テスターの基礎講座
2-7 アナログ向きの使い方
■デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。また、測定している電圧や電流自体が変化しているときには、数値が定まらず値を読むことができません。しかし、アナログテスターでは、指針が揺れている近辺を読むことができ、おおよその値を知ることができます。また、変動の振れ幅に対して、指針が動いている範囲を直感的につかむことができるので、まさにアナログ的な変化にも対応することができるのです。
■アナログテスターの測定できる範囲は、説明書に仕様として記載されています。その中から重要な三つを説明したいと思います。その一つが内部抵抗です。また、もう一つが交流を測定するときの周波数特性です。そして、最後の一つがテスト棒間の電圧と極性です。アナログテスターで、抵抗値だけを測定しているのであれば、この意味を知る必要はないのですが、アナログテスターを使いこなすためには理解しておきたい内容です。

■「1-4 アナログテスターの仕組みと構造」でも説明しましたが、アナログテスターのメーターは、直流電流計です。電流計に、電圧や抵抗などをそのまま表示できないため、測定時に内部で直流電流に変換しています。電流が流れると、電流計の端子間に電圧が発生しますので、抵抗値があるということです。電流計の中身はコイルですので、このコイルの抵抗分が内部抵抗となります。説明書の直流電圧と交流電圧のレンジ欄に、4kΩ/Vや50kΩ/Vなどの記載があります。この内部抵抗[kΩ/V]と、測定するレンジ[V]を乗算すると、その測定レンジでの内部抵抗値となります。たとえば、内部抵抗4kΩ/Vのアナログテスターで、電源電圧E = 12[V]、抵抗器R1 = R2 = 10[kΩ]の回路を、12Vレンジで測定します。計算では抵抗器による分圧ですので、V = E×R2 / (R1 + R2) = 12[V]×10[kΩ] / (10[kΩ] + 10[kΩ]) = 6.0[V]となります。しかし、実測では内部抵抗の影響でV = 5.0[V]となります。なぜならば、内部抵抗4kΩ/Vのテスターで6Vレンジを使いますので、内部抵抗Ri = 4[kΩ/V]×6[V] = 24[kΩ]となります。R2とRiが並列接続された合成抵抗値での分圧となってしまいます。合成抵抗値はR2i = (R2×Ri) / (R2 + Ri) = (10[kΩ]×24[kΩ]) / (10[kΩ] + 24[kΩ]) = 7.1[kΩ]、ですから分圧された電圧はV = E×R2i / (R1 + R2i) = 12[V]×7.1[kΩ] / (10[kΩ] + 7.1[kΩ]) = 5.0[V]となります。このように、内部抵抗が測定する回路に与える影響を、考慮した測定が必要になります。参考までに、sanwaのアナログテスターCX506aの仕様では、直流電圧3/12/30/120/300Vレンジでは内部抵抗が50kΩ/V、1000Vレンジでは15kΩ/Vです。また、交流電圧では、3/12/30/120/300/750Vレンジで内部抵抗は8kΩ/Vと記載されています。
■交流を測定するときに、重要なことは周波数特性です。一般的なアナログテスターのACVレンジ周波数特性は、40Hzから30kHzの帯域があります。家庭用電源は、50Hzまたは60Hzですので、当然のことながら測定範囲内です。しかし、オーディオアンプの交流電圧を測定するためには、可聴帯域以上の10Hzから1MHz位の帯域が必要となります。そのためには、高価なオーディオ・ジェネレーターや電子電圧計の出番となります。そこで、実際に使用しているテスターが、どこまでの帯域を正確に測れるのか、参考までに確認しておきたいと思います。グラフは、CX506aの3VレンジとデジタルテスターPC710のVレンジを、安価なファンクション・ジェネレーター(FG085 miniDDS Function Generator)を使用し、サイン波の周波数を10Hzから90KHz位まで変化させ、交流電圧(ACV)を測定した結果です。周波数の低い方は、どちらのテスターも30Hzからほぼフラットになります。一方、周波数の高い方ですが、デジタルテスターは、2kHzから下がり始めます。また、アナログテスターは、30KHzから下がり始めます。CX506aの仕様では、交流電圧測定モードの周波数範囲は、3/12Vレンジで40Hzから30kHz、30Vレンジ以上では40Hzから10kHzとなっていますので、ほぼ仕様どおりです。

■最後は、抵抗測定モードのときのテスト棒間の電圧と極性です。さて、テスターでテスターを測定してみます。アナログテスターを抵抗測定モードにし、デジタルテスターを直流電圧測定モードにします。テスト棒の赤と赤、黒と黒を接続します。すると、デジタルテスターには、アナログテスターの抵抗測定モードの電圧が表示されます。また、アナログテスターには、デジタルテスターの内部抵抗が表示されます。ただし、電圧は-(マイナス)表示になります。これは、アナログテスターの抵抗測定モードでの極性が、測定端子の記載と逆になっていることになります。CX506aの仕様では、抵抗測定モードの開放電圧は3Vです。ただし、10kレンジのみ12Vと記載されています。この抵抗測定モード(10Ωレンジが適当)は3Vで動作しているので、LEDの発光テストができます。ただし、テスターの赤をカソードへ、黒をアノードへ接続する必要があります。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)
三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。