溶接で可能となります。この溶接で比較的利用範囲の広い、小~中電流条件の溶接作業では、パルス電流制御の利用が推奨されます。
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2-14ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイントろう付け(ろう接)は、ハンダ付け作業で行うように母材となる銅線は溶かさず、この固体の銅線の間の隙間に低い温度で溶融するろう材(ハンダ)を液体状態にして流し込み接合する方法です。
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2-15トーチろう付け作業とアークろう付け作業人の作業状態がろう付け結果を左右する手動トーチろう付け作業では、(1)接合部の清浄及びフラックスの塗布、(2)接合部と周辺の均一加熱、(3)フラックスが溶融して活性状態となる適正ろう接温度で、ろう材添加、(4)接合面全体にろう材が均一に行きわたるための加熱操作、(5)適正ろう付け状態の確認と加熱の停止、ろう付け部の冷却、(6)残留フラックスの除去と接合部の清浄、の手順で作業を行います。
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2-16被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。
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2-17被覆アーク溶接棒の選び方被覆アーク溶接では、電極となる溶接棒が溶けて母材に移行し、母材の溶融した金属とともに溶接金属を形成することから基本的には母材の成分に近い成分の溶接棒を選びます(例えば、母材が軟鋼であれば軟鋼用棒、ステンレス鋼の場合はステンレス鋼用棒、銅の場合は銅用棒を選びます)。
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2-18アークの発生と安定維持作業被覆アーク溶接では、遮光用ヘルメットなどで顔を覆った真っ暗やみの中での作業となり、しかも溶接開始時のアークを発生させるための溶接棒と母材面との接触で発する「バチィ」の音、 まぶしいアーク光で驚き、次の動作に移れなくなります
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2-19各姿勢での被覆アーク溶接作業被覆アーク溶接による各姿勢での溶接作業においては、プール溶融金属の挙動に加え溶融スラグの挙動を考慮した条件設定、熱源操作が必要となります。
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2-20直流被覆アーク溶接について最近の小型・軽量化が進められた被覆アーク溶接機では、従来機に比べ低電流条件での使用が難しく、適用できる作業範囲がせばまる、などの問題点が指摘