テスターの基礎講座
3-10 バイポーラトランジスターの測定
■最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。しかし、トランジスターは電子回路の基本であり、電子工作では今でも必要な素子です。そして、トランジスターを測定するためには、ダイオード同様その特性を知っておく必要があります。トランジスターにも構造により種類があります。バイポーラトランジスター(Bipolar Transistor)は、動作に関わるキャリアが2種類(電子と正孔)あることから、バイ(双や複の意味)とポーラ(極)をつなげた呼称です。バイポーラトランジスターは電流で電流を制御します。また、最初に発明されたトランジスターがバイポーラトランジスターであるため、トランジスターと言うとバイポーラトランジスターを指すことが多いようです。

■バイポーラトランジスターは、半導体のpn接合を利用して実現したトランジスターで、接合型トランジスターとも呼ばれています。n型半導体でp型半導体を挟むnpn型(2SCと2SD)とp型半導体でn型半導体を挟むpnp型(2SAと2SB)があり、電流の流れる向きが逆になります。また、3端子構造(3本足)で、各端子の名称はエミッター(E)、ベース(B)、コレクター(C)です。そして、コレクターとベース間、エミッターとベース間にpn接合部があるので、端子間でダイオード特性を示します。すなわち、「3-9 ダイオードの測定」と同じように、デジタルテスターでは、ファンクションスイッチでダイオード検査モードを選択します。npn型(2SCと2SD)のときには、エミッターに黒のテストピンを、ベースに赤のテストピンを当て順方向電圧を測定します。正常なシリコントランジスターでは0.6V付近を示します。これよりも高い値の場合は、正常でない可能性が考えられます。また、値がゼロや極端に低いとにきは短絡不良、「0.L」や「0.F」の場合には断線不良と考えられます。次に、テストピンを入れ替えて、逆方向電圧を測定します。「0.L」や「0.F」の場合にはトランジスターは正常と考えられます。しかし、他の値では短絡しているなどの不良の可能性が考えられます。アナログテスターでは、最低レンジの抵抗測定モードを使います。そして、抵抗測定モードでの極性が測定端子の記載と逆になっていますので、デジタルテスターとは反対にテストピンを当てます。順方向では導通があり、逆方向では∞(無限大)となり電流が流れないことを確認します。また、pnp型(2SAと2SB)のときには、npn型(2SCと2SD)と逆向きのダイオード特性を示します。
■さて、コレクターとエミッター間ですが、正常なシリコントランジスターでは「0.L」や「0.F」となり電流は流れません。今では入手困難なゲルマニウムトランジスターでは、コレクターからベースへの漏れ電流(コレクター遮断電流)が大きなトランジスターを見つけるために有効な方法でした。ところで、ゲルマニウムトランジスターのエミッターとベース間を測定する場合には注意が必要です。ゲルマニウムトランジスターのエミッターとベース間最大定格電圧は0.6V前後です。ところが、ダイオード検査モードの端子間開放電圧はDC約3V(PC710ではDC3.5V以下)もあります。抵抗測定モードの端子間開放電圧は、アナログテスターではDC約3V(CX506aではDC3V、ただし10kレンジのみDC12V)、デジタルテスターでは(PC710ではDC1.2V以下)です。すなわち、最大定格電圧をオーバーし、トランジスターを破損する可能性があるのです。最近では、海外のトランジスターを使用する機会も多いので、端子配置含め必ずデータシートで確認することを推奨します。

■テスターには、直流電流増幅率(hFE)を測定できる機種もあります。トランジスターのhFEはコレクター電流とベース電流との比で増幅率を表します。また、同じ型番でもこのhFEでランク分けされているトランジスターもあります。hFEを測定するときには,テスターの説明書に従い行ってください。その測定方法は一定のベース電流を流し、そのときのコレクター電流を測りhFEを計算していることが多いため目安にはなります。たとえば、ベース電流10μAを流すために、電源電圧を3Vとすればベース・エミッター間電圧は約0.6Vですので、ベース抵抗は3[V] - 0.6[V] / 10[μA] = 240[kΩ]です。このときコレクター電流が1.5mAであれば、hFE = 1.5[mA] / 10[μA] = 150となります。しかし、同じトランジスターでもコレクター電流によりhFEは異なります。そのため、ブレッドボード上に簡単な回路を組み、本来使用するコレクター電流を流してベース電流を測り、hFEを計算することをお勧めします。すなわち、ベース電流を調整して使用するコレクター電流1.0mAを流し、そのときのベース電流が6.7μAであるならば、hFE = 1.0[mA] / 6.7[μA] = 149となります。この測定は、必ず回路設計に役立つと思います。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。