テスターの基礎講座
3-4 家庭用電源の電圧測定
■家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。「2-1 テスター各部の名称と役割」でも解説したように、家庭のコンセントやテーブルタップに交流電源が来ていることを確認するには、ファンクションスイッチを交流電圧測定モードに切り替えて、電圧測定を行います。アナログテスターでは、電圧測定モードと電圧レンジがセットになっていますので、たとえば「ACV 120レンジ」を選びます。また、デジタルテスターでは「ACVレンジ」を選択します。交流は、電流の方向と大きさが時間とともに変化しているので、テスト棒の赤と黒は、コンセントのどちらに差し込んでもかまいません。ただし、測定しているときは、感電すると危険なので、テストピン(テスト棒の先端金属部分)を触らないように注意してください。また、濡れた手でテスト棒を握ることも危険です。
■直流は電圧が時間とともに変化しないため直線となります。しかし、交流は正と負が時間経過とともに規則正しく変わります。また、その変わり方である波形が色々とあるため、標準にする波形は正弦波です。さて、基準とする0Vから一番大きい値を「最大値(Vmax)」と言います。また、正の最大値から負の最大値までの値を「ピーク・ピーク値(Vpp)」と言い、正の最大値を2倍した値となります。次に「平均値(Vavg)」ですが、交流の正と負の平均を取ると値は0になってしまいます。そこで、平均値は絶対値の平均を取ります。すなわち、負側の半周期の符号を正に変えて1周期を平均した値です。積分して求めますが正弦波の場合、平均値Vavg =(2 /π)Vmax[V]で表すことができます。平均値は最大値の2 /π倍です。最後にとても重要な「実効値(Vrms)」です。実効値は実際に仕事をする交流の値で、直流と同じ電力を発生する交流電圧値です。交流を流したときに、直流に換算するとどのくらいになるかを示す量と言えます。実効値Vrms = Vmax /√2[V]で表すことができます。実効値は最大値の1 /√2倍で、最大値は実効値の√2倍です。たとえば、家庭用電源の100Vは実効値であり、最大値は約141.4Vになります。テスターの交流電流や交流電圧の表示は実効値なのです。そして、テスターの基本は直流測定ですので、交流電圧の測定では「整流器」により交流を直流に変換し、正弦波に対して実効値を表示します。すなわち、正弦波以外の波形だと誤差が生じます。しかし、電力に変換して実効値を計算しているデジタルテスターもあり、正弦波以外の波形でも精度は高くなります。実効値の添え字「rms」ですが、「Root Mean Square value(二乗平均平方根値)」の略です。

■架空配電線では、電柱に柱上変圧器が設置されています。最近多い地中配電線の場合には、道路脇に路上変圧器が設置されています。交流100Vのコンセントは、この変圧器からアースされている側をコールド側(アース側)、もう一方をホット側と呼びます。一般家電製品では、ホット側とコールド側を気にせずにプラグを差している思います。しかし、コンセントをよく観てみると、穴の長さが異なっていたり、アース用端子が付いているコンセントもあります。AC100Vのコンセントでは、左側の穴が少し長い方がコールド側です。確認する方法ですが、アース用端子が正しく接続されているならば、テスターのファンクションスイッチを交流電圧測定モードに設定して、黒のテスト棒をアース端子に付けたまま、赤のテスト棒をコンセントに差し込み電圧を測ります。このとき、100Vの電圧となる差し込み口がホット側です。もちろん、交流ですので赤と黒のテスト棒を入れ替えてもかまいません。また、アース用端子がないコンセントでは、検電ドライバーを差し込み、点灯した方がホット側です。
■家庭用電源のコンセントは、外から配電線が引き込まれています。各コンセントは並列接続されていて、電線の片側は変圧器でアースされています。万が一、コンセントのカバーが壊れ金属部が露出していたとき、金属部のどちらかに触れると「ビリッ」と感電することがあります。それはホット側の電線に触れたときです。ホット側から人体を伝わった電流は、足→床→地面→変圧器のアースへと循環して流れます。感電の影響は、流れた「電流の大きさ」・「時間」・「経路(人体の部位)」によって変わります。しかし、汗をかいたり身体が水に濡れているなど、電気が流れやすい状態では、死亡する可能性もありますので、日常生活でも十分注意が必要です。ところで、コンセントは和製英語で、英国ではソケット(socket)やエレクトリカル・アウトレット(electrical outlet)、米国ではアウトレット(outlet)と呼ばれています。
■ところで、現在では交流送電方式が全世界で採用されています。しかし、19世紀には直流電力事業と交流電力事業の対立があり、「電流戦争」と言われています。宿敵は、発明王トーマス・エジソン(Thomas Alva Edison)と日本ではあまり知られていないニコラ・テスラ(Nikola Tesla)です。テスラコイルを発明したのが、海外では知名度があるクロアチア出身のニコラ・テスラ(1856年から1943年)です。このコイルを使った超高周波発生器による空中放電実験がオカルト的に描かれたため、マッドサイエンティストとして一度は耳にしたことがあると思います。しかし、テスラは19世紀末に活躍した、電気技師であり発明家です。交流電源、交流モーター、蛍光灯や水銀灯、無線電信、無線操縦、ワイヤレス給電システムなど多数の発明、磁束密度の単位テスラ[T]にその名を残しています。そのほとんどが現在普通に利用されていたり、注目されている原理や発明だと言えます。テスラは、1884年に渡米して「エジソン電灯会社」に採用されますが、直流電力事業を展開する社内で交流電力事業を提案し、エジソンと対立することになり退職します。そして、1887年4月に独立したテスラは「テスラ電灯社(Tesla Electric Light Company)」を設立し、独自に交流電力事業を推進します。1895年ウェスティングハウス・エレクトリック社により、ナイアガラの発電所に交流発電機が設置されます。エジソンとテスラの確執は、直流と交流との確執でもあり、直流を理解するために必要な四則演算と交流を理解するために必要な微積分の知識との確執でもあると思います。また、最近よく耳にするウェスティングハウス・エレクトリック社が登場するのは、時代のいたずらなのでしょうか。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
MonotaRO「フルカラー埋込ダブルコンセント」(2017年8月31日アクセス)
MonotaRO「接地ダブルコンセント」(2017年8月31日アクセス)
新戸 雅章『知られざる天才 ニコラ・テスラ: エジソンが恐れた発明家』平凡社新書、2015年2月13日初版
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。