加工現場の手仕上げ作業の勘どころ
6-4 ドリル作業の方法
卓上ボール盤の作業は比較的容易に行なうことが出来るため、作業を安易に行なっている場合が多いのですが、トラブルをなくして作業をするためには、基本的な取り組みを理解する必要があります。
1) 工作物の固定方法
小さい径のドリルでは図6-20のように手で固定して作業をする場合が多いのですが、小さい工作物に対してドリル径が大きい場合には、工作物が振り回されないように図6-21のようにバイスで固定して作業します。 また、ドリル径が大きい場合や工作物が大きい場合には、図6-22のようにシャコ万力で締め付けるかまたは図6-23のように締め金により固定して作業をします。

図6-20 手による固定

図6-21バイスによる固定

図6-22シャコ万力による固定

図6-23締め金による固定
2) 回転数の決定
加工を始めるに当たってドリルの回転数を設定します。回転数の設定はプーリのベルトの位置を変えて行ないますが、どの程度の回転数を選ぶかは工作物の材質などを考慮して決めます。 ハイスツイストドリルで鋼を加工するときに目安となる切削速度を表6-1に示します。切削速度からドリルの回転数を求めるには、(1)の式で求めます。なお、求められた回転数と合う回転数が設定できない場合には、近似の回転の低い方を選んで作業をすればよいでしょう。)
N=1000V/πD (1)
ただし、N: 回転数 min-1、 V: 切削速度 m・min-1 、D:ドリルの直径 mm
表6-1 設定切削速度の目
被削材 | 軟鋼 | 炭素鋼 | 合金鋼 | ダイス鋼 | 鋳鉄 | ステンレス |
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切削速度(m・min-1) | 20~30 | 15~25 | 5~15 | ~5 | 20~35 | 5~10 |
ドリルを当てる時のもみつけは、先端部のチゼルエッジが擦って接触するために振れやすく、ドリルを当てる時は一気におろさずに少しずつドリルを上下して、ドレル穴と穴あけ位置とが正しく合っているかを確かめながら切込んでいきます。 また、穴あけはポンチ穴をたよりに行われることが多いのですが、先端部のチゼル部とポンチ穴とがずれる時には、穴がずれないようにセンタドリルやスターティングドリルを用いて案内となる窪みや皿もみの作業を行うと良いでしょう。 センタ穴とドリル先端がずれた時には、ポンチを打ちなおしてから作業をしたり、ずれた反対方向に溝をつけたり、工作物を手で反対方向に押して位置を修正しながら穴を開ける方法があります。
1)クロス穴の穴あけ加工
T字や十字形に交わる穴あけは、最初にあけた穴は問題なくあけることができますが、後からあける穴が先にあけた穴と交わる瞬間はドリルが折れやすいので静かに送ります。交差穴はどちらを先にあけるのかは決まりがありませんが、一般的に長い方からあけます。
2)傾斜面の穴加工
傾斜穴の加工は、ドリルが傾斜方向にすべるため穴が曲がりやすくなります。傾きが小さい場合には、チゼル部から接触するようにドリル先端を小さくして加工する方法もあります。 傾きが大きい場合には、初めに工作物の面に対して図6-24(a)(b)のように座ぐり加工などで削り取ってから加工すると良好な穴加工を行なうことが出来ます。

図6-24傾斜面の穴加工
3)丸棒に直角な穴あけ
ドリル径が小さい場合には、図6-25(a)のように工作物の直径より小さいV形形状のブロックを用いてV溝と穴の位置とが直線になるように丸棒を載せ、バイスなどで固定してから作業をします。その際センタドリルまたはスターティングドリルでもみ付けをしてから行なうとセンタのずれが抑えられます。 また、ドリル径が大きい場合には図6-25(b)のようにドリル径より少し小さめな面を削り取ってからポンチを打ち作業すると初期のドリルの振れを抑えることができます。

