テスターの基礎講座
3-5 カーバッテリーの電圧測定
■電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。また、エンジンを停止状態でも、バッテリーは消費され続けていて、普段あまり乗らない車だと、バッテリー上がりが心配になります。車種にも寄りますが、エンジンを停止してから20~30分後に完全にスリープ状態に入ります。しかし、その状態になっていても、電流は20?30mA流れているのが普通で、この電流を待機電流と言います。測定方法は、クランプメーターの先端で、バッテリーの配線コードを挟み、その配線に対して垂直に測ります。クランプメーター以外のテスターでは、ヒューズホルダーを利用し電流を測定します。
■カーバッテリーには、普通のバッテリーとメンテナンスフリーバッテリーがあります。普通のバッテリーを点検するには、最初にケースに記載されているUPPER(上)とLOWER(下)のレベル内に電解液の量があることを確認します。ただし、6個の電槽すべてを点検する必要があります。LOWERレベルより減っていると、バッテリー機能が低下します。適切な電解液等を、バッテリー上部の蓋をはずして補充しておきます。また、充電状態を知るために、バッテリー液用比重計で比重を測定します。比重が1.26から1.28だと最適な状態で、1.24未満のときには充電が必要です。 一方、メンテナンスフリーバッテリーでは、点検用インジケーターを備えていて、充電不足や電解液不足を表示するようになっています。メンテナンスフリーといっても、定期的な補水の手間は不要ですが、定期点検は必要です。ただし、バッテリー液補充や比重測定はできません。さらに、バッテリーには寿命があり、使用環境により大きく異なりますが、平均すると2~3 年くらいで寿命となります。

■カーバッテリーの電圧測定ですが、ファンクションスイッチを直流電圧測定モードに切り替えて、赤のテスト棒をバッテリーのプラスに、黒のテスト棒をマイナスに当てます。公称電圧は12Vとなります。しかし、満充電で車両に搭載していない状態での電圧は12.6~12.8Vで、車両に搭載した状態での電圧は10~15Vの間で変動します。 「3-3 電池の電圧測定」では、負荷抵抗により、実際に電池が使われている状態にして、電池の端子電圧を測定すると説明しました。しかし、エンジンを掛けたままのバッテリー端子電圧では、オルタネーターの発電状況も測定することになります。そこで、エンジンを停止した状態で、端子電圧を測定する方法が有効です。エンジン停止後60分以上放置して、できるだけオルタネーターによる発電の影響が無い状態にして測定することで、バッテリーの正確な電圧を把握できます。12Vを下回る状態ではかなり劣化が進み、11V前半にまで電圧が落ちている場合にはエンジンの始動が困難になります。また、エンジン始動後の電圧が13Vを下回るようであれば、バッテリーかオルタネーターが劣化していることも考えられます。いずれにしても、バッテリーの劣化が確認できるようであれば、早めにバッテリーを交換することが望ましいと言えます。劣化したバッテリーは、いくら充電しても本来の性能に戻ることはないからです。
■最近の車の電気系統はより複雑になり、専門知識無しにむやみに触るのは危険です。専門業者に相談することをお勧めします。一方で、専用充電器含めて入手しやすくなったバイク用リチウムイオン電池を、筆者はアマチュア無線ハンディトランシーバーの非常用電源として活用しています。ただし、本来は車やバイク用ですので、それ以外の用途で使用する場合には、自己責任になりますのでご注意ください。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
三和電気計器『DCL31DR デジタルクランプメータ取扱説明書』(01-1507 2040 6011)
MonotaRO「SKYRICH(スカイリッチ)リチウムイオンバッテリー」(2018年7月31日アクセス)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。