測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
3-1 ダイヤルゲージの特徴と種類
寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。まさにこの変化分を読み取ることができるように工夫した測定器がダイヤルゲージです。
ダイヤルゲージは、写真1のように、ストロークが数mmのスピンドル式と、カンチレバーの回転角をダイヤルで拡大するテコ式の2種類があります。テコ式はピークメータとも言い、スピンドル式より分解能が高いのですが、ストロークは1mm以下のごく僅かな範囲しかありません

写真1:ダイヤルゲージ
スピンドル式ダイヤルゲージの内部を図2に示します。スピンドルの上下動をラックギアとピニオンギアでダイヤルを回転させて変化を拡大表示します。スピンドルの棒の先端にはラックギアが切ってあり、その上下動によってピニオンギアが回転することで、スピンドルの棒の僅かな動きをダイヤルの回転に変えて表示しています。

図2:スピンドル式ダイヤルゲージ
スピンドル式はストロークが長くとれるので、変化の大きな対処物を見るときに便利です。一目盛りが10μmに相当する分解能がありますので、旋盤やフライス盤を使った金属加工では丁度よい精度となります。
写真3のスピンドル式ダイヤルゲージは一回転で丁度1mmを表示するようになっており、中央下の小さい針表示によって全体のストロークを表すようにして、一回転を超えた変位も読み取れるようにしてあります。

写真3:スピンドル式ダイヤルゲージ
図4はテコ式ダイヤルゲージの内部です。テコの反対側に大きな歯車があり、テコが動く角度に従って歯数の少ないギアの軸が回転して表示の針を大きく動かすようになっています。 テコ式ダイヤルゲージは高い分解能(1~2μm)を持っていますが、変化分がテコの回転運動になるので、 変動が大きいと実際の値より小さく表示される欠点があります。さらに、テコの動きを読み取る構造のために測れる範囲が小さいという欠点もあります。 しかし、テコの軸受部分が摩擦で連動しているため測定範囲を超えた動きがテコにかかったとしても連結部分で適当に滑ってくれるので、内部のメカニズムやテコ本体が壊れにくいという長所もあります。

図4:テコ式ダイヤルゲージ
分解能が高い測定器はどうしても誤操作による破損が心配になるのですが、テコ式ダイヤルゲージは巧妙なテコの軸受機構によって大きな負荷や変動があっても壊れることがないのは、現場で使う立場からは有りがたいことこの上なし!といったところです。
図5はデジタルインジケータです。これはダイヤルゲージのように変化分をデジタル表示するもので、1μm程度の分解能を持っているのですが、 内部は光電式のモアレ干渉縞などを用いたデジタルリニアスケールとなっており、落としたりすると壊れてしまうことがあります。 ダイヤルゲージは落としやすい使い方をする場合があるので、衝撃に弱いデジタルインジケータはラフな現場作業では注意が必要です。

図5:デジタルインジケータ
ダイヤルゲージはそれ単体ではほとんど役に立ちません。ダイヤルゲージを固定する道具が必要になります。
スピンドル式ダイヤルゲージは裏蓋の取り付け軸(穴)やスピンドルを、テコ式ダイヤルゲージはアリ溝を挟む専用の爪が必要です。そのために作られたのがマイクロメータ用マグネットスタンドです。
写真6はスピンドル式ダイヤルゲージを取り付けたアーム型マグネットスタンド、図7はテコ式ダイヤルゲージを取り付けたジャーマン式(油圧式)マグネットスタンドです。 ダイヤルゲージは工作機械に関連して使われることが多いので、鉄の部分にマグネットで固定できるのはとても便利です。

写真6:アーム型マグネットスタンド

図7:ジャーマン式(油圧式)マグネットスタンド
写真8はフライス盤の主軸に取り付けた真鍮の丸棒で、額縁形状の一部を押し曲げ、反りなどを修正しているときの写真です。このようにダイヤルゲージを多数配置すると、歪による変形が手にとるように分かり、修正作業がはかどります。

写真8:ねじれ修正
写真9のようなダイヤルゲージ専用スタンドは大量部品の寸法を検査するのにとても便利です。基準となる寸法はブロックゲージで作ります。このように、基準となる寸法と比較することがダイヤルゲージ本来の使い方です。

写真9:ダイヤルゲージ専用スタンド
ダイヤルゲージと専用スタンドを使った検査では、ダイヤルゲージの測定子をカメラのレリーズと同じ要領で上に動かせる機構が不可欠です。 手で直接測定子を引き上げるとダイヤルゲージを動かしてしまう可能性があり、誤差が出やすいので注意が必要です。特に最小読み取り値が1~2μmのものは必ずレリーズを使うようにします。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
-
1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
-
1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
-
1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
-
2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
-
2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
-
2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
-
3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
-
3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
-
3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
-
4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
-
4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
-
4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
-
5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
-
5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
-
5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
-
5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
-
6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
-
6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
-
6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
-
7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
-
7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
-
7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。