防食の種類

腐食を防ぐための対策を講じることを防食と言いますが、ここでは「耐食材料の利用による防食」「環境制御による防食」「亜鉛を用いた防食」について解説していきます。

耐食材料の利用による防食

腐食に対して高い耐性を持つ素材を使って、構造物や機械を作れば根本的な防食につながるはずです。耐食性の強い材料にはどのようなものがあるのか紹介しましょう。

耐食性の強い材料

金属の中には、熱力学的に安定していて腐食に対する耐性が高い素材がいくつか存在します。金やプラチナ最も代表的な例です。こういった材料を用いて構造物・機会を作れば現在のものよりも防食効果が期待できるでしょう。

しかしながらこれらの貴金属類は、機械特性・経済性の理由から構造物の素材としての適性はありません。つまり、耐食材料とは建造物や機械などの材料として現実的に利用可能である素材のうち、腐食耐性の観点から見て使用にメリットのあるもののことを指します。以下にその代表的なものをご紹介します。

耐候性鋼

耐候性鋼は、炭素鋼をベースとして少量のクロム、銅、場合によってはリンを加えた素材です。橋梁の部材への利用が主で、使用環境が正常であれば片面板厚減少幅が50年で0.3mmに満たない程度という非常に良好な防食性能を持ちます。

耐海水鋼

海洋環境下での使用に耐える素材として最も知られているのが耐海水鋼です。通常、波浪の飛沫のため受けた腐食が致命的損傷につながることの多い護岸用の部材、鋼管杭などに使用します。現在では、ライニングによるより効果の高い防食工法が確立されたため、使用はまれです。Cu-Ni-P系、Cu-Cr-P系などを主な成分とし、炭素鋼のおよそ2倍から3倍の耐食性を持ちます。

耐硫酸露点腐食鋼

硫黄を含む化石燃料などを燃焼するボイラでは、硫黄酸化物SO3が燃焼ガス中で水分と結合すると硫酸が生成されますが、この硫酸が腐食の原因となります(硫酸露点腐食)。この腐食はとても深刻なもので、炭素鋼であれば年間に数mmに達するケースも珍しくありません。しかし、硫酸露点腐食に対して有効な素材はなく、ステンレス鋼やチタン、耐酸性ニッケル基合金などでも不十分とされます。

そのため、このような特殊な環境下では耐硫酸露点腐食鋼の使用が一般的です。完全に腐食を止められることはありませんが、耐候性鋼系などの組成をもつ低合金鋼で、腐食を炭素鋼の50%程度に抑えられます。さらに、コスト面、性能面の双方から見ても他の素材と比較して良好です。

耐サワー油井用鋼管

硫化水素を含む油田の井戸、サワー油井では、硫化物が腐食の原因となり鋼管に割れが発生します。一般的な鋼管では焼入れ焼戻しを行うことで強度調整を行っていますが、これが同時に割れやすさも高めてしまうためです。耐サワー油井用鋼管は、特殊な熱処理を行い、クロム、モリブデンの添加などにより割れやすさを改善したもののため、こういった環境にも対応できます。

ステンレス鋼における耐食性

ステンレス鋼は、特有の金属光沢、錆びにくさなどから建築材料としてしばしば使用されています。しかし、環境中に塩素イオンのような特定の物質が一定量以上存在する場合、腐食、応力腐食割れ、孔食、粒界腐食などを生じてしまうのが弱点です。そのため、この改善のために、耐性の異なるさまざまなタイプのものが登場しています。

特に、粒界腐食への対策として炭素含有量を低下させたものが多く開発されているのがステンレス鋼の特徴です。SUS304に通常含まれる炭素量が0.06%程度であるところ、0.03%以下に減少させたものを特に「Lグレード」と呼びます。Lグレードのステンレスは、記号の末尾にLを付記しますので、素材選びの際にはこのことを覚えておきましょう。

オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)

最も広く使用されているステンレス鋼です。Cr、Niにより耐熱/耐酸化性を高めたSUS309S、SUS310S、NiとMoにより耐食性を高めたSUS316、耐粒界腐食性を高めたSUS304L、SUS321などがあります。

フェライト系ステンレス鋼(SUS430)

オーステナイト系よりも、もともと応力腐食割れを起こしにくい素材で作られたのがフェライト系です。自動車の排気系や魔法瓶、冷温水器、海水熱交換器などに使用されます。耐食性、溶接性を向上させたSUS430J1L、Mo添加により耐食性を高めたSUS434、SUS444、CrとMoにより耐食性を高めたSUSXM27、SUS447J1などがあります。

