化学製品・高分子製品の基礎講座
1-7 界面活性剤の用途と種類
界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。そのほか混ざり合わない液体と液体、固体と固体、また液体と固体など、界面は至るところにあります。 物質を分子レベルで眺めると、物質内部では1分子の周囲にはその物質を構成する他の分子が取り囲んでいるのに対して、界面ではその取り囲みが部分的に無くなります。このため界面では急に物質の性質が変わります。この結果として、よく見かける現象が表面張力です。
界面活性剤とは、この界面に作用して界面の性質を著しく変える性質をもつ物質です。表面張力で水をはじいた葉の表面も洗剤を加えた水ではぬれてしまいます。ひとつの分子内に水になじむ性質の部分(親水基)と油になじむ性質の部分(親油基)をもつ物質が界面活性剤になります。
界面活性剤と聞くと、すぐに洗剤を思い浮かべると思います。しかし、界面活性剤がもつ機能は洗浄だけではなく、表に示すようにたくさんあります。洗浄という働きは、界面活性剤の湿潤、浸透、乳化、分散、起泡など様々な機能が組み合わさった結果なのです。
表1 界面活性剤のもつ様々な機能
機能 | 説明 | 用途 |
湿潤・浸透 | ぬらす・しみこませる | 洗剤、染色助剤 |
乳化・可溶化 | 混ざり合わない液体同士をまぜる | 洗剤、化粧品、食品添加物、農薬、乳化重合助剤 |
分散 | 混ざりあわない固体と液体を散らせる | 塗料、インキの分散剤、セメント減水剤、洗剤 |
起泡・消泡 | 泡を立てる・消す | ヘアシャンプー、洗剤、泡消火剤、 軽量コンクリート用起泡剤、 発酵や紙パルプの消泡剤、 塗料・インキの消泡剤 |
柔軟・可塑 | 固体を柔らかくする | ヘアリンス、ヘアトリートメント、繊維柔軟仕上剤 |
潤滑 | 固体と固体を滑らせる | 潤滑油添加剤、切削油添加剤、繊維油剤 |
帯電防止 | 固体の帯電を防ぐ | プラスチック帯電防止、合成繊維帯電防止 |
防錆 | 金属のさびをふせぐ | 金属加工時のさび止め剤 |
殺菌・抗菌 | 菌の増殖を防ぐ | 除菌洗浄剤、繊維抗菌処理剤 |
このような様々な機能をもつために界面活性剤は非常に多くの用途で使われます。とくに副資材的な用途に多く使われるので界面活性剤を使いこなせるか否かは、その道のプロへの登竜門と言えましょう。 洗剤には、家庭用の洗濯用洗剤、台所用洗剤、住居用洗剤、シャンプーがあり、さらに産業用洗剤があります。変わったところでは、古紙を再生する際に印刷インキを落とす脱墨剤も洗剤のひとつです。化粧品には可溶化剤、乳化剤として界面活性剤が使われます。化粧品は水、油、保湿剤を基礎成分として混合することが多く、界面活性剤は不可欠です。 乳液、クリームに界面活性剤が使われていることは明らかですが、透明な化粧水にも可溶化剤として界面活性剤が使われています。そのほか乳化剤として食品添加物、農薬などにも使われます。水をはじいてしまう昆虫の身体や葉の表面に農薬が付くために界面活性剤は不可欠です。 帯電防止剤として、プラスチックに混合して汚れ防止に、また合成繊維の嫌な帯電の防止に使われます。分散剤としては、塗料、インキなどをつくる際に顔料の粉を溶媒に均一に混合させ、またセメントを必要最小限の水で混合して良好なコンクリートをつくる際にも使われます。 セメントと水は混ざりにくく、そうかと言って規定量以上の水を加えてしまうと、硬化後のコンクリート強度が落ちてしまいます。 このために、セメントの分散剤はわざわざ減水剤と呼ばれています。また微細な泡を連れ込むことによってコンクリートの流動性を高める際に使われる界面活性剤はAE剤とも呼ばれます。洗髪後のリンスや洗濯後の柔軟仕上げの柔軟仕上剤、繊維を均一に染色させるための繊維助剤、塗装の際に発生する泡を消す消泡剤など界面活性剤の用途にはきりがありません。
界面活性剤は親水基によって大きく4つに分けられます。水に溶けた時に、親水基がマイナスイオンになるものをアニオン界面活性剤、親水基がプラスイオンになるものをカチオン界面活性剤、両方のイオンをもつものを両性界面活性剤と呼びます。これに対してイオンにならない親水基をもつものをノニオン(非イオン)界面活性剤と言います。 イオンにならない親水基には-CH2CH2O-が連結した構造(ポリオキシエチレンまたはポリエチレングリコールという名前が入る)がよく使われます。一方、親油基には-CH2-が十数個連なった構造(アルキルとか脂肪という名前が入る)がよく使われます。
表2
分類 | 代表的な種類 | |
アニオン界面活性剤 | カルボン酸塩 | 脂肪酸塩 |
スルホン酸塩 | アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS、LAS)、 α-オレフィンスルホン酸塩(AOS) |
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硫酸エステル塩 | 高級アルコール硫酸エステル塩(AS)、 ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES) |
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リン酸エステル塩 | アルキルリン酸塩、 ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩 |
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カチオン界面活性剤 | 脂肪族4級アンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩 | |
ノニオン界面活性剤 | ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、 ポリエチレングリコール脂肪酸エステル |
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両性界面活性剤 | アルキルカルボキシベタイン、アルキルアミノ脂肪酸塩 |
アニオン界面活性剤は、洗剤、乳化剤、帯電防止剤、防錆剤、起泡剤によく使われます。ノニオン界面活性剤も、洗剤、乳化剤、可溶化剤とアニオン界面活性剤に似た用途に使われますが、消泡剤に使われる点が異なります。 一方、カチオン界面活性剤は、アニオン界面活性剤、リンス剤、繊維柔軟剤、殺菌剤によく使われます。両性界面活性剤はシャンプー、台所用洗剤、殺菌剤 柔軟剤、繊維仕上剤に使われます。シャンプー、リンス、化粧水、乳液などは、全成分が小さな文字で表示されています。どのような界面活性剤が使われているか、一度じっくり眺めてみてください。
『化学製品・高分子製品の基礎講座』の目次
