切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第6章 切削工具の基礎講座

6-3 センタ穴ドリル

センタ穴ドリルは本来、旋盤加工や円筒研削加工などセンタを使用して材料を支持する際、センタの先端を沈めるために円形材料の側面(端面)の軸中心に小さな穴をあけるための切削工具です。しかし、一般にはドリルの穴あけ加工の位置決めや穴の面取り、薄板の穴あけ加工など幅広く使用されています。

センタ穴加工の目的
センタ穴加工の目的

センタ穴ドリルの突出し先端の角度は120°です。一般的なドリルの先端角は118°ですから刃先の角度はおおむね同じです。

センタ穴ドリルは先端の形状により(1)A形、(2)B形、(3)C形、(4)R形の4種類があります。

(1)A形は最も一般的なもので、センタ穴角が60°または90°のもの。
(2)B形はセンタが接触するテーパ面の外側が先端角(保護角)120°の面取り形状になっているもの。
(3)C形はセンタが接触するテーパ面の外側が座ぐり形状になっているもの。
(4)R形はセンタが接触するテーパ面が円形状になっているもの。

センタ穴ドリルの種類
センタ穴ドリルの種類

センタ穴角と保護角
センタ穴角と保護角

B形はセンタが密着する面の外側に保護角120°の面取り部を持ち、テーパが2段になっています。テーパを2段にすることによって、センタを挿入する開口部が広くなり、センタを挿入する際に先端がセンタと穴が密着するテーパ面に衝突し、傷つき、変形することから保護する働きを持ちます。簡単にいえば、保護角120°の面取り部はセンタを挿入する際のガイドの役割を担っています。また、面取りがあることにより、端面の仕上がり具合やバリ、かえりなどの影響を受けないことも特徴です。

C形はセンタが接触するテーパ面の外側が座ぐり形状になっていることで、B形よりもさらに外部からの衝撃からセンタと穴が密着するテーパ面を保護する効果が得られます。長尺のシャフトはセンタをセンタ穴に挿入する際、先端がテーパ面を傷つけやすいので、C形がセンタ穴として多く使用されます。

R形はセンタと穴が密着する面が円弧になっていることで、センタがセンタ穴の角度よりも大きい場合、センタがセンタ穴の角度よりも小さい場合、センタとセンタ穴の軸心がずれている場合のいずれでも比較的安定してセンタを支持できることが特徴です。旋盤加工や円筒研削盤では最も真円度が得られます。この反面、センタとセンタ穴の接触が点当たりになるので重切削や重量物の支持には不適です。

近年では、難削材用として刃部にコーティング処理を施したセンタ穴ドリルや刃部交換式のセンタ穴ドリルも市販されています。

 

センタ穴形状とセンタ

A形60°センタ穴・60°センタ

センタ穴形状とセンタ

B形60°センタ穴・60°センタ

センタ穴形状とセンタ


A形90°センタ穴・90°センタ

センタ穴形状とセンタ

R形センタ穴・60°センタ

センタ穴形状とセンタ

 

B形センタ穴の効用

B形センタ穴の効用

B形センタ穴の効用


B形センタ穴の効用

B形センタ穴の効用

注:外部からの衝撃によるキズや変形、被加工物端面の仕上がり状態、穴加工時のかえり等から、60°座ぐり部を保護するために120°の面取りを行うものです。

センタ穴形状とセンタの関係

 

R形センタ穴の効用

センタ穴角度がセンタ角度より大きい
A形

A形

R形

R形


センタ穴角度がセンタ角度より小さい
A形

A形

R形

R形


センタ穴とセンタの軸心がずれている
A形

A形

R形

R形


注:このような場合にR形センタは、センタの保持を比較的安定させることができます。また、B形センタ穴の効用(加工物端面のキズや変形、面粗さ、かえり等に対応)の一部も兼ね備えています。

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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