その他、耐食材料として利用できるステンレス鋼には、耐食性と強度を併せ持ったマルテンサイト系ステンレス鋼や、耐海水用で活用されるオーステナイト50%とフェライト50%からなる二相系ステンレス鋼なども挙げられます。

環境制御による防食

防食対策には、素材そのものの防食性を高めること・構造物に防食効果のある機構を付加することなどいくつかの種類があります。なかでも使用環境を制御することで腐食の起こりにくい環境を作り出すことを環境制御による防食と言います。その仕組みや種類にはどういったものがあるのでしょうか。 環境制御による防食には、環境から原因物質を除去する方式と、環境に防食剤を加える方式の2つに分けられます。

環境制御による防食

環境から腐食の原因物質を除去する

一般的な空気中の環境では、水と酸素が腐食の主要な原因物質です。密閉空間、または半密閉空間においては、空間中の環境からこれらの原因物質を除去したり、軽減させたりすることで防食の効果が得られます。この手法は、建造物の構造により防食するため、構造対策と呼ばれるのが一般的です。

たとえば金属の品物を収容する美術館・博物館や倉庫・格納庫などでは、除湿装置を用いて湿度調節をしたり、結露防止などの策を講じたりによって防食対策をしています。結露防止のために、館内の温度を上げる、局所的に冷温となる箇所を作らないよう環境を均一にすることも有効です。

さらに、狭い容器内では乾燥剤を用いる対策も知られています。また、空間の半密閉性を利用して、空間内部に乾燥空気や不活性ガスを送風し、陽圧環境を作り出して管理するのも有効です。

防食剤による環境制御

環境から腐食の原因物質を取り除く防食よりも、更に積極的な防食手段が防食剤による環境制御です。この防食剤には、使用や処理に際して環境や人体に悪影響を与えないことが大前提。そのうえで、少量の添加で有効、経済性に優れるなどの諸条件をクリアした防食剤が実際に使用されています。

現在、一般的に使用されている防食剤の大多数が炭素鋼を主成分とするものです。

いくつかの種類がありますが、作用機構によって3種類に分類されることで知られます。

酸化型防食剤

クロム酸塩、亜硝酸塩、モリブデン酸塩などを酸化型防食剤と呼びます。これらは酸化作用によって炭素鋼を不動態化させて防食するものです。

吸着型防食剤

有機アミンなどの有機物から成る防食剤です。金属の表層に吸着することで分子が膜を構成し、対象物と腐食原因物質との接触を妨げます。

沈殿皮膜型防食剤

吸着型防食剤と似た考えで、金属表面に防食効果のある皮膜を形成し、対象物に沈殿・沈着させることで防食します。重合リン酸塩などが主な素材です。防食剤自体が膜となるものと、腐食で生成された金属イオンと反応して膜を形成するものの2種類があります。

防食剤の利用

防食剤はさまざまな対象物に利用されます。代表的な活用例と、問題となる腐食原因、適用できる主な防食剤についてご紹介します。

開放系循環冷却水配管/密封系循環冷却水系統(水)

開放系には重合リン酸やホスホン酸塩が主に利用されています。密封系は、亜硝酸塩系、一部ではリン酸塩、モリブデン酸塩が利用される主な防食剤です。いずれも水による腐食を防ぐ目的で利用しますが、共に水質汚濁防止法の制限に注意して防食剤の使用・排出しなければなりません。

防錆油(水分)

有機アミン類などの有機系の吸着防食剤を使用します。

包装物(湿気)

密封環境での湿気を制限し錆を防ぐには、亜硝酸ジシクロヘキシルアンモニウムなどの吸着型防食剤を用います。

酸洗浴(酸)

有機アミン系などの吸着型の防食剤を使用し、酸洗時の金属溶出を防ぎます。防錆油では中性環境下での吸着性を重視しますが、酸洗では酸性環境での吸着性が高いことが重要な条件です。

その他にも、以下のような活用例があります。

  • タンク/パイプ(水)
  • 塗料(水分)
  • 原油常圧蒸留塔頂部(酸)
  • 油井/原油/天然ガスパイプライン(CO2+塩水)

