化学製品・高分子製品の基礎講座
4-2 高分子成形加工法
多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。高分子は、金属、ガラス、木材などに比べて成形加工しやすく、しかも大量に同じ成形加工品を効率よくつくることができる点が大きな強みです。
4-5 で説明しますが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。熱可塑性高分子は、熱を加えると100~300℃程度で軟化・溶融するので成形加工でき、冷却すると成形加工した形を保ったままの製品となります。 一方、熱硬化性高分子は、常温付近の温度で成形加工した後、100~200℃の高温下に置くと成形加工した形のままで硬化して製品となります。5-13 で説明する加硫ゴムも熱硬化性高分子です。熱可塑性高分子製品は、再度加熱すると、軟化・溶融するのに対して、熱硬化性高分子製品はいったん硬化したら、もはや軟化・溶融することはありません。
高分子 | |
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熱可塑性高分子 | 熱硬化性高分子 |
熱硬化性高分子と熱可塑性高分子は、成形加工法が異なります。熱硬化性高分子の代表的な成形加工法としては圧縮成形と積層成形があります。
熱硬化性高分子の代表的な成形加工法 | |
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圧縮成形 | 積層成形 |
圧縮成形は、金型に硬化前の熱硬化性高分子やその原料を入れ、プレスするように圧縮しながら加熱します。金型内で成形されるとともに熱硬化反応が起き、複雑な形状の製品をつくることができます。 熱硬化反応には時間がかかります。このため粘土を成形して高温の釜で焼いて陶磁器をつくる方法と同様に、熱硬化反応(加硫反応)が起きないような常温付近の温度でプレス成形加工した後に、別の高温にさらす装置に入れて熱硬化反応を起こさせる方法も行われます。タイヤなどの加硫ゴム製品ではよく行わる方法です。
一方、板状やそれに近い形状の熱硬化製品をつくる際には積層成形が行われます。電気・電子製品に使われているプリント基板やテーブル板、漁船、航空機などのFRP製品(4-1参照 )をつくる成形加工法です。 硬化前の高分子シート(多くはガラス繊維や炭素繊維を含む)を何枚も重ね合わせ、加圧・加熱することによって積層させる成形加工法です。
次に熱可塑性高分子の成形加工法を説明します。熱硬化性高分子の成形加工が、成形に加えて、熱硬化反応という時間がかかる工程が必要であるのに対して、熱可塑性高分子の成形加工では、成形後、冷却という物理的な工程があるだけなので、時間が少なくて済む点が大きな長所です。 成形加工の生産性が高いということです。このため、高分子製品としては、熱可塑性高分子が圧倒的に多く使われています。
特に生産性の高い代表的な成形加工法は、押出成形、中空成形、射出成形です。
熱可塑性高分子の代表的な成形加工法 | ||
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押出成形 | 中空成形 | 射出成型 |
押出成形は、繊維、棒、管、板、シート、フィルム、被覆電線などを生産する成形加工法です。シリンダー内に長大なスクリューが付いた押出機に熱可塑性高分子が投入されると、スクリューのせん断力や必要に応じて使われる外部加熱によってシリンダー内で高分子が溶融し、前に押し出されます。 押出機の出口に口金(ダイ)が付けられており、ダイの形状によって繊維、管、フィルムなどの成形加工品が連続的につくられ、直ちに冷却されて製品となります。繊維、フィルムなどは連続的に巻き取られ、管、板などは一定の長さごとに切断されて取り出されます。
中空成形は、ボトル、缶のような中空状の成形加工品を生産する成形加工法です。押出機から管状の成形品が押し出されると、まだ軟らかいうちに金型でこの管を挟み込むとともに、中に空気を吹き込みます。管が膨れて金型に押し付けられ、冷却されることによってボトルや缶が間欠的につくられます。 空気を吹き込むので中空成形は吹込成形とか、ブロー成形と呼ばれることもあります。あまり直接目にすることはありませんが、乗用車の車体下部には空きスペースを活用した複雑な形状のガソリンタンクが設置されています。実物はかなり大きな成形加工品です。 このような製品も中空成形でつくられています。ペットボトルの成形は、延伸吹込成形という成形加工法でつくられます。次に説明する射出成形によって、まず試験管状のパリソンがつくられます。パリソンを再加熱するとともに棒状のもので縦方向に延伸し、さらに金型で挟み込んで空気を吹き込み、横方向にも膨らませて成形します。 もともとのパリソンの口の部分(ねじを切ってある)が、ペットボトルの口の部分として残っています。
射出成形は、部品のような複雑な形状の高分子製品を間欠的に効率よく生産する成形加工法です。熱可塑性高分子をシリンダー内で加熱によって溶融します。シリンダー先端のノズルに取り付けた金型内にシリンダー内の溶融高分子が射出され、金型内に隅々まで行き渡らせます。次に金型が冷却されて金型内で高分子が固化します。 その後、金型を開けて固化した高分子製品を取り出します。最後に、ノズルからの流路になっていたような不要部分を切除します。射出成形はポリウレタンや不飽和ポリエステル樹脂のような熱硬化性高分子にも使われることがあります。その場合には反応射出成形(RIM)と呼ばれます。
このほか、熱可塑性高分子の成形加工法にはカレンダー加工があります。溶融するほど高温にすると分解が起きやすい高分子をロールで練って成形し、シート、フィルムなどをつくる成形法です。
熱硬化性高分子にも、熱可塑性高分子にも使われる成形加工法として注型、粉末成形、3Dプリンターがあります。注型は液状の高分子原料を型に流し込んで重合させる成形法です。 粉末成形は粉末状の熱可塑性高分子または硬化前の粉末状の熱硬化性高分子を回転する金型内に入れて金型の内壁面で固化させることによって大型の中空品(タンクなど)をつくるのに使われます。3Dプリンターは金型を使わずに3次元の製品をつくる成形法です。 液状の感光性樹脂、粉末状の熱硬化性高分子、ひも状の熱可塑性高分子を使って、2次元の断面形状を積層していくことによって3次元造形を行います。ヒトの身体を輪切りにした画像を得るX線CTやMRIと似た方法です。射出成形で必要となる高価な金型が不要であり、また切削では不可能な複雑な形状をつくることができるので、最近注目されています。
高分子成形加工は、以上に述べた1次加工に加えて、しばしば2次加工、3次加工も行われます。代表的な2次加工、3次加工法を次の図に示します。
代表的な2次加工、3次加工の成形加工法 | |
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熱成形 | (真空成形、プレス成形、圧空成形、スタンピングなど) |
溶接 | (熱板溶接、インパルス溶接、高周波溶接など) |
加飾 | (貼り合せ、塗装、メッキ、真空蒸着、印刷、静電植毛など) |
打ち抜き、熱曲げ、切削 | |
バリ取り |
たとえば、スーパーマーケットなどで、魚や肉を展示するのに使われるトレイは、1次加工でシートをつくり、2次加工で、シート上にトレイの形のへこみを複数並べてつくります。さらに3次加工でトレイ部分を打ち抜いてトレイを得ます。シート上に残った枠部分は、 リサイクルしてシートの作成に使われます。カップなども同様の方法でつくられます。非常に生産性の高い製造法です。
食品の包装袋は湿気や酸素を通さず、しかも袋の口が簡単にシールできることが求められます。このような多くの要求を一種類の高分子で満たすことはむずかしいので、フィルムを貼り合わせて対応することは、しばしば行われています。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。