測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
7-2 直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>
直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
工作機械のテーブルや刃物台などの直線案内精度を測定するのはI(アイ)ビーム型ストレートエッジ、定盤やブロックゲージの平面を検査するのはナイフエッジ型ストレートエッジ、床に設置して、定盤と同じように長手方向の直線を保証する直線定盤などがあります。
ここでは最も使う頻度の高い直線案内の精度を測定・検査するアイビーム型ストレートエッジを中心に解説します。
バーニア式ハイトゲージは操作する箇所が多数あるので、まずそれぞれの名称と機能を確認しましょう。ハイトゲージの各部の名称と機能は以下の通りです。
最も多く使われるのは鋼鉄製のI(アイ)ビーム型ストレートエッジ(写真1)です。これは断面がアルファベットのIの形からこのように呼ばれ、A級とB級があります。フラットバーのような形状(断面が長方形)のべベル型ストレートエッジは現場使いが中心となるのでB級が多く、Hチャネルと同じ断面のチャネル形や断面が正方形の天然石ストレートエッジは精密級が多く恒温室などで使用します。

写真1 アイビーム型ストレートエッジ
アイビーム型ストレートエッジは、概ね300mmから数mまで、色々な長さがあり、上下の測定面は硬く焼き入れされて、傷が付きにくくなっています。ストレートエッジは精度検査表(グラフ)が付属しているものもあるので、実際に測定するときはこの誤差を考慮します。
写真2はフライス盤X軸の直線案内精度を測定しているところです。この写真のようにコラム側にストレートエッジを置き、テーブルにダイヤルゲージ(この場合は一目盛り1μmのピークメータ)をマグネットスタンドで固定します。ストレートエッジはテーブルに平行に置きます。

写真2 X軸の直線案内精度測定
ストレートエッジを平行に置くコツは、中央付近300mm程度の範囲でダイヤルの目盛りがほぼ同じ値を示すようにストレートエッジをタッピング(ドライバーの柄の部分などで軽く叩く)で微調整します。
これで準備は完了。中央付近でダイヤルをゼロに合わせ、フライスのテーブルを左右に動かし、ダイヤルの動きを見ます。ダイヤルゲージは理想的な直線基準であるストレートエッジとテーブルの移動経路の偏差を示しています。
これが直線案内誤差です。
このフライス盤の可動範囲は530mm、この時の測定ではわずかにうねりがあり、左右両端は10μm以上変化しますが、よく使う中央400mm範囲は2~3μmの誤差しかなく、大変優秀であることがわかりました。このときのダイヤルの値を連結合成したものが写真3です。このフライス盤のX軸は案内機構の遊びを極小に調整したので、左右どちらに動かしても同じ値を示したので、遊びのない直線送りになったことも確認できました。
この時に使うダイヤルゲージは分解能の高いテコ式ダイヤルゲージ(ピークメータ)がよく、測定誤差も少なくなります。

写真3 測定結果
動きのある装置を組み立てるとき、直線案内機構を精度よく取り付ける場合にもストレートエッジを使います。この場合は直線案内機構の固定側にストレートエッジを、移動側にダイヤルゲージを取り付けます。写真4はリニアガイドを使った直線案内機構の組立作業です。このようにストレートエッジを使えば難しい直線案内機構の調整も簡単にできます。

写真4 リニアガイドを使った直線案内機構の組立作業
Iビーム型ストレートエッジが直線を検査するための「細長い面」であるのに対し、ナイフエッジ型ストレートエッジは文字通りの直線です。
ナイフエッジ型ストレートエッジの形状は写真5のように三角形柱になっており、3本のエッジが正確な直線となっています。この直線は、長さ標準の項で紹介するブロックゲージなど比較的小さい面の平面を検査するときに大いに役に立ちます。

写真5 ナイフエッジ型ストレートエッジ
ナイフエッジ型ストレートエッジは片手で持てる小型のものが多く、ブロックゲージ・アクセサリに入っています。
ナイフエッジ型ストレートエッジの使い方は極めて簡単です。写真6のように、検査したい面にナイフエッジ型ストレートエッジの稜線(エッジ)を当て、光を透かして見るだけです。検査面の直線性が良ければナイフエッジを当てても向こう側の光は見えません。このようにして、検査面の色々な位置にナイフエッジをあてて、光が漏れているかどうかを見るのです。

写真6 ナイフ型ストレートエッジ
ナイフエッジによる平面検査は定性的に判断できますが、定量的な評価はできないので、三次元測定機やレーザー干渉計など高度な平面検査をする前の簡易検査として有効です。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。