測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
5-2 リンギング(密着)を覚えよう
ブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。鋼鉄製もセラミック製も、リンギングの方法は同じですので、順を追ってみてみましょう。
リンギングを成功させるためには、ブロックゲージの基準面(接合面)の汚れを完全に取り除きます。 グリスや油が残っていると、リンギングが一見成功したように見えますが、接合面に油の層が残り、僅かですが寸法が大きくなってしまい、誤差の原因になります。 従って、リンギングを行う直前にも基準面をよくふき取ります。
この時、安価なティッシュペーパを使うと、紙の繊維が毛羽立ち、接合面に残ってしまうため、よくありません。レンズペーパーなど、毛羽立たない紙ウエスをお勧めします。
分厚いブロック同士をリンギングすることから練習しましょう。50mm以上のブロックをリンギングでつなぐ練習は、上手~下手がすぐ分かるので練習に最適です。
写真1のように、左右の手でそれぞれブロックを持ち、ブロックの基準面を十字の形に向かい合わせるように押し付けます。この状態から写真2のように2個のブロックが平行になるまで手首を回します。 基準面に隙間をつくらず上手く回せば、空気を押し出して基準面がピタリとくっつき、2個のブロックが接合できるはずです。 リンギングが成功していれば写真3のようにブロックを振っても接合したブロックが外れるようなことはありませんので、このようになるまで、何度も試してみてください。

写真1 リンギング開始

写真2 リンギング完了

写真3 接合したブロックゲージ
2個のブロックを元通りに外す場合は、逆の動作です。両手でブロックを持って、十字になるまで捻れば僅かな力で外れます。
分厚いブロックゲージに薄いブロックゲージをリンギングする作業は最も頻度が高く、頻繁にあるので、スピーディにできるよう練習しましょう。
この組み合わせでは、厚いブロックゲージを小型の精密バイスで固定すると作業が早く確実になります。素手で触る時間も短いので熱膨張の緩和時間を短くできるのもメリットです。
まず最初に、写真4のように厚いブロックゲージの基準面が上になるように精密バイスに挟み、基準面の上に薄いブロックゲージを滑らせ、面を合わせます。この作業は素手の方が確実です。
精密バイスが無ければ分厚いブロックゲージを手で持ち、同じように作業を進めればOKです。
素手で行うので熱膨張などの影響が出ている可能性もあります。手元にオプティカルフラットがあれば、ブロックゲージの上にオプティカルフラットを載せて、ニュートンリングの縞模様が少ないことを確認してください。 渦巻き状の縞模様が見えていたら、指の熱によって薄いブロックゲージが膨張・変形している証拠です。

写真4 厚いブロックに薄いブロックを載せる

写真5 薄いブロックゲージを外す
外す場合は、写真5のように薄いブロックゲージを十字の位置まで回し、そのまま横に滑らせます。
この作業が最も手間がかかります。
まず最初に(3)の手順で分厚いブロックゲージの上に接合したい一方のブロックゲージをリンギングしておきます。次に、写真6のようにもう一方のブロックゲージを載せて、中央を指で押しながら回転させるように滑らせて縦横を揃えます。 次に、最初にリンギングした部分を写真7のように回転させて、2枚の薄いブロックゲージを取り外します。

写真6 (3)で接合した上に2枚目の薄いブロックゲージを載せる

写真7 薄いブロックゲージ2枚を厚いブロックゲージから外す
2枚の薄いブロックゲージをリンギングした場合は熱による変形が出ることが多いので、しばらく定盤の上に置いて温度が馴染んだらオプティカルフラットを載せて基準面が曲がっていないかを確認します。
最初は手間がかかりますが、覚えてしまえば簡単です。
動画 ブロックゲージの使い方
(1:00頃~リンギングの紹介があります)
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。