測定工具の基礎講座

ものづくりの現場において欠かせない存在、「測定工具」。
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
第4章 定盤

4-3 定盤のメンテナンス

1、鋳鉄製定盤のメンテナンス

・日常の手入れ

鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。

それでも表面に錆が出ることがあります。そのような時は、粘性の高いグリス(リチウム系万能グリスなど)を用い、布ウェスを使って塗り込むようにします。 鋳鉄製定盤の表面は細かく亀裂が入っており、そこに油が入り込むため、防錆だけでなく潤滑の役割もします。

写真1 時々油をぬる

写真1 時々油をぬる

・長期間放置されていた定盤の手入れ(錆がひどい場合)

長期間放置した鋳鉄定盤には強固な赤錆が出ています(写真2)。 このような場合は、写真3のように、錆びた面に機械油をかけて油砥石で擦ります。大まかにさび落がおちたらウェスで表面をふき、状態を観察します。 定盤の上面に赤錆がなくなったら仕上げに取り掛かりましょう。

写真2-1 錆びた定盤の基準面

写真2-1 錆びた定盤の基準面

写真2-2 分厚い錆

写真2-2 分厚い錆

写真3 ひどい錆は油砥石で研磨

写真3 ひどい錆は油砥石で研磨

仕上げは、油をひかずに砥石で定盤表面を軽く磨きます。油をふき取った後に砥石で軽く磨くと、砥石が適度な目つまり状態になって余分に研磨することを防ぐ効果があるので、 定盤の水平基準面をキープしながら表面を磨くことができます。(この技法はフライス盤や旋盤などの工作機械のテーブル上面などをメンテナンスするときにも使えます)

写真4 錆を落とした定盤基準面

写真4 錆を落とした定盤基準面

・表面に凸凹ができたとき

定盤の面にブロックなど重い物を落として、表面に凸凹ができてしまった時は、やすり(油目)や、油砥石を使って凸部を取り除きます。 概ね凸が取れたら、さらに目の細かい油砥石で「錆がひどい時」と同じ要領で凸部を中心に研磨します。 この場業で凸が取れたかどうかを調べるために、平らな面のあるこぶし大のもの(例えばハイトゲージやトースカン、Vブロックなど:後の章で解説します)を基準面上せて滑らせます。 スムーズに滑れば完了。もし凸が残っていれば、凸の部分で摩擦抵抗が変わるのですぐわかります。写真5は凸凹が付いたコンターマシンのテーブルを、おなじ方法で修理したものです。 このように凸の部分がきれいに削り取られています。あとは「日常の手入れ」の手順で仕上がりです。凹部はそのままで問題ありません。

写真5 打痕凸凹の補修

写真5 打痕凸凹の補修

・使う前のひと手間

石定盤を使い前に必ず実行してほしいことは基準平面となっている面を紙ウェスかマイクロファイバーの布で乾拭きすることです。 油類や溶剤などが付いたときは、市販のグラナイト専用クリーナーを吹きかけてウェスでふき取ります。テープなどの粘着物が付いたときは、剃刀の刃やスクレーパーで軽くそぎ落とし、 クリーナーを吹きかけてふき取ります。けば立たない紙ウェスの代用として、レンズふき取り用の不織布も使えます。

運悪くものを落としたりして「欠け」や「凹」を作ってしまったときは、破片を丁寧に取り除き、クリーナーを吹きかけてふき取ります。

2、石定盤の手入れ

石定盤は鋳鉄製定盤と違って、石なので重たい物や尖ったものを落とすと欠けたり割れたりします。 鋳鉄定盤は意外に被害が少ない(修理できる)のですが、石定盤は一度割れたら元には戻りません。また、硬いように見えますが砂埃状の埃は大敵です。 砂埃は研磨砥粒と同じで、定盤の基準面を削ってしまうため、使う前に上面を空拭きして埃を取り除くことが大切です。

3、定盤よもやま話

今でも最先端技術の一つとして「限りなく理想的な平面」を実現するために世界中がしのぎを削っている「定盤」。 定盤の平面は3枚の定盤を互いに擦り合わせて作ります。3枚の定盤の平面部を順次互いに擦り合わせて、高い部分を手作業で削り取って、理想的な平面に近づける地道な作業で生み出されます。

この方法は1830年頃、ジョセフ・ウィットワース(ホイットワースともいいます)というイギリス人によって確立しました。 このウィットワースさん、旋盤を発明したモーズレイの工場で修業し、それまでバラバラだったネジを規格化(ウィットワース・スクリュー)、理想平面を基準にした精密加工及び精密組立の手法を確立、 近代機械文明の基礎を作りました。ウィットワースはマイクロメータも独自に作っており、この時代のスーパーエンジニアでした。

執筆:株式会社日本中性子光学 河合 利秀

『測定工具の基礎講座』の目次

第1章 ノギス

第2章 マイクロメータ

第3章 ダイヤルゲージ

第4章 定盤

第5章 ブロックゲージ

第6章 水準器

第7章 基準器

第8章 トルクなどの力を測る

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