切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第3章 旋盤用の切削工具

3-1 バイトとは?

旋盤で使用する切削工具を「バイト」といいます。バイトの形状は持ち手になる柄の部分と材料を削り取る刃部に大別され、大工さんなど木工加工で使用される鑿(ノミ)に似ています。 金属を削る技術はメソポタミア地方(現在の中東地域)で誕生し、その後、ヨーロッパやアジアに広がり、紀元前200年頃(弥生時代初期)、中国、朝鮮を経由して日本に伝わったといわれています。 鑿(ノミ)はドイツ語・オランダ語でバイテル(bitel)と呼ばれることから、旋盤で使用される切削工具も形状が似ていることから「バイテル」と呼ばれるようになり、 その後、訛って、「バイト」と呼ぶようになったと言われています。また、英語で「切るや噛む」を意味する(バイト:bite)が語源になったという説など、名称の語源には諸説あります。 いずれにしても、バイトは日本で訛って生まれた名称なので、海外で「バイト」といっても通じません。 金属加工で使用する切削工具は英語では「カッティング・ツール(cutting tool)」といいます。なお、限られた期間や時間で仕事をすることを「アルバイト(略してバイト)」といいますが、 アルバイトはドイツ語で「労働」の意味を示すアルビット(Arbeit)が語源といわれていますので、切削工具とは全く関係がありません。

医学用語であるアレルギーやガーゼ、ウィルスなどもドイツ語が語源です。その他、日本にはドイツ語が語源となった言葉が多いことから、古代、ドイツ(ヨーロッパ圏)の技術水準が高かったことが伺えます。

さて、バイトは柄の部分を「シャンク(shank)」、刃部を「チップ(tip)」といいます。シャンクは「柄」、チップは「先端、頂点」という意味で、日本語を英訳しただけです。 金属加工では、「切りくず」も英語でチップ(chip)と言われるため、刃部と切りくずは同じ発音の「チップ」になり、紛らわしいので注意が必要です。 単純に「チップ」と言われえた場合には、バイトの刃部を示しているのか、切りくずを示しているのか、前後の文脈から判断することになります。

バイトの種類は構造(刃部とシャンクの締結方法)や刃部の材質、形状、用途などによって数多くあり、適宜使い分ける必要があります。 料理で使用する包丁も、木工加工で使用する鋸(のこぎり)も同じ金属製ですが、包丁で木は切れませんし、のこぎりで野菜を上手に切ることはできません。 切る(削る)材料に適した刃物を使用することが大切です。

バイトと鑿

バイトと鑿(ノミ)

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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