工具の通販モノタロウ 塗料 塗料・塗装の何でも質問講座 白く見えるとはどんなこと

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第1章 塗料・塗膜の白化現象

1-1 白く見えるとはどんなこと

本連載では、塗料と塗装に関するいろいろな疑問を想定して、著者の方で質問と回答を作り、20回程度、連載する予定です。塗装の大きな目的は色彩の付与ですから、初めは色彩に関するテーマを選びました。 その後は、塗装時に起きるはじき現象、乾燥後に起きるしわ、割れ、はがれ現象について取り上げて行きます。共感して貰えることが一つでもあれば幸いです。

第1章 塗料・塗膜の白化現象

塗装面に現れる白化には水分が関与して、発生することが多々あります。まず、白く見えることはどんなことなの?と言う疑問から、基本的な色の見え方を解説します。次に、白化現象をいくつか紹介し、そのメカニズムを解析し、原因と対策について解説します。

1.1 白く見えるとはどんなこと

質問(1)

アクリルやPETフィルムは透明性が高いのに、これらを何枚も重ねて行くと白濁して行きます。重ねるとその度に空気が入って行きますね。 フィルムを重ねる時に界面をアルコールで湿らせると、透明感は復帰しますが、厚手フィルムの方が透明感があります。これらの現象を科学的に説明してください。

答え(1)

まず、基本的なことから学習しましょう。(1)物体の色は太陽光線の一部である図1-1に示す可視光(波長380-780nm)の吸収によって起こり、リンゴが赤く見えることは短波長側(380-600nm)の青~緑色をリンゴが吸収しているためです。 図1-2に示す色と分光反射率との関係図を理解してください。黒は可視光のほぼすべてを吸収しますが、白は吸収しません。 我々が見ているのは物体で散乱反射された光の色であり、白く見えることは、その物体が可視光を吸収していないことを示します。

図1-1 太陽光線の分光スペクトル

図1-1 太陽光線の分光スペクトル

図1-2 色を表す分光反射率曲線

図1-2 色を表す分光反射率曲線

プラスチックフィルム(ポリマーと略す)や水のような透明な物体と空気は可視光を吸収しないので、それらの物体からの反射光は白色です。フィルムを重ねるごとに何を含むのかと考えると、それは空気でしかありませんね。 では、空気層があるとどうして白くなるのかを考えてみましょう。 ここで、図1-3に示すモデルで、光の透過と反射を比べて見ましょう。 単一フィルムの空気側から入射した光の挙動図(a)と、空気層を含む2枚のフィルムの重なりに入射した光の挙動図(b)とを比較します。光は屈折率の異なる物質に入って行くたびに法則性を持って前進して行きますが、反射もします。 図(b)には光の経路に空気層があるので反射光が増え、白く見えると考えましょう。 図(c)のように、この空気層をアルコールに変えると透明になるのは、反射光が減るためでしょうね。少しずつですが、白く見える原理が理解できそうです。 キーポイントの一つは、光は屈折率の異なる界面で反射すること、そして可視光を吸収しない物体からの反射光は白色になることです。

  • (a)空気層がない時
  • (a)空気層がない時
  • (b)空気層がある時
  • (b)空気層がある時

  • (c)空気層がアルコールに変わった時
  • (c)空気層がアルコールに変わった時

図1-3 透明フィルムを重ねたときの反射光の強さ

次に、接触する2物体の屈折率差と反射光の強度との関係について考えましょう。これまでに登場した空気、水、エタノール、PET(ポリマー)の屈折率は順に、1.0、1.33、1.36、1.6です。 PETフィルムに対する空気または液体との屈折率差を見ると、液体の方が小さいことがわかります。屈折率差の大きい界面ほど反射光が増え、白くなったのです。

質問(2)

反射光の強さ(散乱能力と呼ぶ)は境界を有する2物体の屈折率差に関係すると理解できました。境界を有するとは具体的に境界面(界面と呼ぶ)が多いか少ないかで見た時、接触界面の面積の多い方が散乱能力は高いと判断して良いですね。

答え(2)

その通りです。図1-3の例は平滑表面なので接触面積は小さいと言えます。接触面積の大きい例として、白色の顔料粒子(屈折率の異なる2種を選択)を分散したエナメルを取り上げます。 顔料の入っていない透明塗料をクリヤ、顔料分散系塗料をエナメルと呼びます。透明塗料が塗膜(固体)になると、図1-3のPETと同様なポリマーです。問題にしたいのは、エナメル塗膜です。 塗料用白顔料の典型は平均粒径を0.25μm(マイクロメータ)に調製されたルチル形チタン白(TiO2と略)で、屈折率は2.7で相当に大きいと思ってください。 もう1種類の白顔料は屈折率1.5-1.6の炭酸カルシウム(CaCO3)で、ポリマーの屈折率と近似します。ポリマーにはPETと同様なポリエステル樹脂を選びました。 2種の白顔料を分散させたエナメルを調製し(塗膜中の顔料の体積濃度を20%に調製)、白地と黒地を有する隠ぺい力試験紙に膜厚がほぼ40μmになるように塗布しました。

これまでの知識を活用すれば、どのような結果になるか想像できますね。結果を図1-4に示します。では、次回を期待してください。

屈折率 Tio2(2.7)>CaCO3(1.5~1.6)ビヒクルポリマー:ポリエステル樹脂 屈折率1.6

  • (a)Tio2塗膜(膜厚39μm)
  • (a)Tio2塗膜(膜厚39μm
  • (b)CaCO3塗膜(膜厚40μm)
  • (b)CaCO3塗膜(膜厚40μm)

図1-4 屈折率の異なる2種の白顔料で調製したエナメル塗膜の比較

〔引用・参考文献〕 (1)北畠 耀:色彩演出事典,株式会社朝倉書店
執筆:川上塗料株式會社 社外取締役 坪田実

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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