測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
1-3 デジタルノギスとダイヤルノギス

写真1:デジタルノギスの表示
第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。この理由が理解できれば、ノギスによる寸法測定の誤差の原因を緩和させるような使い方ができるようになり、デジタルノギスの0.01mmの高い分解能を生かせるようになります。

写真2-1:ノギスのスライダ部分の傾きとアッベの原理
ドイツの科学者アッベは、寸法測定のメモリの位置と、測定子(ノギスの場合はジョーで挟んでいる位置)が一直線上になければならないことを発見しました。これをアッベの原理と言います。
写真2を見てください。ノギスの場合、測定したいものはジョーで挟んでいますが、メモリはメインスケールについているので、どんなに工夫しても測るところとメモリが一直線上に並ぶことはありません。二つのジョーで挟んで測定できるので現場ではとても便利なのですが、残念ながら数学的には誤差が大きく出る測定機なのです。第二章で繰り返し強調したように、親指でジョーを押しすぎると誤差が大きくなります。
ジョーで挟んでいる位置から離れた位置のメインスケールにスライダが乗っていますね。このように動く部分には必ず隙間があります。この隙間が問題です。押す力が大きいとこの隙間分だけ傾き、正しい寸法が表示できません。デジタルノギスでも同じことが起きます。
ガタがない場合でもスライダーを押しすぎると、メインスケールとジョーで構成するコの字型の構造が歪んで変形し、ガタがある場合と同じように誤差となります。
ノギスは、いくら読み取りの分解能を高くしても、スライダのガタや変形によって測定精度が制限される。アッベの原理とは違う構造である。これが測定精度を±0.2mmとしている理由です。
ここまで説明すれば、勘の良いかたはお気づきですね。スライダ側のジョーの扱い方を工夫することによって測定精度を上げることができます。

写真3:デジタルノギス

写真4:ダイヤルノギス
実際に測定するときに、ジョーを押し当てる力の入れ具合が適切であれば、ガタの影響もなく、弾性変形の影響もない測定が可能となり、写真3のようにデジタルノギスの分解能0.01mmがそのまま測定精度として使えるようになります。
このことは、ダイヤルノギスでも同じです。写真4のように、ダイヤルノギスはダイヤルのメモリがアナログなのでさらに細かいところまで読み込む達人がいます。自分のノギスとして管理し、微妙な力加減や当て方を会得すれば、メーカー保証以上の能力を発揮してくれるのがノギスという測定工具です。
「測定」は「再現性」があって初めて意味をもちます。誰がいつ測定しても同じ値になることを再現性といいます。
しかし、これまで説明してきたように、ノギスは安価に高精度な寸法の測定ができる便利な測定工具ですが、構造上誤差が出やすく、 バーニアスケールの読みも人による差が出やすいという欠点があります。つまり再現性が悪いのです。
そのためにメーカーでさえ0.05mmまで読み取れるのに±0.2mmの精度しか保証しないのです。それではどうしたらよいか。ノギスの持っている欠点を少しでも解消するため、スライダを押して測定物をはさむ力を必要最小限とするなどのノギス測定のノウハウを獲得する以外に道はないのでしょうか?みなさん、大丈夫ですよ。それは「何回も繰り返し測りなおす」ことでよいのです。
最低3回測って同じ寸法になればOK。もし図るたびに違っていれば、正しく測定できていません。3回測って同じ値になれば安心。
その場ですぐに読み取れるので、3回測るのに大して時間はかかりません。最初は慎重に、納得がいくまで測るようにすることをお勧めします。

写真5:測れないものがある
ノギスはちょうど人の手の大きさに合った便利な寸法測定の工具ですが、測れないものもあります。これは、測った数値の信頼性と言うよりは測るものの形状や特性に原因があるのです。 写真5を見てください。これらはノギスでは測れないもの・・・もう少し広い意味で、寸法を測定できないものの代表です。
例えば円錐の外径はどこで測ったらよいでしょう。曲がった金属板のような凸凹したものや輪ゴムのような不定形の物など、測るといってもどことどこの寸法を測ったらよいかわかりません。 「寸法測定」の「定義」は、「どこからどこまでの距離」です。「どこから」がはっきりしなければ測定しても意味がないことになります。同様に、測定しようとジョーで挟むと変形するようなゴム製品や薄肉パイプなどはやはり測定不能です。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。