測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
5-1 ブロックゲージとは
ブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。 この小片を2~3個組み合わせるとあらゆる寸法を作り出せるので、精密機械組立時の寸法基準にしたり、ノギスやマイクロメータの精度の確認(これをトレーサビリティ認証という)にも用います。

写真1
この章では、ブロックゲージについての基礎知識と便利な使い方を紹介します。
ブロックゲージの材質は熱膨張係数が同じ鋼鉄やセラミックスです。鋼鉄製は錆びるので最近はセラミックス製が主流となっています。 どちらも使い方の基本は同じですが、鋼鉄製は使い終わった後に錆を防ぐための処作業が必要です。どちらも、精度によってK級、0級、1級、2級の4段階に分かれています。等級と精度については表1を参照してください。
表1:ブロックゲージの精度と用途
級 | 目的 | 用途 | 精度(μm) |
---|---|---|---|
K級 | 参照用 | 学術研究 | 0.05 |
0級 | 標準用 | 工業用ブロックゲージの校正 | 0.1 |
1級 | 検査用 | 機械部品・工具の検査 | 0.16 |
2級 | 工作用 | ゲージ製作・測定器の感度調整 | 0.2 |
私たちが工場など作業現場で使うのは2級です。セットの内容は目的に応じて色々な種類がありますが、破損や紛失で欠品になっても大丈夫。小片一個でも買うことができます。
ブロックゲージの取り扱い方を覚えれば、日常作業の工作精度向上に大いに役立ちます。取り扱いの基本は、(1)錆や汚れを防ぐ、(2)熱膨張を抑える、の2点です。
鋼鉄製ブロックゲージは素手で触ると錆の原因となるため触らせてもらえなかったのですがセラミック製の出現で誰でも触れるようになりました。ブロックゲージは基準器なので工場にとっては大切な工具ですが、大切にするあまり「使わない」のではナンセンスですね。
(1)錆や汚れを防ぐ
素手で触らないのが一番ですが、後の項で紹介するリンギングを行うときは素手の方が確実です。従って「素手でも良いので素早く」を心がけましょう。 使用前は、ウエスで丁寧に小片を拭きます。使い終わったら手の汗や汚れをふき取って箱の所定の位置に戻します。鋼鉄製の場合は防錆油あるいはグリスを塗ってから収納します。これらの作業は精密作業用手袋(写真2)を両手にはめて実施します。

写真2
(2)熱膨張を抑える
精密作業用手袋をはめた状態で作業を進めるのが基本ですが、リンギングがうまくできない時は素手で作業を行います。素手で作業した時は手の熱がブロックゲージを温めたことで「膨張」しているので、リンギングを行った小片の列は定盤の上に置いてしばらく待ちます。 測る物やブロックゲージ、マイクロメータなどの温度が一緒でないと誤差になるので、全て定盤の上に置いて、温度が馴染むまで待ちます。熱膨張による誤差を減らすには「待つ時間」が必要なのです。
準備が整ったらコーヒーを一杯飲む。これぐらいの余裕がほしいですね。
ブロックゲージを使うためには、毛羽立たないウェス、精密作業用手袋の他にも、ハンカチ手度の大きさのなめし皮(セーム革)やピンセットがあると便利です。
これらの小物をひとまとめにした「ブロックゲージお手入れセット」が市販されています。このセットには、精密作業用手袋、レンズペーパー(毛羽立たない紙ウェス)、オプティカルフラット、セーム革、ラッピング砥石、ピンセット、防錆油が上手に収納されています。 オプティカルフラットは小片の検査用、ラッピング砥石は修正用の工具、これだけ揃っていれば安心です。
次に、ブロックゲージの簡単な使用例を紹介します。
(1)マイクロメータの精度検査(校正)
ブロックゲージ活用の代表マイクロメータの校正です。原点(ゼロ)合わせはできますが、実際に測定した値が本当に正しいかどうかは分かりません。 そこで、任意のブロックゲージをマイクロメータで測定し、ブロックゲージの厚さ寸法とマイクロメータの測定値が一致していれば「このマイクロメータの測定値は正しい」ことが確認(写真3)できます。これを校正と言います。

写真3
(2)板状部品の検査
板状部品の多くは平面精度がある程度必要です。もしA4程度の額縁のような形の部品の底面の平面精度が必要と言われたらどうしますか。このような作業は三次元測定機を持っていなくても大丈夫。定盤とブロックゲージ、マイクロメータがあれば簡単にできます。
準備作業は、厚さ1mmのスペーサを3個作るだけです。厚さ1mmの金属板をブロックゲージと同じ程度の大きさに切ってバリを取って、マイクロメータで厚さを精度よく測定しておきます。
額縁状の部品を定盤の上で軽く左右上下に摺動させると、定盤と接している部分にわずかに擦り傷が付きます。この部分が「当たり面」です。
定盤の上に額縁状の部品を置き、「当たり面」の下に適当な3か所に先に作ったスペーサを挟み、定盤の基準面から額縁状部品の底面を1mm持ち上げます。 この状態で1.000mmから順番に、定盤と額縁状の品物との間にブロックゲージを入れて、等高線を描きます。このようにすると、枠の捻じれ具合が一目瞭然ですね。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。