切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第6章 切削工具の基礎講座

6-5 ねじ切りダイス

丸棒を「ねじ」に加工する切削工具を「ねじ切りダイス」といいます。一般には略して「ダイス」と呼ばれています。ねじ切りダイスは丸棒にねじを加工するだけでなく、ねじ山が傷ついたり、凹んだりして形状が崩れ、ナットなどが入りにくいとき、ねじ山を修正するきにも使用できます。ねじ切りダイスはフライス盤やマシニングセンタに取り付けて使用することもできますが、主に手作業で使用します。

ねじ切りダイス

ねじ切りダイスには調整ねじが付いているものがあります。このタイプはねじを締めつけたり、緩めたりすることでダイスの外径を微小に調整することができます。ダイスの一部が切れている(すり割りが入っている)のは外径を調整できるようにするためです。通常はあまり使用することがありませんが、高精度なねじを加工する際や切削条件に合わせて使用します。なお、すり割りが入っていないものは外径を調整することはできません。切れ刃の円周上に付けた穴は切りくずを排出するための「切りくず穴」です。

ねじ切りダイスには表面と裏面あり、食付き部が長い側の面が表面、食付き部が短い側の面が裏面です。一般に、食付き部は表面側が2~2.5山、裏面側が1~1.5山になっています。多くの場合、ねじの規格やメーカ名が刻印されている面が表面になるので、刻印されている面が工作物側になるようにハンドルに取り付けます。

ダイスの表面と裏面を見分ける

ねじ切りダイスを使用してねじを加工する場合には以下のような4つのポイントがあります。

1.ダイスを挿入する工作物の先端はしっかりと面取りし、ねじ切りダイスが食付きやすいようにします。

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2.ねじ切りダイスは水平にし、均等な力でハンドルを回します。ハンドルを回す際は180°~270°回転させたら、一度停止し、必ず90~180°程度逆回転して、ねじ溝に詰まった切りくずを吐き出します。ねじ溝に切りくずが詰まった状態では良好なねじ切りは行えません。

3.潤滑性を持たせるため適宜切削油剤を供給します。

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4.ダイスを目的の位置まで移動し、ねじが加工できたら荒加工が終了です。ダイスを逆回転して工作物から抜き取ったら、ダイスの裏面を工作物側にして、もう一度、ダイスを工作物に通すと、削り残しや不完全ねじ部を短くすることができます。ねじ切りダイスの裏面(食付き部が短い方)で加工することで、工作物の先端までねじを成形することができます。

ねじ切りダイスは主として手作業で使用する切削工具ですので、ダイスの切れ味が仕上がり具合に大きく影響します。このため、品質と価格が比例すると考えた場合、安価過ぎるものは上手に加工できないこともあります。

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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