測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
1-2 ノギスの4つの測定方法
ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。

写真1:ジョーで測定物を挟む(測定精度保証)
写真1を見てください。ノギスメーカーが測定精度を保証しているのはジョーで挟んだときだけです。クチバシによって「すき間の幅」や「穴の内径」を測る、デプスバーによって「穴や溝の深さ」を測る、 そしてステップによって「段差」を測る・・・合計4つの測定箇所(メーカーによっては4番目のステップが無い場合もあります)があります。しかし、ジョー以外は保証外となっているのですが、適切に使えば便利な機能です。
それでは、順次4つの測定箇所について、上手な使い方を紹介していきます。

写真2-1:丸棒の外径を測る(基本)
写真2-1は丸棒の外径を測っているところです。右手の親指でスライダーの指掛けを押し、ジョーが丸棒を挟みます。親指を強く押しすぎると実際の寸法より小さく表示されるので、軽く挟みます。

写真2-2:ノギスが斜めになると誤差が出る
写真2-2を見てください。丸棒の軸とノギスが直角になっています。ここが大切です。もしノギスが傾けばジョーが広がり、正しい寸法を読み取ることはできません。 測定したい物に対して直角になるようにジョーで挟むのは最初なかなか難しいので、慣れないうちは何回も当て直してください。ノギスの当て方、挟み方を会得すると短時間で正確に測定することができます。

写真3-1:クチバシを使った穴の直径測定
ジョーの反対側に突き出た部分をクチバシといい、穴やパイプの内径を測ることができます。写真3-1のようにクチバシを穴(あるいは溝)に入れて寸法を読み取ります。
クチバシによる内径測定は、 丸棒の外径測定に比べてノギスの当て方が難しくなります。

写真4-1 溝深さの測定とノギスの当て方
デプスバーを使った溝や穴の深さ測定では、メインスケールの端を基準面にまっすぐに立てることが重要です。

写真4-2 デプスバー先端の切り欠き
デプスバーの先端の角に切り欠きがあります。段差や溝の底と壁の際がわずかに丸くなっていることが多いため、この丸い部分を避けてデプスバーの先端が正しく底面に届くようにするための工夫です。従って、段差や溝の測定ではこの切り欠きの位置をよく見て、壁際の丸みを避けるように当てます。

写真5 段差をステップで測定する場合のノギスのあてかた
段差はステップで測定します。このとき基準面に垂直にノギスを立てるように当てます。ステップはデプスバーのように、段差の底面と壁面の際の微小な丸みを避ける工夫はないので、丸みがある場合は正しく測ることができません。 そんなときはデプスバーを使います。メーカーによってはステップが無い物もありますが、デプスバーがあるので大丈夫ですね。 しかし、デプスバーは測定部分が小さいのに比べ、ステップは当てる部分の面積がやや大きいので安定してノギスを当てられるというメリットもあるため、最近はどのメーカーもステップを付けているようです。
ノギスはものづくりの現場で最もよく使われる寸法測定器であり、ちょっとしたことで落としたり踏んだりして、クチバシやデプスバーはすぐに傷んでしまいます。傷んだままで測定しても正しい寸法が読み取れないのはおわかりですね。 ジョーの先端はメインスケールから遠いので強く押しすぎた時に誤差が出やすいこともあります。 こうした事情から、メーカーはノギスの4か所の測定位置の中の、ジョーの部分のみを精度保証しているのです。 しかし、4か所の測定はとても便利なので、上手に寸法を読み取れるように練習し、ノギスを大切に扱えば、きっとあなたの工作精度を上げてくれる強い味方になることでしょう。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。