治具・取付具の正しい使い方

ものづくりのあらゆる場面ででてくる道具の一つである「治具(JIG)」についての基礎知識と、実際に使われている治具やそれに類する道具の基礎知識から、実際の加工場面における治具の使い方まで、図や写真を通してご紹介していきます。
第1章 治具の基礎知識

1-1 治具の目的と特徴

(1)治具とは

工作物をしっかり固定しないと、切ったり削ったりすることが難しいですね。それだけでなく、安全に作業をすすめることも難しくなります。治具の目的は、工作物をしっかり固定することにあります。

でも、加工方法や工作物の形、材質が違えば、固定方法も違ってきます。

工作物の固定で考えなくてはならないことは、以下の2点です。

  1. 基準となる面や位置を決める
  2. 固定するときの力と、その力による工作物への影響

単純に「固定するだけで良いじゃないの?」と思いがちですが、この2点をしっかり考えることがものづくりの基本となります。このページは、ものづくりのあらゆる場面ででてくる道具の一つである「治具(JIG)」についての基礎知識と、実際に使われている(売られている)治具やそれに類する道具(工具)の使い方を順次紹介します。

 

(2)位置決め・・・治具を使う意義

写真1はアルミニウム板です。板のままでは役に立ちませんが、四隅に穴があることで蓋など機械の部品として使うことができます。このとき、この穴がずれていると相手側の穴と合わないため、ネジがはいりません。これでは蓋になりませんね。

写真1
写真1

正確に狙った位置に穴をあけるためにはどうしたらよいのでしょうか?

穴をあけたい場所に印を付ける。ケガキ作業(写真2)で穴位置を決め、センターポンチを打って(写真3)ボール盤でドリル加工するという手順ですね。この場合、アルミニウム板はセンターポンチの刻印とドリルの先端を丁寧に合わせて(写真4)手 でしっかり押さえてボール盤のテーブルに固定(写真5)し、穴加工します。ここで難しいのはアルミニウム板を固定するときに穴の位置にドリル先端をピタリと一致させることです。この時の合わせは熟練が必要です。センターポンチ作業は多少位置がずれてもポンチの窪みがガイドとなって穴の位置を保つ役割があります。しかしこのセンターポンチをケガキ線の交点に正確に打つのも熟練のいる作業です。一個や二個ならこのように一つ一つ丁寧に印を付けてもよいと思いますが、100個作ってと言われたらどうしますか?1000個だったらどうしましょう。熟練を要する作業です。有能な熟練作業者の手を長時間このような仕事に取られていたのでは困ります。

写真2
写真2

写真3
写真3


写真4
写真4

写真5
写真5

そればかりか、このような方法で一個一個に穴をあける場合、百発百中とはいかず何個かは穴の位置がズレてしまい、多くの不良品が出てしまいます。一個や二個ならば集中力もあり、ミスは少ないのですが、多数を安定して作るには工夫が必要です。ここで登場するのが位置決めの治具なのです。

それではどのような治具にすれば良いのでしょうか?

アルミニウム板が正確な寸法で切断されていれば、板の四隅の端から決まった位置にドリルの先が来るようにすればよいことになります。ボール盤を使うので、テーブルにアルミニウム板を固定すれば板に対してドリルの刃は直角になるので安心です。

これを実現する方法はたくさんあるのですが、手近なものを使って考えてみましょう。

写真6を見てください。長辺を突き当てる長い板、短辺の端を決めるピン(ネジの頭)、穴加工の圧力を受けても変形しないように下にも当て板を配置した簡単なものです。ドリルの刃先が正確に穴の中心にくるようにこの治具をボール盤のテーブルに固定し、板を突き当ててフリークランプで固定すれば、誰でも正確な位置に穴をあけることができます。注意することは切りくずなどを挟まないで、正確に突き当てて固定することだけです。これなら100個でも1000個でも効率よく加工できる。十分治具として働くのです。

写真6
写真6

 

(3)自由度と拘束条件

それでは写真6のものがどうして治具として働くかを考えてみましょう。

アルミニウムの板をXYZの三次元空間に置いてみましょう。図1を見てください。この板はXYZの3軸に添って平行移動するとともに、XYZの各軸で回転します。このことを難しい言葉ですが「6個の自由度を持つ」といいます。工作物を固定するということは6個の自由度をすべてなくす。言い換えると「6個の自由度を拘束する」ことです。

図1
図1

工作物を加工するという事は、工作物の持っている自由度と工作機械の座標を合わせて刃物との位置関係を決めるということです。写真6は工作機械(ボール盤)の主軸(ドリルの刃)と直角に工作物(アルミニウム板)が固定できるテーブルがありますね。

主軸(ドリルの刃)をZ軸とすると、ボール盤のテーブルに板を置いたことで、Z軸と直交するX-Y平面に拘束することになります。さらに、X軸の回転、Y軸の回転も拘束していることに気が付きます。これの関係を図1に示します。この状態では板はX-Y平面で自由に移動できます。これを拘束しているのは長辺の当て金具です。この金具はX-Y軸の回転を拘束すると同時にZ軸と長辺の距離を拘束しています。この関係を図2に示します。これで板は長辺に添って左右にスライドする自由しか残っていませんが、突き当てピンによってこの平行移動も拘束します。これで6個すべての自由度を拘束することができました。

 

執筆: 株式会社日本中性子光学 河合 利秀

『治具・取付具の正しい使い方』の目次

第1章 治具の基礎知識

第2章 タップ加工における治工具

第3章 穴加工における治工具

第4章 旋盤加工における治工具

第5章 フライス盤加工における治工具

第6章 マシン(ミーリング)バイス

第7章 クランプシステムとは

第8章 フライス加工を助ける補助的な治工具

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