塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第3章 いろいろな塗り方

3-7 電着法 電着塗装の原理

電着塗装の原理

電気化学をベースとする塗装法が電着塗装です。水の電気分解を理解すれば、電着塗装の原理がわかります。図3-28(a) に示す装置で、水の中に電解質(0.1MのNaOHや希酸など)を入れ、白金電極を直流電源に接続します。電圧を上げてゆくと電流値が上昇し、両極から泡がでてきます。これらの泡は気体の発生を示しており、図(b)に示すように、-極からは水素H2が、+極からは酸素O2が生成します。3)

水の電気分解

さて、電着塗料のカチオン樹脂は+イオンになって水に溶解しています。被塗物を-極にして、図3-29 に示すように直流電源につなぐと、+イオンの塗料粒子は-極に移動します。この現象を電気泳動と呼びます。-極の被塗物表面では水の電気分解も起こっており、OH-が生成し、アルカリ性になっています。Hは電極からe(電子)をもらって、H2ガスになります。同時に電気泳動で来た+イオンの塗料粒子(カチオン樹脂)はOH-と中和反応し、図(a)に示すように、-電極上で電荷をなくし、水に不溶となり、析出します。この現象を電気析出現象と呼びます。3)

カチオン電着塗料の塗膜形成モデル図

 

さらに通電していると、電気浸透という現象が生じます。図3-29(b)に示すように、+イオンの塗料粒子は導電性のある被塗物にさらに近づき、水が絞り出されて、たい積した塗料が融着します。電気析出時の中和反応で生成した水が塗料粒子層から抜けてゆき、その結果、被塗物のほぼ全面に塗料が付着します。

所定時間後、通電を止め、被塗物を取り出し、水洗して余分な塗料を取り除き、乾燥させます。その後、焼付けると、加熱により樹脂成分が流動し、多孔質な塗膜は連続相になり、防錆(ぼうせい)力を発揮します。

次に、電着時に流れる電流の様子を知りたくて簡単な実験を行いましたので、その様子を紹介します。2)図3-30に示す電着装置で、アクリル/メラミン樹脂をビヒクルとしたアニオン電着塗料をブリキ板に塗装しました。得られた電流値の変化を図3-31(a)に示します。回路に流れている電流の変化を電圧変化として記録計に取り出しました。ブリキ板は通電して約20秒後には電流値はほぼ0になりました。ブリキ板で電流値が0になったことは被塗物表面が絶縁体になったためであり、この後、電気浸透が進行するから30秒程度は通電した方がよいでしょう。

アニオン電着塗装試験装置

 

図3-31(a)で得られた電流I~時間t曲線の面積が電荷量Qになりますから、電荷量Qは膜厚に比例するはずです。そこで、Qと膜厚との関係を調べてみました。結果は図3-31(b)に示すように、両者間には良好な相関性が認められました。これより、電着塗装における膜厚管理はQの計測で可能であることがわかります。

電着塗装時の電流値の変化と膜厚

 

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

〔引用・参考文献〕
1)坪田実:“ココからはじめる塗装”、日刊工業新聞社、p.8-25(2010)
2)坪田実:“工業塗装入門”、日刊工業新聞社、p.12-13,29,31,34-35(2019)
3)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”,日刊工業新聞社,p.47,51,52,53,55-59,63,81,83(2008)
4)辻田隆広:“第60回塗料入門講座テキスト”,p.179(2019)
5)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社,p.8-24,102-104(2011)
6)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”,職業訓練教材研究会,p.92-100(2008)
7)坪田実:“塗料と塗装のトラブル対策”,日刊工業新聞社(2015)
8)坪田実:“塗料と塗装の基本と実際”,秀和システム(2016)
9)杉崎勝久:表面,Vol.53,No.5(2002)
10)石井均:表面技術,Vol.61,No.3(2010)
11)平澤秀公:色材協会関東支部平成28年度塗料講演会テキスト,p.33-39(2016)
12)職業能力開発総合大学校編:“塗料”,雇用問題研究会,p.115(2007)
13)坪田実:塗装技術,2007年9月号,p.111-119,理工出版社
14)日産自動車、静電塗装用塗料及び静電塗装方法、特開1997-235496
15)ランズバーグ社マイティロボットベル2カタログより
16)佐藤正之、佐賀井武:第4回液体の微粒化に関する講演会講演論文、p.49(1975)
17)塗料報知新聞社:“粉体塗装技術要覧第4版”,p.72(2013)
18)森田忠夫:色材,Vol.85,No.7,297(2012)
19)柳田建三:塗装工学、Vol.51.No.9,297-302(2016)
20)川上塗料(株)解説資料

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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