工具の通販モノタロウ ツーリング マシニングセンタの基礎講座 象限突起とスティックスリップ

マシニングセンタの基礎講座

モノタロウの本連載では、マシニングセンタの種類や仕組み、使い方について、実践的で役立つ知識をご紹介していきます。
第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

5-3 象限突起とスティックスリップ

マシニングセンタで円を加工すると、象限が変わる際にボコッと小さな突起が発生することがあります。この現象を一般に「象限突起」と呼んでいます。象限突起は「スティックモーション、反転スパイク」などの呼称で表現されることもあります。

たとえば、円を加工する際、切削工具が第1象限から第4象限に移動する場合、Y軸は常にマイナス方向へ運動します。しかし、X軸は第1象限ではプラス方向に運動しますが、第2次象限ではマイナス方向に運動することになります。つまり、X軸では切削工具が第1象限から第2象限に移る瞬間、運動体(主軸頭またはテーブル)が一旦停止し、運動方向が切り替わる瞬間があります。このような場合、軸受やボールねじなど運動体の駆動部には摩擦抵抗や慣性力が作用するため即座に反転することができず、運動体の移動軌跡が指令軌跡よりも外側に出てしまい膨らみを生じます。これが象限突起です。

象限と軸の運動方向
象限と軸の運動方向

象限突起(スティックモーション、反転スパイク)
象限突起(スティックモーション、反転スパイク)

 

象限突起が発生する主因には(1)摩擦力、(2)弾性変形、(3)バックラッシュがあります。

(1)摩擦力

駆動部と案内面の摩擦抵抗が大きく、ACサーボモータの反転に駆動部が遅れる。また、ボールねじの運動方向が反転する際、動摩擦から静止摩擦力に入れ替わるため、動摩擦係数と静止摩擦係数の大きさの違いに起因する。

(2)弾性変形

急な回転方向切換により駆動ねじ(ボールねじ)にねじれ(弾性変形)が生じ、このねじれによって軸両端部の回転角がズレる。

(3)バックラッシュ

駆動ねじ(ボールねじ)とナット間には微小なバックラッシュがあるため駆動部の運動に遅れが生じる。

 

いずれも制御系に対する機械系の遅れが原因です。象限突起は低速運動するマシニングセンタでは数μm程度ですが、高速運動するマシニングセンタでは数10μmと大きくなり、加工精度として無視できない大きさになります。象限突起を抑制するには送り速度を低くするしかありません。象限突起はDBB(double ball bar)と呼ばれる測定機器を用いて測定することができます。

DBBによる運動精度測定

DBBによる運動精度測定

DBBによる運動精度測定

 

なお、マシニングセンタの運動誤差には「スティックスリップ」もあります。スティックスリップはボールねじが一定の速度で回転しているにも関わらず運動体が案内面に密着して運動しない状態と運動する状態が周期的に繰り返す現象で、摩擦抵抗が大きい場合に生じやすいです。

 

執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 教授

『マシニングセンタの基礎講座』の目次

第1章 マシニングセンタの基礎知識

第2章 マシニングセンタの装備

第3章 マシニングセンタを動かすソフトウエア

第4章 マシニングセンタの要素技術

第5章 マシニングセンタの特性と関連知識

第6章 マシニングセンタを使用する際の基礎知識

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