加工現場の手仕上げ作業の勘どころ
1-3 電動工具による切断作業
1.丸ノコ刃による切断作業
電動丸鋸は、丸ノコ刃を電動工具の軸に取り付けて回転させ、直線に切断する工具です。 丸ノコ刃は金属用、木工用など素材や用途に応じて図1-20のような刃先形状のものがあります。 電動丸鋸には図1-21のように丸鋸を動かして切断する工具と図1-22のように工作物を押し当てて切断する工具とがあります。 いずれの電動工具でも工作物をまっすぐに切断することはむずかしいため、丸鋸用の定規を使用することで工作物をまっすぐに切断できます。 しかも、定規を使用すると切断中の反発の衝撃(キックバック)を少なくして安全に切断することができます。 定規には図1-23のような様々なタイプがあるので用途にあった定規を選ぶことが大切です。 なお、ノコ刃の交換やメンテナンス時には、誤ってスイッチを押すと刃が回転して危険なため、必ず電源コンセントを抜いてから行なわなければなりません。

図1-20:各種の丸ノコ刃

図1-21:工具を動かして切断する丸鋸

図1-22:工作物を押し当てて切断する丸鋸

図1-23:各種の丸鋸用エルアングル定規
2.直線ノコ刃による切断作業
1) ジグソーによる切断作業
ジグソーを図1-24に示しますが、ブレードと呼ばれるノコ刃を上下に動かして切断する電動工具です。 丸鋸は直線切りのみですが、ジグソーは曲線切りやブレードが入る穴をあけて切断すると切り抜き加工を行なうことが出来ます。 ブレードには、金属用、木工用など素材や用途に応じたものがありますので素材に併せて選択します。 ジグソーは電源スイッチ(トリガースイッチ)を引いている間はブレードが動くので、トリガーを引きながら作業をします。 ブレードの上下のスピードは、握る強さでコントロールするものやダイヤルで設定するものがあります。速度が安定したら本体をゆっくり押して作業をします。 途中、ブレードが材料にひっかかり工具がバタバタして不安定になった時には、すぐにトリガーから指を離して停止します。 無理に押すとブレードが折れるので本体に負荷がかからないように作業することが大切です。なお、途中で止まったらスイッチ離し少し戻してからスイッチを再び入れると作動します。

図1-24:ジグソー
2)電動糸鋸盤による切断作業
ノコ刃は細くて薄いノコ刃で、図1-25に示す電動糸鋸盤に取り付けて曲線や切り抜きなどの加工に使用されます。 糸ノコ刃は下向きになるように取り付けますが、ノコ刃の刃先と工作物の送り方向のテーブル軸と垂直にでているかを確認することが大切です。 ノコ刃はスイッチを入れると上下に動き、このノコ刃に工作物を押し当てながら送って所定の形状に切り出します。 切断時には、工作物がびびらないように上から押し付けることとノコ刃が曲がらないように押し出す力を加減することが大切です。 工作物の内側を切り抜く場合には事前にドリルなどにより糸ノコ刃を通す穴を空け、その穴をテーブルの丸穴にくるように設定しノコ刃を通して加工します。 なお、作業中はノコ刃の前に手を出さないことやノコ刃の取り付け、取り外しには、必ずコンセ ントをぬいて電源が切れていることを確認して行うことが大切です。

図1-25:電動糸鋸盤
3)帯ノコ刃による切断作業
帯ノコ刃は輪状の連続したノコ刃で、帯鋸盤に取り付けて切断作業をします。 帯鋸盤はバンドソーとも呼ばれ、ノコ刃を図1-26のように上下の車輪状のプーリーによって回転させる 立形帯鋸盤(コンターマシンと呼ばれる)と図1-27のように左右のプーリーによって回転させる横形帯鋸盤があります。 コンターマシンは、けがいた線にそって工作物を図1-28のようにノコ刃に押し当てながら動かして輪郭加工ができますが、 工作物が動かないように両手でしっかり押さえることが大切です。なお、ノコ刃が摩耗していたり、工作物を強く押し当てたり、 ノコ刃のガイドが高すぎるとノコ刃が変形し工作物が曲がりやすくなります。作業の注意点として、 起動スイッチを入れて帯鋸の刃にねじれがないことを確認してから使用する、手指は絶対に帯鋸の正面に持ってこない、 使用後は必ず起動スイッチを切るなどを習慣づけることが大切です。横形帯鋸盤の切断加工は、工作物が振れないようにしっかりと工作物を固定した後、 工作物にノコ刃を垂直に降ろして切断します。そのため、輪郭加工はできません。切断するノコ刃の降ろす速度は油圧で調整します。

