テスターの基礎講座
5-3 テスターとオームの法則
「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。電気回路を構成する部品に流れる電流と、その両端の電位差の関係を表す法則で、1V(ボルト)の電圧を加えたときに、1A(アンペア)の電流が流れた場合、その構成部品は1Ω(オーム)の電気抵抗であることを示しています。 また、電力(P)[W] = 電圧(V)[V]×電流(I)[A]ですので、P = VI = IRI = R(I^2)(Iの二乗)となります。このことから、1W(ワット)とは、1Ωの構成部品に1Aの電流を流したときの電力消費となります。
この法則は、ドイツの物理学者ゲオルク・オーム(1789~1854年)が再発見し公表(1827年)したものです。というのは、1879年にマクスウェルが『ヘンリー・キャヴェンディシュ電気学論文集』として出版するまで未公表であったためです。1781年にヘンリー・キャヴェンディッシュ(1731年~1810年)がすでに発見し、驚くことに1785年にクーロンが発表した「静電気力の逆二乗則(クーロンの法則)」も、1772年には彼が見つけていたことが明らかになっています。これらは、電気工学で最も重要な関係式です。ただし、インダクタンスの単位であるH(ヘンリー)は、アメリカ合衆国の物理学者ジョセフ・ヘンリーですので別人です。
さて、オームの法則を利用した電圧降下法は、「2-6 電流の測り方」で説明しました。回路の一部を切断できないときに利用する電流測定方法です。たとえば、LED点灯回路の電流測定では、抵抗器(240Ω)両端の電圧を1.2Vとすると、オームの法則から電流[A] = 電圧[V] / 抵抗[Ω] = 1.2[V] / 240[Ω] = 5.0[mA]であることが解ります。電流はよく水の流れ(水流)に例えられます。電圧が同じであれば抵抗が大きいほど電流は小さくなり、抵抗が小さいほど電流は大きくなります。一方、水圧が同じであれば抵抗が大きい(細いホース)ほど水流(流れる水の量)は少なくなり、抵抗が小さい(太いホース)ほど水流は多くなります。
電力Pは電圧Vと電流Iの積ですので、P[W] = V[V]I[A]となります。「3-6 抵抗器の測定」で解説したように、抵抗器に電流を流すと抵抗器両端に電圧が発生します。たとえば、10kΩの抵抗器に10mAの電流を流せば100V(= 10[mA]×10[kΩ])の電圧が発生し、消費電力P[W] = V[V]I[A] = 100[V]×10[mA] = 1[W] となります。また、オームの法則により電圧を計算せずに、P = VI = IRI = RI2 = 10[kΩ]×(10[mA])2 = 1[W]とすることもできます。
「3-4 家庭用電源の電圧測定」では、交流の最大値と実効値の説明をしました。交流は正と負が時間経過とともに規則正しく変わります。また、その変わり方である波形が色々とあるため、標準にする波形は正弦波です。オームの法則は交流回路にも用いることができます。交流回路では、抵抗を抵抗成分(R)とリアクタンス(X)成分に分けて考えるインピーダンス(Z)として扱います。また、インピーダンスはZ = R + jXの複素表示で表します。交流の電圧はV = √2Vrms sin(ωt - φv)、電流はI = √2Irms sin(ωt - φi)ですので、Z = R + jX = V / I = (√2Vrms sin(ωt - φv)) / ((√2Irms sin(ωt - φi))となります。三角関数と複素数の知識が必要ですので、少し難しいかもしれません。
ところで、現在では交流送電方式が全世界で採用されています。その裏に直流電力事業と交流電力事業の対立である「電流戦争」が、発明王トーマス・エジソンとクロアチア出身のニコラ・テスラにあったことはほとんど知られていません。エジソンとテスラの確執は、直流と交流との確執でもあり、直流を理解するために必要な四則演算と交流を理解するために必要な微積分の知識との確執でもあります。海外では知名度があるテスラですが、日本での知名度はイマイチです。しかし、彼の原理や発明のほとんどが現在普通に利用されていたり、注目されているものだと言えます。また、磁束密度の単位「テスラ[T]」にその名を残しています。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
三和電気計器『DCL31DR デジタルクランプメータ取扱説明書』(01-1507 2040 6011)
東工大・安藤慎治研究室「イギリスのエキセントリック科学者の雄:ヘンリー・キャベンディッシュの生涯(1731.10.10-1810.2.24)」(2019年1月5日アクセス)
根日屋 英之『高周波・無線教科書』CQ出版社、2011年8月1日(第4版)
内田 裕之「連載 技術展望2017 電子部品/電子回路ワンポイント講座 第10回 テスラコイルと電力伝送」『別冊CQ ham radio QEX Japan No.25』pp.58-63、CQ出版社
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。