工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 自動車補修塗装工程について(3)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第2章 塗料と塗装のことはじめ

2-7 自動車補修塗装工程について(3)

前回は、工程Step 4(図2-11参照)のプラサフ塗装とその研磨について解説しました。その中で、ブツ除去時やパテ研磨時にできる小穴を見逃さないためのガイドコートの使い方を説明しました。ぶつ取りキット、当て木や当てゴムなどの研磨ブロックなどもモノタロウの通販サイトが取り扱っていますからご覧ください。

車体成形と補修塗装のフローチャート
図2-11 車体成形と補修塗装のフローチャート

今回は、吹付け塗装に必要なマスキング作業の進め方と、上塗りの実践、とくにブロック塗りとスポット塗りの進め方(図2-15参照)について解説します。

補修塗装の範囲
図2-15 補修塗装の範囲

質問(39)

前回の図2-39、2-41には、プライマーを塗る前に車体にはすでにマスキングされていますね。マスキング作業のKey pointについて説明してください。

答え(39)

プラサフ塗装のためのマスキング作業の手順とポイントを図2-44に示します。ここで取り上げたパテ成形部分はフェンダーの一部分ですから、プラサフはスポット塗装になります。必要な箇所のみ塗装するので、塗装しない部分をマスキングします。注意して見てもらいたい所は、図2-44 (4)に示す折り返しマスキングです。同一パーツ内ではこの方法を採用します。プラサフの塗装面積は、パテ成形面積の2倍以上を目安として、マスキング箇所を決めてください。

マスキング作業のポイント
図2-44 マスキング作業のポイント

 

質問(40)

折り返しマスキング方法のメリットはイラストで示すように、グラデーション効果を出せることにあると思いますが、実際はどうですか。

答え(40)

図2-45に示すように、点線で囲んだマスキング境界部の膜厚が境界線付近に近づくに伴い、次第に薄くなっているのが確認できます。よって、グラデーション効果が出ていることが分かります。

折り返しマスキングのメリット
図2-45 折り返しマスキングのメリット

 

質問(41)

図2-45(1)に示すのは塗装直後のプラサフ面で、図2-45(2)では、プラサフ面に褐色のラッカーパテが付いています。この経緯について説明してください。

答え(41)

塗装直後のプラサフ面は高光沢なので、巣穴や“ぶつ”の付着状況が良く分かります。“ぶつ”とは異物の付着で凸部を生じる現象です。ぶつはこの段階で除去しておかねばなりません。プラサフ面ならばP800程度の耐水研磨紙で水研ぎしながら除去してください。

もし、除去できない時には、最初に紹介したぶつ取りキットを使ってください。鋭いエッジの金属や砥石でぶつを除去しますが、除去後に傷や穴ができた時にはラッカーパテでしごき、P600程度で水研ぎし、仕上げてください。パテでしごくことを拾いパテとも呼びます。

図2-38、図2-43では、ガイドコートで異常を見つけ、パテでしごくと説明しましたが、図2-45のように、ガイドコート無しの目視で異常を見つけ、パテしごきをすることも良くあります。

 

質問(42)

次に、工程Step 5の上塗りについて、作業の進め方とKey pointを説明してください。

答え(42)

上塗りをブロック塗りすると言う方針です。

1)このフェンダー全面を足付け研磨する
2)プラサフ時のマスキングを全てはがす
3)車体に付着している水を除去する
4)上塗り用マスキングをする
5)上塗り塗料の調色・配合調整
6)上塗り

と言う順序になります。

主な作業のKey pointを図解しながら、述べて行きます。

(1)足付け、あるいは足付け研磨について

図2-46に示すように、プラサフ研磨面も含めたフェンダー全面を洗浄します。正常な旧塗膜に付着している油脂分や細かなゴミ・ブツを除去するのが目的ゆえ、台所用磨き粉(クレンザー)を付けて洗います。この作業を足付けと呼びます。モノタロウの通販サイトのウォッシュコンパウンドは足付け作業に適します。

上塗りをするための足付け作業
図2-46 上塗りをするための足付け作業

(2) 上塗り用マスキング作業について

作業手順を図2-47~48に示します。スプレーされた塗料粒子は車体内部に入り込むので、厳重にマスキングします。その様子を図2-47に示します。内部への経路を防いだ後は、図2-48に示すように、細かい所から、大きな箇所へと順にマスキングしますが、ドアミラーやタイヤなどは最後にします(図2-48参照)。