図1-26:立形帯鋸盤(コンターマシン)

図1-27:横形帯鋸盤

図1-28:コンターマシンの切断方法
4)切断砥石による切断作業
図1-29に示す高速切断機の厚さ3~5 mm程度の砥石を、手でレバーを下げながら工作物に押し当てて切断します。 鉄鋼製のアングル材やパイプなど比較的肉厚が薄い材料を非常に短時間で切断することができます。 切断砥石の切れ刃の役目をする砥粒には、酸化アルミニウム系のA砥粒や炭化けい素系のC砥粒が使用されています。 砥粒の大きさの粒度はF24~F80(粒径625μm~200μm)が一般的で、砥粒を保持する結合剤には繊維で強化した熱硬化性樹脂が多く使われています。 作業をする前には、砥石のひび、割れ,欠けなどの外観検査や砥石に表示されている最高使用速度、寸法が機械に適合しているか、 砥石の1/2以上を覆う砥石カバーを使用しているかなどの確認が必要となります。また、砥石のゆるみやガタつきを確認するため、1分間の空運転を実施します。 切断作業では、工作物を確実に固定するとともに、急激な砥石の押し付けは砥石を傷め破損の原因になりますので避けるようにします。 また、切断中はたくさんの火花や切りくずが飛び出してくるため、必ずゴーグルを着用して作業をします。

