工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 噴霧法 粉体塗料の塗り方

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-12 噴霧法 粉体塗料の塗り方

粉体塗料の塗り方

塗料メーカーは粉体塗料を平均粒径30-40μm に調製して、供給しています。液体塗料をこの程度の噴霧粒子にするためには空気霧化だけでは不十分で、遠心力で液体分子を引きちぎったりしなければなりません。粉体塗料は被塗物に均一に塗装され、加熱、流動して美粧性のある鏡面塗膜になることも必要です。そうなると、加熱、流動前の粉はできるだけ細かく、均一に並んで被塗物にくっついている必要があります。細かくすればするほど表面は活性になり、粉同士は凝集してしまいます。サラサラと流れる状態を維持しないと上手く塗装できません。初期粒径を安定に保つことは結構、難しいことですが、塗料メーカーはナノオーダー(1nm = 1/1000μm)の微粒子を微量添加し、空気を流しながら篩(ふるい)を通して、サラサラ状態を維持させています。このように粉体にとって、空気の流れはシンナーの役目を果たしています。

今回と次回は粉体塗料を塗装する方法について説明します。塗装法は圧倒的に図3-44に示すコロナ放電式の静電塗装が多く採用されています。原理的には液体塗料と同様ですが、液体塗料と粉体塗料を比較して大きく異なる点は、前回の図3-43に示すように、電気抵抗値は粉体の方が明らかに高いことです。なぜ、このように抵抗値が高いのかを考えてみます。

噴霧粒子の電荷量と電気抵抗値との関係

コロナ放電式静電粉体塗装の原理

液体、粉体にかかわらず、電気抵抗値が低いほど噴霧粒子の帯電量は増大し、液体塗料では塗着効率が向上することを前回の記事で示しました。液体塗料は塗着後に電荷を失っても粘着状態で付着しています。一方、粉体塗料の場合、帯電粒子は静電効果(クーロン力)のみで被塗物に付着し、付着後に電荷を失ったら被塗物から脱離(粉落ち)してしまいます。粒子の電気抵抗値が低いと被塗物(アース)を通じて短時間で電荷を失いやすく、付着状態を維持できなくなります。それゆえ電荷を保持できるように電気抵抗値を高くする必要があります。

塗料の電気抵抗値が高いから粉体塗料の帯電量を増大させるためには高電圧(-80kV ~ -100kV)を印加します。液体の場合は防爆上の理由から相対的に低い電圧(通常-30 ~ -60kV)で使用します。そうは言っても、電圧は-40kVが-80kVとなるようにせいぜい2倍程度しか変わりません。

 

コロナ放電式静電塗装法の原理

ガン先端にある尖った電極ピン(コロナ電極、あるいはコロナピン)に負の高電圧を印加し、ターゲットの導体をアースすると、静電感応現象で導体は正極になります。電圧を印加しながら、ガンに空気と粉体塗料を流すと、ピンに触れた中性の空気(絶縁体)が電子をもらって負電荷(マイナス)の空気イオンになります。ピンの形状はイオンの生成に大きな影響を与え、尖ったピンは多量に空気イオンを発生させます。これらのマイナスイオンは電気力線に乗って正極に向かって行きます。この途中で空気の流れの中にいる粉体(絶縁体)がマイナスイオンをキャッチすると帯電粒子になり、正極に向かって進みます。正極に到着するとクーロン力で付着します。粉体の電気抵抗値は高いのでキャッチしたマイナスイオンを離さずに持って居ます。これらの帯電粒子はクーロン力が作用する厚さまで堆積して、粉体層を形成します。一方、電気力線に乗って正極に向かっているのは圧倒的に空気のマイナスイオンです。このマイナスイオンのうち約5%が粉体に合体しますが、残りはマイナスイオンのままで存在し、正極を経由してアースに流れています。これらのマイナスイオンをフリーイオンと呼びます。実は、大量に存在するフリーイオンが粉体塗装の外観に大きな影響を与えます。次回に分かり易く説明します。

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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