第1章 化学製品を理解するための基本
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1-1化学製品の構成モノタロウで販売している製品を化学の目から理解するための基礎講座です。
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1-2化学物質の名前化学製品の成分、すなわち化学物質の名前はカタカナが並んで訳がわからないと思っておられる方が多いと思います。
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1-3酸とアルカリ酸とアルカリは小学校、中学校、高校の理科で習っており、何を今さらと思われるかもしれません。
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1-4無機薬品の特徴と種類人工のものも含めると元素は110以上知られており、このうち安定に存在できる最大の元素は原子番号82、質量数208の鉛です。
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1-5有機薬品とモノマー医薬品、化粧品、洗剤、プラスチック製品など、私たちの身の回りにある化学製品の多くは有機化合物です。
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1-6有機溶剤の用途と種類有機溶剤の用途を表に整理して示します。まず化学物質を溶解するという、字義通りの用途自体にも様々な使い方がある上に、そのほかにも様々な用途があ
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1-7界面活性剤の用途と種類界面とは物質と物質の境のことです。気体と固体、気体と液体の境は、通常は固体や液体の表面と呼んでいますが、界面のひとつです。
第2章 化学製品の利用に当って留意すべき法規制
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2-1化学製品における事故防止関係の法規制化学製品には、燃えやすかったり、有毒であったりと、知らないで使うと危険な物質が使われていることがあります
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2-2有害化学物質の安全規制火を使うことによって人類は他の動物からの攻撃や寒さを防ぐことができるようになったばかりでなく、食生活はもちろん、道具づくりにおいても大きく進歩しました。
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2-3化学物質の効能と安全の両方を求める規制化学物質の安全規制法の中には、化学物質を使用するからには必要とする性能を確保し、なおかつ安全性を厳しく要求するものがあります。医薬品、農薬、肥料などへの規制です。
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2-4環境保全を目指す法規制環境保全対策には、身近な公害対策、ごみ処理、自然環境保護から、地球規模の環境対策まで様々なものがあります。
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2-5化学製品における表示規制商品の購買者に正しい商品情報、しかも最低限必要不可欠な内容を伝えるために、様々な法律によって表示規制が行われています。
第3章 化学製品の基本
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3-1農薬の特徴と分類様々な化学製品について、その製品を理解するための基本知識を説明します。
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3-2化学肥料の特徴と分類田畑では育てた農作物が持ち出されるため、植物に必要な養分の自然循環ができません。
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3-3洗剤の特徴と分類洗剤は、図のように家庭用、業務用、工業用に分けられます。
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3-4塗料の特徴と分類塗料は、ものの表面を覆うことによって表面を保護し、また美観を与える化学製品です。
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3-5接着剤の特徴と分類接着剤は、ものの表面にくっついて、ものとものとを接合させる化学製品です。
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3-6印刷用化学品の特徴と分類ヨーロッパの歴史において中世から近世への開幕の主役は、羅針盤、火薬、紙と印刷でした。
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3-7染料・顔料の特徴と分類染料も顔料も色を付けるために使われる化学製品です。
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3-8試薬の特徴と分類試薬とは文字どおり「試験研究用薬品」のことです。
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3-9殺菌剤・消毒剤・抗菌剤の特徴と分類人間の目に見えない細菌、カビ、ウイルスなどは、食中毒や伝染病などの原因になる可能性があり、その対策は人類にとって長年の課題でした。
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3-10香料・消臭剤・脱臭剤の特徴と分類空気中を漂ってきた化学物質の分子が鼻の奥の嗅粘膜に溶け込んで嗅細胞が電気信号を発し、これが脳に伝達されて「におい」を感じます。
第4章 高分子製品を理解するための基本
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4-1高分子製品の構成高分子は、包装材料、日用品雑貨、衣料などの身の回り品から器具・機械の部品、土木建築材料、さらには漁船・プレジャーボート、航空機本体や翼のような大型製品にまで広く使われています。
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4-2高分子成形加工法多くの高分子製品は、フィルム・袋、繊維、シート、カップ・トレイなどの容器、管、板、部品などに成形加工されて使われます。
