化学製品・高分子製品の基礎講座
5-13 特殊合成ゴム
特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
エチレンプロピレンゴムは、特殊ゴムの中で最も生産量が大きな合成ゴムです。チーグラーナッタ触媒によって開発された合成ゴムです。名前のとおりエチレン、プロピレンを主原料としますが、少量の第3成分が必要です。第3成分としては、5-エチリデン-2-ノルボルネンENBやジシクロペンタジエンDCPが使われます。第3成分も二重結合を2個持つジエンですが、共役していません。このため図に示すように二重結合の一つだけが、エチレン、プロピレンから成る主鎖(ポリマーの骨格部分)に組み込まれますが、もう一つの二重結合は側鎖に残るので共役ジエン系ゴムと同様に硫黄による加硫が可能です。しかも共役ジエン系ゴムと違って主鎖には二重結合がないので、オゾンなどで二重結合が破壊されても主鎖が切れるわけではなく耐候性が高い長所があります。EPDMはホース、ベルトなど自動車用工業部品によく使われます。

ブチルゴムは図に示すようにイソブチレン(2-メチルプロペン)を主体として少量のイソプレンを共重合させた合成ゴムです。共役二重結合をもつイソプレン成分によって、重合後も二重結合が残り、硫黄による加硫を行うことが可能です。ブチルゴムは気体透過性が低く、また振動の伝播が著しく小さいという、他のゴムにない特性をもっています。この特徴を生かしてブチルゴムはタイヤチューブや防振・制振ゴム製品に使われます。建物の地震対策として注目される免振ゴムは、ゴム板と金属板を交互に張り合わせてつくられます。ブチルゴムは天然ゴムとともに免振ゴムにも使われます。

汎用ゴムも、エチレンプロピレンゴムも、ブチルゴムも、すべて炭素と水素だけからできているので、ガソリンや機械油などに対して強くありません。これに対して、ニトリルゴムは図に示すようにブタジエンと極性の高いアクリロニトリルとの共重合物なので、耐油性が高く、しかも耐熱性が高いという特性をもっています。パッキン、ベルト、高圧ホース、印刷機のゴムロールなど、耐油性が求められる用途に使われます。同様にアクリルゴムはアクリル酸エステルと2-クロロエチルビニルエーテルの共重合物なので耐油性、耐熱性が高いという特性をもちます。さらにフッ素ゴムはアクリルゴムよりもさらに極性が高いフッ素が導入されているので、耐熱性、耐油性が高くなります。ただし、アクリルゴムやフッ素ゴムは非ジエン系ゴムなので、硫黄による加硫は行えず、パーオキサイド架橋剤による架橋を行う必要があります。

ゴムの分子内に極性の高い官能基を導入すると、ガラス転移点が高くなります。ガラス転移点以下の温度になると、高分子鎖の運動ができなくなり、ゴム弾性が失われます。ガラス転移点はブタジエンゴムで-110℃~―95℃、ブタジエンの側鎖にメチル基が入る天然ゴムで-79℃~-69℃、SBRで-55℃ですが、NBRで-50℃、アクリルゴム、フッ素ゴムで-20℃~-10℃となります。パッキンで弾性を失ったらシール機能が低下し、漏れが発生します。自動車や航空機に使われるゴムについては、耐油性、耐熱性ばかりでなく、耐寒性についても十分な配慮が必要になります。
エピクロロヒドリンゴムは、主鎖が炭素だけでなく、酸素も含むポリエーテルゴムの一つです。エピクロロヒドリンとエチレンオキシドの共重合物です。酸素の結合は強いので、耐油性、耐熱性、耐候性に優れています。耐油性とガラス転移点の関係も、NBRやアクリルゴムとは少し異なり、耐油性が高い割にガラス転移点が-40℃とそれほど高くならない長所があります。さらにエピクロロヒドリンだけを重合したホモポリマー(ECOに対してCOと呼ばれる)は、気体透過性がブチルゴムより優れるという特性をもちます。
シリコーンゴムは、すでに5-11で説明しました。エピクロロヒドリンゴムと同様にシリコーンゴムも主鎖が炭素だけから成るのでなく、ケイ素と酸素(シロキサン結合)から成ります。シロキサン結合は炭素―炭素結合よりも強いので、シリコーンゴムは耐熱性、耐候性が高く、しかも分子鎖の動きが良いのでガラス転移点が-132℃~-118℃とブタジエンゴムより低く、すべてのゴムの中で最も低くなり、耐寒性も優れたゴムです。ただし、耐油性、耐摩耗性はよくありません。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。