上塗りのためのマスキング作業-細部
図2-47 上塗りのためのマスキング作業-細部

上塗りのためのマスキング作業-外部
図2-48 上塗りのためのマスキング作業-外部

キングペーパーを主体に使用しますが、大きな箇所にはマスカーフィルムで覆って行きます。マスカーフィルムで検索すると、車両用クイックマスカーなるものもありますが、建築用途のものでも一向に構いません。マスキング完了時の様子を見てください。

(3)上塗り塗料の調色・配合

補修には調色作業を伴います。車体には新車時のカラーNo.が付いており、原色の配合を検索できます。調色と配合の1例を図2-49に示します。

上塗り用メタリック塗料の配合例
図2-49 上塗り用メタリック塗料の配合例(塗料はカンペレタンPG80)

計量は重量で行い、配合後に試し吹きをしている様子を図2-50に示します。

塗料の配合と脱脂の手順
図2-50 塗料の配合と脱脂の手順

補修では焼き付けることができないので、2液型ポリウレタン樹脂塗料を使用します。主剤・硬化剤・シンナーの配合割合が重量で表示されています。シンナーは環境条件で適切な揮発速度を選びます。その使い方については、図1-21を参照してください。

シンナーによる結露の防止対策
図1-21 シンナーによる結露の防止対策

(4)上塗り塗装について

塗装前に脱脂剤で塗装面を洗浄します。図2-50(4) に示すように、両手にウエスを持ち、片方の脱脂剤をしみ込ませたウエスで塗装面を拭いた後、もう一方の手に持った清浄な乾いたウエスで拭き取って行きます。脱脂後、いよいよ塗装開始です。

通常、3回で仕上げます。ガンの運行の基本は被塗物の長手方向に動かす事です。図2-51のように、被塗物がフェンダーの場合、向かって左→右、右→左への往復運動になります。

上塗り-ブロック塗装の作業手順
図2-51 上塗り-ブロック塗装の作業手順

1回目は図2-51(2) に示すように、プラサフ面が透けて見えます。塗装後に図2-51(2) のように空気だけを塗装面に吹きかけながら、マスキング紙の付着塗料が指触乾燥になるのを待ちます。2回目の塗装でプラサフ面は完全に隠ぺいされましたが、隠ぺい力の小さな塗料は2回目の塗装でもプラサフ面が透けて見えるかも知れません。一度に厚塗りするのではなく、光沢のある塗装面になるように塗り重ねます。塗装間隔は指触乾燥時間です。

マスキング紙の付着塗料に指先をタッチしながら指触乾燥を確認します。3回目の終了時には、指触乾燥になるのを待って、図2-52に示すように、マスキングをはがします。

マスキングはがし作業
図2-52 マスキングはがし作業

 

質問(43)

ブロック塗装は決められたパーツを3回に分けて塗り重ねるだけで良いと理解できました。次に、スポット塗装の要点を説明してください。

答え(43)

スポット塗装は同一パーツの中でボカシ塗りを行う手法です。Key pointは噴霧した上塗り塗料粒子をドライミストとして残さず、吸収できる層を如何に確保するかです。著者は図2-53に示すように、グラデーション技法で塗布したレベリング材層が上塗りの塗料粒子を溶解する方法を採用しています。なお、レベリング材とは、揮発速度の遅いシンナーで過度に希釈したクリヤです。メーカによって、レベリング剤、ボカシ剤、ニゴリクリヤーなどと呼び方は異なっています。

上塗りスポット塗装のKey point
図2-53 上塗りスポット塗装のKey point

上塗りのスポット塗装作業を行う時のボカシ塗りのおおよその範囲を図2-54に、技能五輪国内大会「車体塗装」競技風景 の1コマを図2-55に示します。

スポット塗装のKey point -各領域の目安
図2-54 スポット塗装のKey point -各領域の目安

スポット塗装を行うための足付け作業の様子
図2-55 スポット塗装を行うための足付け作業の様子

執筆: 川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実
〔引用・参考文献〕
(1)坪田実:”ココからはじめる塗装“, 日刊工業新聞社, p.79, 94, 95, 96 (2010)
(2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.75, (2008)
(3)坪田実:“目で見てわかる塗装作業”,日刊工業新聞社、p.72-91, 122 (2011)
(4)職業能力開発総合大学校編:“木工塗装法”、職業訓練教材研究会、p.77 (2008)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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