テスターの基礎講座
3-7 コンデンサーの測定
■日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。小型で熱に強く、高周波特性が良いセラミックコンデンサーは、高周波回路にも使われています。余計なノイズを除去(バイパスコンデンサー)したり、直流を通さないで必要な交流信号を取り出す働きをします。古いラジオやテレビには、黄土色や黄緑色をしたセラミックコンデンサーが使われていますが、最近では青色や薄茶色の積層セラミックコンデンサーに変わっています。また、温度による容量の変化が小さく、高精度なフィルムコンデンサーは、音響機器や測定機器などに使用されています。さらに、容量が大きい電解コンデンサーは、一般的に円筒形をしていて正負の極性があります。電圧の変化を吸収し、安定させる働きをします。特に交流を直流に変換する電源回路では、電圧波形を滑らかにするために用いられ平滑コンデンサーと呼ばれています。コンデンサーには耐圧があり、劣化していたり耐圧以上を加えると壊れることがあります。また、極性があるものは、電圧を逆に加えると壊れます。筆者も一度劣化したコンデンサーの破裂に遭遇しましたが、「ボンッ」という爆発音、臭いやケース内に飛び散った破片の処理が大変でした。
■現在、電子回路基板で使用されるコンデンサーの主流は、抵抗器同様リード線がないチップコンデンサーです。基板表面のパッド(穴なしのランド)に、ハンダで固定する表面実装型のチップ部品です。日本ではmm呼称ですが、欧米ではinch呼称が使われています(「3-6 抵抗器の測定」参照)。抵抗器と異なり、静電容量と耐圧が高くなると厚みも増します。

■静電容量は抵抗値同様、1から10までを等比級数で分割した標準数「E系列」に従っています。しかし、許容差大きく精度が高くないので、3分割したE3系列や6分割したE6系列が一般的です。電解コンデンサーや大型のコンデンサーでは、静電容量と耐圧が本体に表示されています。しかし、小型のコンデンサーでは、静電容量を3桁の数字と1桁の記号を使って表します。1番目と2番目の数字がE6系列までの静電容量で、3番目の数字が乗数となり単位はpF (ピコファラッド)です。また、最後の記号は許容差を意味します。ただし、小さなサイズには表示が無い場合もありますし、チップコンデンサーには表示がありません。静電容量が不明なときには、テスターで測定することをお勧めします。たとえば表示が473Jのとき、数値は47で乗数は10^3(10の3乗)ですので47000[pF](0.047[μF])、許容差は±5%のコンデンサーということになります。実際にテスターで測定して、44650から49350pFが許容範囲です。
●記号と許容差
記号 | 許容差 |
---|---|
F | ±1% |
G | ±2% |
J | ±5% |
K | ±10% |
M | ±20% |
N | ±30% |
Z | ±80% |
●表記例
表記 | 数値[F] |
---|---|
100 | 10p |
101 | 100p |
102 | 1000p(1n = 0.001μ) |
103 | 10000p(10n = 0.01μ) |
104 | 100000p(100n = 0.1μ) |
105 | 1000000p(1000n = 1μ) |
102F | 1000p(1n = 0.001μ)±1% |
102G | 1000p(1n = 0.001μ)±2% |
473J | 47000p(47n = 0.047μ)±5% |
104K | 100000p(100n = 0.1μ)±10% |
■テスターにより静電容量(キャパシタンス)を測定できる機種があります。sanwaのCX506aはアナログテスターですが、静電容量を50pFから20μFまでと1から2000μFまでの概略値を測定することができます。デジタルテスターのPC710では10pFから25.99mFまで測定することが可能です。デジタルテスターでは、ファンクションスイッチで静電容量測定モードを選択します。一方、アナログテスターでは、静電容量測定モードと静電容量レンジがセットになっていますので、測定範囲に適したレンジを選びます。また、抵抗測定のウォーミングアップ「ゼロオーム調整」と同じように「C無限大調整」が必要です。充電されたままのコンデンサーを測定すると、テスターが壊れることがあります。コンデンサーの端子間に適切な抵抗器を入れ完全に放電してから測りますが、大容量のコンデンサーに触れると感電することもありますので注意が必要です。実際の測定はテスターの取扱説明書に基づいて行ってください。抵抗器同様静電容量を測るときには、「3-2 人体の抵抗測定」で注意したように、指でテストピンをつまんでしまうと、人体の静電容量により正しく測定できなくなります。「2-2 テスト棒の使い方」で述べた、ミノムシクリップやワニグチクリップなどの測定箇所を挟み込むクリップが便利です。また、チップコンデンサーの静電容量を測るときには、専用クリップなどを使用することをお勧めします。
■静電容量測定モードがないテスターでは、抵抗測定モードで簡易テストを行います。デジタルテスターでは、ファンクションスイッチで抵抗測定モードを選択します。また、アナログテスターでは、抵抗測定モードと抵抗レンジがセットになっていますので、最高抵抗レンジを選びます。次に、コンデンサーが完全に放電されていることを確認の上、極性がないものはテストピンをコンデンサーのリード線両端に押し当てます。コンデンサーの容量に応じた時間、電流が流れ抵抗値が増加していきます。そして、無限大(∞)Ωや測定レンジのオーバー表示(0.Lや0.F)となります。また、電解コンデンサーなどの極性があるものは、極性表示に合わせてテストピンを当てます。「2-7 アナログ向きの使い方」で説明したように、一般的に抵抗測定モードでは、アナログテスターは赤のテスト棒がマイナスで黒のテスト棒がプラス極性、デジタルテスターは赤のテスト棒がプラスで黒のテスト棒がマイナス極性です。そして、1μFまでのコンデンサーでは、20MΩ以下は劣化しつつある不良と判断することをお勧めします。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。