測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
2-2 マイクロメータのゼロ合わせ
外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。 ノギスのように目盛のある直線から離れたところに測定物がある場合、目盛ある直線と測定物を挟んでいる直線が平行でなかったり、はさんでいる金具(ジョー)が斜めになっていたり、 挟む力で変形したりと、誤差の原因となる要素が複数重なっていることがわかります。それに比べマイクロメータは至ってシンプルですね。 測定したいものと長さを測る部分が一直線上にならんでいるんですからこれ以上簡素な形は他にありません。

写真1:ノギスとマイクロメータ
マイクロメータはもう一つ工夫があります。それはラチェットです。測定するものをアンビルとスピンドルの先端で挟むのですが、 ねじになっているのでシンブルを無理に回すと大きな力が発生して、マイクロメータのフレームを変形させたり測定物を変形させるようなことになり、 正しく測定できません。そのためにラチェットで測定力を一定にするのです。

写真2:マイクロメータのラチェットを使う
このようにして、マイクロメータはたいへん精度よく測定できるため、目盛環にバーニアスケールを付けたり、デジタル表示によって0.001mm・・・1ミクロンまで読み取れるようにしたもの(デジタル式マイクロメータ)もあります。
マイクロメータの高い精度を活かすために、もうひと手間をかけると良いでしょう。それはゼロ合わせ・・・原点の確認です。原点がずれているのを知らずに測定値を鵜呑みにして、たくさん不良品を出した例があります。マイクロメータが高精度であるがゆえに陥る失敗です。ここではゼロ合わせの方法を紹介します。

写真3:長さ基準棒と引っ掛けスパナ
ゼロ合わせを行うには写真3のような「基準棒」と「引っ掛けスパナ」が必要です。これはマイクロメータを購入すると専用ケースに入っています。(0~25mmは基準棒は入っていません)
・ゼロが合っているかを確認しよう(0~25mm外測マイクロメータの場合)
マイクロメータは精度が良いのですぐに測定したいところですが、ちょっと待ってください。測定する前にゼロが合っているかを確かめてください。いくら精度が良くてもゼロ(原点)が合っていなければ正しい測定はできませんね。

写真4:マイクロメータの原点確認(0~25mmの場合)
写真4のようになにも挟まない状態でシンブルを回していき、ゼロが合っているかを確認しましょう。この時、アンビルとスピンドルの先端にゴミを挟んでいると正しくゼロになりません。

写真5:25mm以上のマイクロメータの原点校正用長さ基準

写真6:マイクロメータの原点確認(0~25mmの場合)
25~50mm、あるいはそれ以上の長さのマイクロメータは写真5のように原点校正用の標準棒が入っています。写真6のように基準棒を挟んで、ゼロを確認します。
この時も、ラチェットを使い、何度も確認します。わずかなズレは黙認します。いくらラチェットを使っても測定圧力(締め付け力)が一回一回わずかに違ってしまいます。 なにも挟んでいないと思っても、小さなホコリやゴミを挟んでいることもあります。ゼロにならないようならアンビルとスピンドルの先端をきれいに拭き直して、再度ゼロを確認してください。
・ゼロが合っていない場合(校正)
何度やってもゼロがずれて同じ値を示すという場合は、付属品のマイクロメータ用引っ掛けスパナ(キースパナとも言う)を使ってゼロ位置を合わせます。
マイクロメータを長く使っていると、マイクロメータヘッドをマイクロメータヘッドの取り付け位置が微妙にずれる、フレームが変形する、アンビルとスピンドル先端の基準面が磨り減るなどで、ゼロが合わなくなってきます。
動画のように、マイクロメータのフレームをバイスでしっかり固定し、ゼロを測定、クランプでスピンドルを固定します。このときのゼロの位置のずれを直します。
次に引っ掛けスパナのカギをマイクロメータヘッドのスリーブにある調整穴に入れてゼロになるように回します。このときどちらに回すかを考えてくださいね。
ゼロの位置が合ったらクランプを緩め、再度ゼロを測定して、ゼロ位置が合っていることを確認します。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
-
1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
-
1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
-
1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
-
2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
-
2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
-
2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
-
3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
-
3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
-
3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
-
4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
-
4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
-
4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
-
5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
-
5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
-
5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
-
5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
-
6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
-
6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
-
6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
-
7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
-
7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
-
7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。