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4-3樹脂添加剤4-1で述べたようにプラスチック製品は、高分子だけから成っている訳ではありません。着色するために着色剤が加えられ、また発泡製品をつくるために発泡剤が加えられることは分かりやすい例です。
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4-4ゴム薬品4-5で説明しますが、ゴムの成形加工製品には加熱すると再度溶融するゴムと、加熱してももはや溶融も軟化もしないゴムがあります。
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4-5熱可塑性高分子、熱硬化性高分子すでに4-2で簡単に説明しましたが、高分子には熱可塑性高分子と熱硬化性高分子があります。
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4-6高分子材料に期待される特性第4章の冒頭で述べたように合成高分子が現在のように幅広く使われるようになったのは20世紀後半からです。人類は文明の始まる以前から天然高分子を大量に使ってきました。
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4-7強度金属、セメント、ガラス、セラミックス、木材、高分子製品など様々な材料の力学的性質を比較する場合、強度(つよさ)は最も基本となる指標です。
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4-8耐熱性、耐寒性4-2で説明しましたように高分子は、その熱挙動や分子構造から熱硬化性高分子と熱可塑性高分子に分類できます。
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4-9透明性物質に光が入った時に可視光すべてを吸収して熱に変換する場合には透明になりません。金属が不透明なのはこれに該当します。
第5章 主要な高分子材料の種類と特長
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5-1ポリエチレンポリエチレンは、世界においても、日本においても、最も生産量・消費量の多い高分子材料です。
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5-2ポリプロピレンポリプロピレンPPは、プロピレンCH2=CH-CH3というガス状炭化水素を重合した高分子です。
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5-3スチレン系樹脂スチレン系樹脂はスチレンC6H5-CH=CH2を主成分とするプラスチックです。主要なスチレン系樹脂にはポリスチレン、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂があります。
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5-4ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-5PET繊維・樹脂(A-PETも)ポリ塩化ビニルは塩化ビニルを主成分とするプラスチックです。塩化ビニル単独のポリマーが圧倒的に多くを占めますが、加工性や性能などを改善することを目的に酢酸ビニルやアクリロニトリルと共重合させたコポリマーも少量つくられています。
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5-6ナイロン繊維・樹脂ナイロンは1939年に最初の合成繊維としてアメリカのデュポン社によって工業化され、大成功を収めたので、合成繊維の王座をすでにポリエステル繊維に奪われたとは言え、現在でも合成繊維の代名詞になるほど有名です。
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5-7エンジニアリングプラスチック5-1から5-4で説明した汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル)は耐熱性がおおむね100℃以下であるのに対して、耐熱性が100℃以上で、しかも強度が高い熱可塑性プラスチックをエンジニアリングプラスチックと言います。
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5-8ポリウレタンポリウレタンはウレタン結合-NHCOO-をもつ高分子です。ウレタン結合はイソシアネート(-NCO)という非常に反応性の高い化合物群とアルコール(-OH)の反応によって生成します。
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5-9エポキシ樹脂エポキシ樹脂は、図に示すように高分子の両末端にエポキシ基をもつプレポリマーと硬化剤(ポリアミン、酸無水物、ポリアミドなど)を反応させて生成する網目状の分子構造をもつ熱硬化性高分子です。
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5-10アクリル樹脂(PMMA,アクリル繊維、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル)アクリル樹脂と呼ばれる高分子は、図に示す広義のアクリル系ポリマー全体を指すこともありますし、ポリアクリル酸エステルだけ、あるいはメタクリル樹脂だけを指すこともあります。
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5-11フッ素樹脂、ケイ素樹脂(含むシリコーンオイル)フッ素樹脂、ケイ素樹脂はともに1940年代前半に米国で工業化された古い高分子材料です。
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5-12汎用合成ゴムゴムはエラストマー(弾性体)とも呼ばれ、常温で著しく大きな弾性をもつ物質の総称です。
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5-13特殊合成ゴム特殊ゴムは、すべての非ジエン系ゴムとジエン系ゴムのうちブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)が該当します。
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5-14その他の高分子材料(熱可塑性ゴム、スーパーエンプラ、機能性高分子)高分子材料には、今まで紹介した高分子以外にも多数あります。その中で、大くくりして重要なものを最後に3つ紹介します。