テスターの基礎講座
3-8 コイル・トランスの測定
■コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。直流は通し、高い周波数の交流ほど電流を通しにくい性質を持っています。また、インダクター(コイル)は電気と磁気を相互に作用させて様々な働きをします。コンデンサーや抵抗器と合わせて、電子回路の基本となる部品です。ラジオに使われているバーアンテナは電波を捕らえます。RF(高周波)チョークコイルは不要な高周波信号を通さない働き、同調(共振)コイルは特定周波数の信号を取り出すことができます。電源用(低周波)チョークコイルは電流の安定化・ノイズ除去や昇圧に使います。また、トランスもコイルの仲間であり、IFT(中間周波トランス)はインピーダンスを調整し中間周波数のみを取り出します。オーディオトランスはインピーダンスを変換し、電源トランスは電圧を変換します。
■現在、電子回路基板で使用されるインダクターにも、抵抗器同様リード線がないチップインダクターがあります。基板表面のパッド(穴なしのランド)に、ハンダで固定する表面実装型のチップ部品です。日本ではmm呼称ですが、欧米ではinch呼称が使われています(「3-6 抵抗器の測定」参照)。抵抗器と異なり、定格電流範囲により厚みが変わります。

■誘導係数も抵抗値同様、1から10までを等比級数で分割した標準数「E系列」に従っています。12分割したE12系列や24分割したE24系列が一般的です。横型のアキシャルリードはカラーコード(「3-6 抵抗器の測定」参照)で誘導係数を表現しています。4桁表記では、1番目と2番目のカラーコードがE24系列までの誘導係数に3番目のカラーコードが乗数、4番目が許容差となります。たとえば、帯が「茶・赤・茶・銀」の4本である場合、数値は12で乗数は10^1(10の1乗)ですので120[μH]、許容差は±10%のコイルということになります。縦型のラジアルリードは、誘導係数を4桁の数字と1桁の記号を使って表します。1番目と2番目の数字がE24系列までの誘導係数で、3番目の数字が乗数となり単位はμH (マイクロヘンリー)です。また、最後の記号は許容差を意味します。ただし、小さなサイズには表示が無い場合もありますし、チップインダクターには表示がありません。また、Rは小数点を意味します。たとえば表示が150Mのとき、数値は15で乗数は10^0(10の0乗)ですので15[μH]、許容差は±20%のインダクターということになります。
●記号と許容差
記号 | 許容差 |
---|---|
J | ±5% |
K | ±10% |
M | ±20% |
N | ±30% |
Z | ±80% |
●表記例
表記 | 数値[H] |
---|---|
1R0 | 1.0μ |
150 | 15μ |
102 | 1000μ(1m) |
103 | 10000μ(10m) |
104 | 100000μ(100m) |
1R0N | 1.0μ±30% |
150M | 15μ±20% |
102K | 1000μ(1m)±10% |
103K | 10000μ(10m)±10% |
473J | 47000μ(47m)±5% |
■誘導係数(インダクタンス)を測定するには、高周波が発振できるLCRメーターが必要です。たとえば、sanwaのハンディLCRメーターLCR700は、測定周波数帯がDCから100kHzまで可変できます。実際の測定はLCRメーターの取扱説明書に基づいて行ってください。抵抗器同様誘導係数を測るときには、「3-2 人体の抵抗測定」で注意したように、指でテストピンをつまんでしまうと、人体の誘導係数により正しく測定できなくなります。「2-2 テスト棒の使い方」で述べた、ミノムシクリップやワニグチクリップなどの測定箇所を挟み込むクリップが便利です。また、チップインダクターの誘導係数を測るときには、専用クリップなどを使用することをお勧めします。
■通常のテスターには誘導係数測定モードはありませんので、抵抗測定モードで簡易テストを行います。デジタルテスターでは、ファンクションスイッチで抵抗測定モードを選択します。また、アナログテスターでは、抵抗測定モードと抵抗レンジがセットになっていますので、適切なレンジを選びます。次に、テストピンをコイルのリード線両端に押し当てます。低周波コイルでは、数Ωから数kΩの値となります。また、カタログやデータシートに直流抵抗値を明記したコイルもあります。たとえば、トランジスター用小型アウトプットトランス(ST-32P)の直流抵抗値は、一次側が60Ωで二次側が0.62Ωです。実際に測定するとほぼ(誤差5%くらい)この値を示します。また、電源トランスでは出力側の交流電圧を測り確認することもできます。ただし、電源トランスには高い電圧を出力している端子もあり、動作中の測定には注意が必要です。筆者は測定時に手の甲が誤って触れ、痛いほど感電のショックを受けたことがあります。一方、高周波コイルは最低抵抗レンジを選びます。ただし、抵抗値を測定するのではなく、断線を確認するため導通検査となります。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
三和電気計器『LCR700 DIGITAL LCR METER 取扱説明書』(02-1404 5008 6010)
MonotaRO「ST-32P」『橋本電気(SANSUI)トランジスタ用小型トランス』(2017年9月30日アクセス)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。