快適空間へ導くLED照明実践講座
2-8 コーニス照明の効果とランプ位置
壁面全体を明るく照らす意味
何故、壁面全体を明るくするのでしょうか?壁面は通常の生活視点で最も目に入りやすいため、その面をどう照らすかによって空間全体の雰囲気や印象に大きな影響を与えるからです。例えば天井の低いゾーンから吹抜け空間をのぞき見る視線上に大壁面があれば、そこを周囲より明るく浮き上がるようにすることで、空間のスケールが強調され、状況によっては荘厳な印象を訪れた人々に与えることもできます。(図1)
一般的な天井高さでも壁面の主要部が見た目で一様な明るさで照明されていれば、後から絵画やタペストリーなどを飾ることで、空間の中で美しい特長だけを視覚化させることも可能です。もちろん照明したい壁面の色と仕上げも重要で、できるだけ反射率が高く、マットな仕上げの壁ほど照明効果が期待できます。
一口で壁面照明と言っても、幾つかのバリエーションがあるので、主な手法を以下に紹介します。
1.ウォールウォッシャ照明
ウォールウォッシャとは壁面全体を見た目で一様な明るさにする照明です。この照明を実現するには反射鏡かレンズで壁面方向に綺麗な光が出るように制御された専用のダウンライトや天井直付け器具が必要です。一般の天井高で使用される器具は壁から少し離して配灯されるため、天井面に接する壁の上部は少し暗くなりがちですが、配灯が上手くいくと壁の上部から下部に向けて美しい光のグラデ―ションが表現されます。器具は器種にもよりますが目安として、Lを0.8~1.2mほど壁から離し、離した距離と同じくらいの器具間隔で壁面に沿って配灯することが望まれます。(図2)
図1 ルーブル美術館(パリ)のウォールウォッシャ
図2 ウォールウォッシャダウンライトの配灯
2.コーニス照明
コーニス(cornice)とは内壁の天井面に近い位置に、水平に突き出た装飾的な成形品のことを言います。欧米ではこの中にライン形の光源を入れて天井を照らす場合をコーブ照明ではなくコーニス照明と呼ぶこともあります。しかし一般的なコーニス照明は(図3)のように壁面と接する天井の一部を折り上げて、そこにライン形LEDを連結して壁面を照らします。蛍光灯からLEDに使用ランプが変わると開口幅の寸法が狭くできるため、図3の(1)のようにランプが奥に設置することで(遮光角45°くらいが適)通常視線でランプが見えにくくなり、まぶしさの心配は少ないです。どうしてもまぶしさが気になるようでしたら、施工が少し難しいですが(2)、(3)のような遮光板の設置が求められます。
図3 コーニス照明の例
コーニス照明は普通の天井高に採用され、ライン形LEDはLを約0,1~0,15m離して取り付けられることが多いです。例えば狭角配光のランプは壁に近づけ、広角ほど離して配灯すると、壁面に良好な光のグラデーションが得られやすいです。しかし、明るさ的には光源に近い壁面部分が最も明るく、ウォールウォッシャほど壁の下方まで光が延びません。そこで少しでも床面方向へ光を延ばしたい場合は(3)のように狭角配光を適切な角度で照射することが勧められます。
(図4)のようにカーテンやブラインドのあるところではコーニス照明が勧められます。特に模様替えでそれらを取り換えたとき、色や柄の変化が光で強調され、より気分転換に寄与します。
図4 ブラインドのコーニス照明
3.アッパーコーニス照明
目線より下に光源を隠して壁面を舐めながら天井方向へ照明するのをアッパーコーニスと呼ぶことがあります。通常は天井から降り注ぐ光が自然な照明効果として認識されますが、下から湧き上がるようなアッパーライトは非日常的な照明ゆえ、場所によっては感動的な光景を創り出すことができます。
最近はホテルのベッドルームに増えている照明演出で、ヘッドボード側の壁面に電球色の温かな光によるアッパーコーニスは客室の落ち着いた雰囲気によく溶け込みます。
通常視点で光源が見えないよう、例えば乳白のガラス、またはアクリルカバーなどを使って遮光しますが、内面に熱がたまることからアクリル板の場合は熱の膨張で曲がらないようにするため、放熱穴やアクリルの接続部分に隙間が必要になります。(図5)
図6は手作りのアッパーコーニスによるトイレ照明の例です。コンセントから給電できるACアダプタ付き低ワットライン形LEDを使用し、装飾パネルの背景に光源を隠して照明効果を得ています。
図5 カバー付きアッパーコーニスの寸法例
図6 トイレのアッパーコーニス照明
『快適空間へ導くLED照明実践講座』の目次
第1章 ベースライトの選び方
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1-1シーリングライト(大型)の選び方と取り付け大型のシーリングライト器具は一灯で基準の明るさが得られ、給電口があれば電気工事の資格なしで器具の取り付け可能なことから、日本では住宅照明用として普及しています。
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1-2シーリングライト(小型)の選び方シーリングライトとは天井直付け器具のことを言います。
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1-3ダウンライト器具の選び方と配灯LEDダウンライトはLED電球用とLEDモジュール一体型があります。
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1-4壁付け器具の形状と取り付け壁付け器具は以前「照明のことが分かる講座」で紹介しましたが、今回は壁直付け(以下、ブラケットライト)の用途と取り付けにについて紹介します。
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1-5直管LEDベースライトの種類と使い方全般照明とは室内の主要部を一様な明るさにする照明で、それは集光する器具より光の拡散するベースライトによって実現されます。
第2章 スポットライトの選び方
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2-1卓上ライトの形状と照明効果卓上ライトを安定して取り付けるためにはおもに4つの方法があります。
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2-2フロアスタンドライト(意匠照明用スタンド器具)の選び方シーリングライトのLED化が一段落すると、LEDのスタンド器具を購入する人が日本でも増えています。
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2-3シャンデリアの形状と取り付け吊り下げ型器具には一灯用と多灯用があります。一般的には前者をペンダントライト、後者をシャンデリアと言われています。
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2-4スポットライトの配光と照射位置LEDスポットライトは従来光源である白熱電球用スポットライトに比べ様々な利点があり、性能が向上しています。
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2-5ライティングレールの種類2本の電線を配管の中に入れて通電させる装置をライティングレール (ライティングバー、ライティングダクト、配線ダクトなどと呼ばれる。以下、配線ダクト)と言います。
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2-6ライン型LEDモジュールの種類と用途LEDモジュール(module)とはLEDパッケージを基板に取り付け、点灯可能にした最小構成の商品です。
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2-7コーブ照明の効果とランプ位置コーブ照明は天井面を照らす建築化照明です。天井の隅や壁の高い位置にくぼみ(アゴや庇などとも言う)、を設け、その内部に連続した光源を隠して天井面を照明します。
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2-8コーニス照明の効果とランプ位置何故、壁面全体を明るくするのでしょうか?壁面は通常の生活視点で最も目に入りやすいため、その面をどう照らすかによって空間全体の雰囲気や印象に大きな影響を与えるからです。
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2-9ガーデンライト(庭園灯)の選び方と配置庭園とは草花や樹木、石、池などを計画的に配し、整えられた空間を言います。
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2-10投光器と演出効果LED投光器はLEDの光を柱状に集めて、特定の方向や場を効率よく照らす屋外用照明器具のことです。
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2-11キッチンライト(流し元灯)の種類と照明効果LEDの特長の一つに器具の小型化があります。小型である故、今まで器具の設置が難しかった小スペースや狭スペースに取り付けを可能にしています。