図6-25丸棒に直角な穴加工
4)異なった素材の合わせ面の穴加工
硬い素材と軟らかい素材が合わさった面の穴あけは切削トルクが不安定のため、軟らかい素材の方に曲がります。そのため、事前に硬い素材に半月形または三角形の溝をあらかじめドリルの進む方向に作っておいて加工すると垂直な穴が加工できます。
5) 深穴の穴加工
ツイストドリルでは、ドリル直径の5倍以上の深さの穴加工を深穴加工として扱う場合が多いのですが、深穴を加工すると切りくずの排出や加工油剤の浸透が低下するため、工具寿命の低下やドリルの折損が発生しやすくなります。 そのため、ドリルを上下させて切り込んでゆくと共に、時々ドリルを穴から抜いて切りくずを除去しながら油剤を穴に供給して加工します。
6) 薄板の穴加工
薄板の穴あけは、ドリルの先端が抜けても外周部は食い付いていないため加工が不安定で、穴の歪やバリが発生しやすくなります。そのため、図6-26のようなローソク形のドリルを用いると良好な加工が出来ます。 また、工作物の変形を避けるため、ドリルの抜け側に当てものをして同時に加工すると変形が少なくなります。

図6-26薄板の穴加工
7) 油剤の供給
ドリルの先端の刃先の温度上昇や摩耗を防ぐと共に、良好な加工面を得るために油剤を供給することがあります。卓上ボール盤ではスプレーや刷毛、オイル差しなどを用いて供給しますが、油剤は一般に鉱物性の油剤が切れ味も良く加工面もきれいです。
8)抜けぎわの対応
卓上ボール盤の穴あけは主軸上下ハンドルに力を加えて行ないますが、同じ力で加工すると穴のぬけぎわは図6-27に示すように、直角断面に削り代がわずかに残っているため急に切込みが大きくなり、工作物が振り回されたりドリルが折れたりします。 そのため、ドリルが貫通するときには、わずかに上下させながら静かに送ります。また、工作物の下に図6-28に示すように木板の当てものをして加工すると工作物の振れ回りが少なく、また、穴が開いたときには木くずが出てくるので確認しやすくなります。