図1-29:高速切断機断
『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次
第1章 切断作業
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1-1弓ノコとノコ刃弓ノコはフレームにノコ刃を取り付けて手作業で工作物を切断するために使用される工具です。
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1-2弓ノコによる切断作業切断作業にあたっては、工作物の材質や形状によって有効な刃数のノコ刃を選びます。 一般には、1インチ当たり刃数が14~18のものを使用しますが、薄い板などには細かい24~32のものが使用されています。 切る時は、図1-10のように切る位置に親指を置いてノコ刃を当て、片手で軽く押して切り込みを与えノコ刃を安定させてから作業をします。
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1-3電動工具による切断作業電動丸鋸は、丸ノコ刃を電動工具の軸に取り付けて回転させ、直線に切断する工具です。
第2章 きさげ作業
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2-1きさげの基本と摺り合わせきさげ作業は英語でHand Scrapingと呼ばれ、きさげという一枚刃の工具を使用して、押すまたは引っ掻くことで金属表面をわずかに削り取る手作業の仕上げ技術です。 最終的に高い精度の面(平面、直角面、V面、円筒内面など)を得ることが出来ます。
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2-2きさげ作業の種類と仕上げ面の性状図2-6のような平面を得るには、摺り合わせ定盤(当たり見定盤)とを工作物表面と摺り合せ、目視できる凸部(当たり)だけを平きさげで削り取り、それを何度も繰り返して仕上げます。 きさげ作業は平面を得るだけでなく接合面の剛性や振動減衰性を得るために、平面度や粗さ、角度の形成なども行ないます。
第3章 やすり作業
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3-1やすりの目と種類やすりは、炭素工具鋼や合金工具鋼に目と呼ばれる切れ刃をたがね、または機械で打ち込んで熱処理をして製作した工具です。
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3-2やすりかけ作業を行なうためにやすりの柄の付け方は図3-5のように柄とやすりを垂直になるよう支えて、図3-6のように柄の頭部を万力の胴のような硬いところで打ちつけて慣性でやすりのこみを柄に真直ぐに深く入れます。 柄からやすりをはずすときには、図3-7のように万力の角などに柄を当てて、やすりを引き抜く方向に引っかけて滑らせながら軽く打ちます。
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3-3やすりかけ作業平面のやすりのかけ方には、やすりを長手方向に進ませる方法、やすりを右方向に斜めに進ませる方法、工作物に対しやすりを横に動かす方法などがあります。
第4章 磨き作業
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4-1磨き用研磨剤磨き作業には、工作物の表面を磨く、滑らかにする、光沢を出すなどの技術や定められた形状を高精度、高品質に作りあげる技術など目的によりいろいろな技術があります。 磨くためには、研磨剤(ラップ剤ともいわれる)を使用します。研磨剤は硬い粒子の砥粒で構成されています。
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4-2遊離砥粒による磨き作業遊離砥粒による磨き作業は、工具(ラップともいいます)と工作物の間に研磨剤を入れて擦り併せ、工作物表面の凸部を微量に取り除きながら順次細かい研磨剤に変えて寸法精度が高く、滑らかな表面を得る技術です。 この磨き作業をラッピングやポリシングもといいます。
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4-3固定砥粒による磨き作業砥粒を固定した手作業の磨き工具には、スティック砥石や砥粒を布や紙、無機材料、樹脂フィルムなどの基材に接着剤で砥粒を保持した工具などがあります。
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4-4電動工具による磨き作業紙や布などの基材の表面に砥粒を接着剤で固着させた図4-23のような帯状の研磨ベルトを使用した加工をベルト研磨といいます。図4-24に手作業で用いられる卓上ベルト研磨盤を示します。ベルト研磨では図4-25のようにベルト研磨布紙に工作物を押し付けて研磨をします。
第5章 けがき作業
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5-1けがき用工具の種類けがき作業は、工作物を要求された形状に加工するために、図面に指示された寸法や形状をけがき工具を用いて直線、円、中心線を描いたり、穴あけの中心点にポンチを打ったりする作業です。けがき工具にはいろいろなものがありますが、作業に当たってはこれら工具を正しく用いて行う必要があります。
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5-2けがき作業を始めるにあたってけがき作業をはじめる時には、図面の確認や工作物の形状の確認も大切ですが、けがき針やトースカン、ポンチの刃先など道具の整備や点検も必要です。
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5-3けがき作業の方法けがき作業では、どこを基準にしてけがくかが課題となります。また、丸棒の中心を求める、水平線を引く、垂直線を引くなど工作物に応じてさまざまなけがき線の引き方があります。
第6章 穴あけ作業
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6-1卓上ボール盤の使い方穴加工をする加工方法には、ボール盤やマシニングセンタを用いる方法、放電加工やレーザ加工などさまざまな加工方法がありますが、手作業で穴あけ作業を行なうためには、卓上ボール盤が欠かせません。
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6-2ドリルの各部の名称穴あけ作業用工具としてドリルは欠かせません。ドリルには材質で分類すると超硬やハイス、形状からは直刃形状や段付形状のものがありますが、ここでは広く活用されているハイスのツイストドリルについて示します。
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6-3ドリルの種類と特徴ドリルといえば一般にツイストドリルを指しますが、用途に応じてさまざまな種類があります。
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6-4ドリル作業の方法卓上ボール盤の作業は比較的容易に行なうことが出来るため、作業を安易に行なっている場合が多いのですが、トラブルをなくして作業をするためには、基本的な取り組みを理解する必要があります。
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6-5ハイスツイストドリルの手研ぎの方法
卓上ボール盤で穴加工を行なっていると、手送りに抵抗を感じたり、真円があかなかったりといったことが発生した場合は角部や切れ刃が摩耗したためで、再研削をして切れ刃を修正します。
第7章 リーマ作業
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7-1リーマの各部名称あらかじめ開けられた下穴を仕上げ面粗さの向上や良好な寸法精度を得る方法として、ファインボーリングや内面研削などがありますが、これらの加工法と比較して
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7-2リーマの種類と特徴JIS(日本工業規格)ではリーマの種類を、(1)刃部の材料および表面処理、(2)構造、(3)取り付け方法、(4)機能または用途の4種類で分類しています。
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7-3リーマ作業の方法リーマ加工は、要求される寸法よりわずかに小さい下穴にリーマを通して真円で滑らかな面の穴を得る作業です。