亜鉛を用いた防食

亜鉛は、大気中で起こるさまざまな腐食において防食効果が期待できる金属です。一般には、工場、駅舎、鉄塔、倉庫といった鋼製構造物の鉄骨や部材に、亜鉛めっきを施す形で活用されます。ここでは、亜鉛を用いた防食の種類や作用について解説します。

防食材料としての亜鉛の活用

亜鉛は工場や倉庫・格納庫、海岸沿いの地帯の建築物などをはじめ、さまざまな場所で防食材料として活用されています。

亜鉛めっき構造物

亜鉛めっき構造物の部材は、鋼材を溶融めっき槽に浸す形で製造されます。そのため、めっき槽の寸法上、最大で15m前後の鋼材にしか適用できません。また、亜鉛めっきが施された鋼材は、溶接強度や溶接作業性が低下するほか、溶接後にその部分の亜鉛が薄くなるという問題もあります。

この対策として、溶接部分の付近はめっきを行わず、素地を露出した状態にしておくか、溶接前にグラインダーを用いて溶接部分のめっきを除去し、溶接後にめっきの補修を行うのが一般的です。

亜鉛めっき鋼板

亜鉛を薄い鋼板にめっきしたもの、亜鉛と素地を合金化したものなどがあります。主な用途は、自動車の内板・外板や排気系、熱反射板、パイプ、家電の部材、建築資材などです。近年は、活用分野が幅広い防食材料として注目されています。

各腐食における亜鉛の作用

さまざまな場所で活用されている亜鉛ですが、どのような腐食に対して有効なのでしょうか。それぞれの腐食のメカニズムと共に使用例をご紹介します。

隙間腐食

金属の構造物では、ボルト締結箇所や溶接箇所などといった金属同士の合せ目に、10μm程度の極めて狭隘な隙間が発生します。この隙間の内部は非常に狭いため、次第に酸素濃度が希薄になります。隙間腐食は、隙間の内外で酸素濃度に差ができ、酸素濃淡電池が形成されて起こる腐食です。

ステンレス鋼などの金属は、不動態皮膜を有するため、通常では濃淡電池腐食は発生しません。しかし、塩化物イオンが含まれる水溶液中の環境においては、酸素濃淡電池の電位差によって、隙間部分の塩化物イオン濃度が増大します。 かつ、腐食が進むにつれて隙間内部は著しいpH低下に至るため、一度腐食が始まると侵食が速いのが特徴です。

隙間腐食の対策として、部材同士をボルト締結する際に、部材の間に亜鉛製の専用シートを挟み込むという方策が開発されています。

異種金属接触腐食

異種金属接触腐食とは、異なる2種類の金属が接触している時に起こる腐食です。発生条件は、海水などの電解質溶液中において、2種類の金属が電気的に接触する場合と、やや特殊です。 貴な金属(イオン化傾向が小さい金属)側では、カソードとなってイオン化が抑制され、卑な金属(イオン化傾向の大きい金属)の側では、アノードとなって腐食が促進されます。

異種金属接触腐食は、異なる二種の金属の間にシート状の亜鉛パーツを挟み込んで防食電流を流すことで防止できます。異種金属接触腐食の特性を逆手に取って利用したのが流電陽極防食です。 防食対象物と亜鉛・マグネシウム・アルミニウムなどの金属を接触させることで、互いの電位差を利用して防食対象物側に防食電流を流すことができます。

溝状腐食

溶接した金属部材では、溶接部分が加熱・冷却に伴って金属組織、化学成分に変化を来たすので、母材とは異なった電気的特性を持ち、母材部分がカソード、溶接部分がアノードとなります。この時、溶接部分に沿うように溝状に発生するのが、溝状腐食です。

溝状腐食の防止策としては、テープ状、シート状、ペースト状などの亜鉛防食剤の施工があります。

まとめ

腐食の状況は、原因物質や使用環境によってさまざまです。耐食材料は、諸条件や用途などを考慮して適切な素材を正しく選定することが、防食を考えるうえで最も大切なことといえるでしょう。 環境制御による防食は腐食原因物質を取り除いたり、防食剤を利用したりして、腐食の起こりにくい環境を作り出すことを目的とします。構造物の耐用年数の向上や性能維持に取り組む際には有効な手段です。 腐食は、環境要素や原因物質によってさまざまな種類に分類されます。それぞれの腐食に特化した亜鉛めっき材、亜鉛防食剤が多数開発されているので、適した防食方法を選択しましょう。

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