図6-27 穴のぬけぎわの状態

図6-26薄板の穴加工
作業現場での卓上ボール盤の穴あけ作業では、この他に工作物や作業手順などによって様々な工夫が見られます。いろいろな情報を参考にして効率よい作業を行なって下さい。
『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次
第1章 切断作業
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1-1弓ノコとノコ刃弓ノコはフレームにノコ刃を取り付けて手作業で工作物を切断するために使用される工具です。
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1-2弓ノコによる切断作業切断作業にあたっては、工作物の材質や形状によって有効な刃数のノコ刃を選びます。 一般には、1インチ当たり刃数が14~18のものを使用しますが、薄い板などには細かい24~32のものが使用されています。 切る時は、図1-10のように切る位置に親指を置いてノコ刃を当て、片手で軽く押して切り込みを与えノコ刃を安定させてから作業をします。
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1-3電動工具による切断作業電動丸鋸は、丸ノコ刃を電動工具の軸に取り付けて回転させ、直線に切断する工具です。
第2章 きさげ作業
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2-1きさげの基本と摺り合わせきさげ作業は英語でHand Scrapingと呼ばれ、きさげという一枚刃の工具を使用して、押すまたは引っ掻くことで金属表面をわずかに削り取る手作業の仕上げ技術です。 最終的に高い精度の面(平面、直角面、V面、円筒内面など)を得ることが出来ます。
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2-2きさげ作業の種類と仕上げ面の性状図2-6のような平面を得るには、摺り合わせ定盤(当たり見定盤)とを工作物表面と摺り合せ、目視できる凸部(当たり)だけを平きさげで削り取り、それを何度も繰り返して仕上げます。 きさげ作業は平面を得るだけでなく接合面の剛性や振動減衰性を得るために、平面度や粗さ、角度の形成なども行ないます。
第3章 やすり作業
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3-1やすりの目と種類やすりは、炭素工具鋼や合金工具鋼に目と呼ばれる切れ刃をたがね、または機械で打ち込んで熱処理をして製作した工具です。
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3-2やすりかけ作業を行なうためにやすりの柄の付け方は図3-5のように柄とやすりを垂直になるよう支えて、図3-6のように柄の頭部を万力の胴のような硬いところで打ちつけて慣性でやすりのこみを柄に真直ぐに深く入れます。 柄からやすりをはずすときには、図3-7のように万力の角などに柄を当てて、やすりを引き抜く方向に引っかけて滑らせながら軽く打ちます。
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3-3やすりかけ作業平面のやすりのかけ方には、やすりを長手方向に進ませる方法、やすりを右方向に斜めに進ませる方法、工作物に対しやすりを横に動かす方法などがあります。
第4章 磨き作業
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4-1磨き用研磨剤磨き作業には、工作物の表面を磨く、滑らかにする、光沢を出すなどの技術や定められた形状を高精度、高品質に作りあげる技術など目的によりいろいろな技術があります。 磨くためには、研磨剤(ラップ剤ともいわれる)を使用します。研磨剤は硬い粒子の砥粒で構成されています。
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4-2遊離砥粒による磨き作業遊離砥粒による磨き作業は、工具(ラップともいいます)と工作物の間に研磨剤を入れて擦り併せ、工作物表面の凸部を微量に取り除きながら順次細かい研磨剤に変えて寸法精度が高く、滑らかな表面を得る技術です。 この磨き作業をラッピングやポリシングもといいます。
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4-3固定砥粒による磨き作業砥粒を固定した手作業の磨き工具には、スティック砥石や砥粒を布や紙、無機材料、樹脂フィルムなどの基材に接着剤で砥粒を保持した工具などがあります。
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4-4電動工具による磨き作業紙や布などの基材の表面に砥粒を接着剤で固着させた図4-23のような帯状の研磨ベルトを使用した加工をベルト研磨といいます。図4-24に手作業で用いられる卓上ベルト研磨盤を示します。ベルト研磨では図4-25のようにベルト研磨布紙に工作物を押し付けて研磨をします。
第5章 けがき作業
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5-1けがき用工具の種類けがき作業は、工作物を要求された形状に加工するために、図面に指示された寸法や形状をけがき工具を用いて直線、円、中心線を描いたり、穴あけの中心点にポンチを打ったりする作業です。けがき工具にはいろいろなものがありますが、作業に当たってはこれら工具を正しく用いて行う必要があります。
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5-2けがき作業を始めるにあたってけがき作業をはじめる時には、図面の確認や工作物の形状の確認も大切ですが、けがき針やトースカン、ポンチの刃先など道具の整備や点検も必要です。
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5-3けがき作業の方法けがき作業では、どこを基準にしてけがくかが課題となります。また、丸棒の中心を求める、水平線を引く、垂直線を引くなど工作物に応じてさまざまなけがき線の引き方があります。
第6章 穴あけ作業
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6-1卓上ボール盤の使い方穴加工をする加工方法には、ボール盤やマシニングセンタを用いる方法、放電加工やレーザ加工などさまざまな加工方法がありますが、手作業で穴あけ作業を行なうためには、卓上ボール盤が欠かせません。
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6-2ドリルの各部の名称穴あけ作業用工具としてドリルは欠かせません。ドリルには材質で分類すると超硬やハイス、形状からは直刃形状や段付形状のものがありますが、ここでは広く活用されているハイスのツイストドリルについて示します。
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6-3ドリルの種類と特徴ドリルといえば一般にツイストドリルを指しますが、用途に応じてさまざまな種類があります。
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6-4ドリル作業の方法卓上ボール盤の作業は比較的容易に行なうことが出来るため、作業を安易に行なっている場合が多いのですが、トラブルをなくして作業をするためには、基本的な取り組みを理解する必要があります。
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6-5ハイスツイストドリルの手研ぎの方法
卓上ボール盤で穴加工を行なっていると、手送りに抵抗を感じたり、真円があかなかったりといったことが発生した場合は角部や切れ刃が摩耗したためで、再研削をして切れ刃を修正します。
第7章 リーマ作業
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7-1リーマの各部名称あらかじめ開けられた下穴を仕上げ面粗さの向上や良好な寸法精度を得る方法として、ファインボーリングや内面研削などがありますが、これらの加工法と比較して
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7-2リーマの種類と特徴JIS(日本工業規格)ではリーマの種類を、(1)刃部の材料および表面処理、(2)構造、(3)取り付け方法、(4)機能または用途の4種類で分類しています。
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7-3リーマ作業の方法リーマ加工は、要求される寸法よりわずかに小さい下穴にリーマを通して真円で滑らかな面の穴を得る作業です。