測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
2-3 デジタル式マイクロメータの上手な使い方

写真1:色々なデジタル式マイクロメータ
デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。最近よく使う範囲を一本で対応できるようにと0~30mmのように測定レンジを拡大したものもありますが、基本は同じです。

写真2:デジタル式マイクロメータ(外測0~25mm)
デジタル式マイクロメータの各部の名称です。主目盛と目盛環の部分が寸法表示になっているだけで、他の構造は同じです。 寸法表示部分はメーカーによって多少異なりますが、電源スイッチ(ON-OFF)、HOLD、RESET、ZEROなどのスイッチがあります。 インチとメ-トルを切り替えられるものもあります。これはデジタルノギスも同様ですね。
デジタル式マイクロメータは品質管理用としてパソコンに測定データを送ることができる機能を持ったものもあります。データ転送の方法は各メーカーで独自の方法がありますので、メーカーのカタログを研究してください。
デジタル式マイクロメータは直接1ミクロンまで読み取れるところが素晴らしいのですが、そのままではこの測定値を信頼できません。 それは、測定力のわずかな違いによる変形や、測定物や測定器そのものが温度変化によって伸び縮みする現象が、1ミクロンの精度で図ると見えてくるからです。
例えば、ラチェットを使わずに測定物を挟んでみると、どこでシンブルを止めたらよいかわからないぐらいに挟む力の具合が難しいことが実感できます。ラチェットを使って測定力を毎回一定にするころが如何に重要であるかがわかると思います。
さらに、測定物の温度が高い状態・・・例えば、直射日光が当たる場所で温まっている時に測ってみましょう。 同じものを十分に冷えた状態でも測ってみましょう。暖かいときよりも冷たい時の方が小さく表示されるはずです。つまり、精度が良いほど、測定する時の温度が重要であることを覚えておいてください。同様に、マイクロメータのフレームを素手で触っていると温めてしまうことになり、 正しい測定ができなくなります。こんな時は写真3のようにマイクロメータスタンドを使いましょう。

写真3:マイクロメータスタンドを使った測定
デジタル式マイクロメータは電源スイッチを入れて、ゼロ測定を行い、表示をリセット(ゼロにする)操作を行ってから測定を行います。 これは毎回ゼロ(原点確認)を行っていることと同じなので、一般のマイクロメータのように毎回ゼロ合わせをする必要ありません。 しかしこのままでは測定値が正しいかどうかを確認することができないので、時々ブロックゲージなどの長さ標準を使って寸法を正しく表示(測定)しているかどうかを検査する必要があります。

写真4:ブロックゲージ(最も安価なものでOK)
精度が良いことに安心して検査を怠ると、狂っていることに気がつかずに不良品を作ってしまうことにもなりかねませんね。絶対的精度(トレーサビリティー)を確認するためにはブロックゲージ(長さ標準)を用いて測定値が正しいかを見ます。
それでは、ブロックゲージを使った検査の手順を紹介します。
写真5のようにマイクロメータスタンドにデジタル式マイクロメータをセットし、検査に使うブロックゲージ(5mm、10mm、15mm、20mm、25mmがあればOK、適当に2~3個あれば十分です) を準備します。鉄製のブロックゲージは油をよく拭き取っておきます(注:鉄製ブロックゲージは使い終わったらグリスを付けて元の箱に戻します)。 セラミック製のブロックゲージはこうした手間がいらないので便利です。ブロックゲージは測定する順番に並べておくとよいでしょう。

写真5:マイクロメータスタンドと検査に使うブロックゲージを準備
これらの準備は、マイクロメータやブロックゲージが検査をする部屋の温度に馴染むよう、検査をする数時間前に行っておきます
次に、写真6のようにケバのないきれいな紙を軽く挟んで上下左右に動かしてホコリを拭き取ります。

写真6:アンビルとスピンドル先端の清掃
マイクロメータのゼロをセットしたら、小さい方のブロックゲージを挟み、測定します。5.000mmのブロックゲージなら5.000と表示されるはずです。ラチェットを使って適正な測定力になるよう注意しながら3回ほど測定を繰り返し、ブロックゲージの厚さと同じ値になっていればOKです。
同様に、10.000、15.000、20.000、25.000と測っていき、測定値が正しく表示されることを確認します。
この時、最初のリセット(ゼロ合わせ)の加減では測定値の最後の桁が1~2ポイントのプラスマイナスが出る可能性がありますが、メーカーが保証している精度に十分はいっているので、この程度の誤差があっても合格です。
この例のように5mmおきに測定して誤差を記録しグラフにしておくと精度表としても使えます。マイクロメータヘッドは一回転で0.5mmであることから、5、10、15・・・というようにちょうど良い数字で検査すると見逃してしまう誤差もあるので、時には中途半端な寸法で検査してみるとよいでしょう。
毎年決まった時期に検査を行い、記録を蓄積していくと、精度が徐々に悪くなっていくのもわかるので、買い替え時期も見当がつきます。
この検査はデジタル式マイクロメータだけではなく、一般のノギス、デジタル式ノギス、一般のマイクロメータも同じように実施しておけば、自分が使っている測定工具の信頼性が一段と高まり、自信を持って作業に臨むことができます。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。