テスターの基礎講座
3-11 電界効果トランジスターの測定
■「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。一方、1種類のキャリアだけを用いるユニポーラトランジスター(Unipolar Transistor)はユニ(単一の意味)とポーラをつなげた呼称で、電界効果トランジスター(FET:Field EffectTransistor)とも呼ばれています。バイポーラトランジスターは電流で電流を制御しますが、FETは電圧で電流を制御する点で真空管と似ています。また、FETは主に接合型FET(JFET)とMOS型FET(MOSFET)に分けられます。
■電界効果トランジスター(FET)も3端子構造(3本足)で、各端子の名称はドレイン(D)、ソース(S)、ゲート(G)です。接合型(Junction)FETにも、pn接合がゲートとソース(ドレイン)間にあるので、端子間でダイオード特性を示します。テスターをダイオード検査モードまたは抵抗測定モードに設定して、nチャンネル型(2SK)のときには、ソース(ドレイン)に黒のテストピンを、ゲートに赤のテストピンを当て順方向電圧を測定します。次に、テストピンを入れ替えて、逆方向電圧を測定します。ダイオード特性に問題が無ければ正常です。また、pチャンネル型(2SJ)のときには、nチャンネル型(2SK)と逆向きのダイオード特性を示します。しかし、最大定格であるゲート許容電流IGが、ダイオード検査モードまたは抵抗測定モードの測定電流より十分大きいことを確認してください。端子配置含め必ずデータシートで確認することを推奨します。もう一つテスターを使って測定する方法があります。ゲートとソースを接続し、テスターを抵抗測定モードに設定します。nチャンネル型(2SK)のときには、ソースに黒のテストピンを、ドレインに赤のテストピンを当て抵抗を測定します。後述のドレイン飽和電流IDSSが大きいFETでは低抵抗値を示し、小さいFETで高抵抗値を示しますが、ダイオード特性に問題が無ければ正常です。また、pチャンネル型(2SJ)のときには、nチャンネル型(2SK)と逆向きのダイオード特性を示します。

■MOS型(Metal Oxide Semiconductor)FETでは、接合型と構造や動作の仕方が異なります。MOSFETのゲートとチャンネル間には、酸化皮膜の絶縁物があります。しかし、この絶縁物は非常に薄く静電気に弱いため注意が必要です。テスターの測定では、抵抗測定モードに設定し、ドレインとソースを接続した状態でゲートとソース間の絶縁を検査します。「0.L」や「0.F」、∞(無限大)となり電流が流れ無ければ正常の可能性が高いと言えます。

■さらに、正確な検査やFETの特性を知るためには、ブレッドボード上に簡単な回路を組み、バイアスであるゲート・ソース間電圧VGSを変化させドレイン電流IDを測定します。接合型FETでは、ゲート・ソース間短絡時のドレイン電流であるドレイン飽和電流IDSSがデータシートにも記載されていますので、実際に測定し確認してみることをお勧めします。注意点は、接合型FETが逆方向のバイアスをかけて使うデプレッション(Depression)モードということです。たとえば、ドレイン・ソース間電圧9Vで、ゲートとソース間を短絡したドレイン電流が4mAであれば、ドレイン飽和電流IDSSは4mAとなります。抵抗390Ωはドレイン電流を23mA(= 9[V] / 390[Ω])以上流さないための保護抵抗です。データシートでは、ドレイン・ソース間電圧を10Vとして測定していることが多いと言えます。しかし、筆者が9Vと10Vで測定したところ概ね同じ値を示していますので、9Vで測定しても大きな支障はないかと思います。また、同じ型番でもこのドレイン飽和電流IDSSでランク分けされているFETもあります。

■MOS型FETは、順方向のバイアスをかけて使うエンハンスメント(Enhancement)モードです。エンハンスメントモードでは、ゲート・ソース間電圧が0Vのときドレイン電流はゼロ(0mA)です。そのため、デプレッションモードでは、ゲート・ソース間遮断電圧VGS(OFF)はドレイン電流IDがゼロ(0mA)になるときのゲート・ソース間電圧VGSでしたが、エンハンスメントモードでは、特定のドレイン電流IDを流したときのゲート・ソース間電圧VGSとします。データシートの測定条件にはドレイン電流IDがゼロ(0mA)以外の値が記載されています。たとえば、ドレイン電流IDが10mAと記載されていれば、ゲート・ソース間電圧VGSを調整してドレイン電流IDを10mAにします。そのときのゲート・ソース間電圧VGSが2Vであれば、ゲート・ソース間遮断電圧VGS(OFF)は2Vとなります。抵抗100Ωはドレイン電流を90mA(= 9[V] / 100[Ω])以上流さないための保護抵抗です。そして、抵抗15kΩと抵抗4.3kΩで9Vを分圧して2Vにしていますが、測定では固定抵抗器10kΩと可変抵抗器10kΩを使用すると便利です。また、同じ型番でもこのゲート・ソース間遮断電圧VGS(OFF)でランク分けされているFETもあります。さらに、デプレッションモードも存在しますが、特性は接合型FETとは異なります。ゲート・ソース間電圧VGSを、0Vよりも上げていくとドレイン電流IDも増加します。すなわち、デプレッションモードのMOS型FETでは、ドレイン飽和電流IDSSが最大ではなく、ゲート・ソース間電圧VGSが0Vのときのドレイン電流IDとなります。接合型・MOS型やデプレッションモード・エンハンスメントモードにより、電源供給やバイアスのかけ方が異なり回路も異なります。FETを壊さないためにも、必ずデータシートで確認することを推奨します。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。