照明のことが分かる講座

照明とは人々の生活に役立つ光の仕事のことを言います。 照明の主光源がLEDに変わりつつあるなか、照明を知ることで生活はより豊かに変わります。 そこで本連載では照明の基礎知識から光源や照明器具の種類、照明方式、照明がもたらす心理・ 生理効果を分かりやすくご紹介していきます。
第5章 照明のことが分かる講座

5-3 照度と視力の関係

明るさの生理

私たち日本人は北欧や北米諸国の人に比べると明るさの好きな人種のようです。それは作業面と言われる局部的な明るさより空間全般の明るさに対して言えることで、実際に北欧を旅して日本に帰ってきたとき、日本の様々な施設がとても明るいことに気づく人は少なくないと思います。

何故日本人が一様に明るい空間に高い感受性を持っているのかは、日本における蛍光灯の世界的な普及が背景にあると考えられます。

ところで「明るい、暗い」の判定は何が基準になるのでしょうか。

例えば満月の夜は明るく感じます。しかし照度計で測れば、晴れた日中の僅か40万分の1に明るさにすぎません。確かに満月の光では新聞の大見出しくらいしか読めませんが、日中の明るい日差しの下では小さな字まで認識できます。このように物が良く見える明るさと空間の明るさ感は別の話になります。

物が良く見えるかどうかの指標に照度が使われます。一般に照明の質(まぶしさがなく,色の見え方に優れているなど)が良ければ照度は高いほど物が良く見えて視作業が行いやすくなります。しかし照明の質が良くてもおよそ2000ルクスを境に頭打ちが始まります。これ以上照度を高めても作業のしやすさはあまり向上しません。その割には照明費がかかってしまいます。 (図1)

図1 照度と作業のしやすさ(最新やさしい明視論 照明学会参照)

図1 照度と作業のしやすさ(最新やさしい明視論 照明学会参照)



年齢と明るさ

図2は視力と年齢の関係を表したものです。照度が低めの空間では同じ明るさでも、例えば20歳の人に対して60歳の人は2倍ほど明るさがないと同じような見え方になりません。しかし500~1000ルクスの高照度のもとでは高齢者と若年者とはさほど大差がないことが分ります。

図2

図2 (1985,International lighting Review参照)



今日では60歳以上の多くの方は白内障、もしくはその予備軍として視力の低下に悩んでいます。いろいろな年齢層が働くオフィス空間でも従業員の高齢化が目立っており、事務室での高照度が求められています。JISの照度基準でもオフィスの事務室は昼光が入る部屋とそうではない部屋では異なりますが750ルクス前後が推奨されています。高齢者による視作業も750ルクスあれば、若年者と見え方があまり変わらないので十分なのかもしれません。それよりまぶしさなどによる質の悪い照明を行うことが却ってミスやエラーを誘い、生産性の損失にも繋がるので、企業は照明環境に十分な配慮が求められます。

空間の明るさ感

照明環境には作業面の明るさだけではなく、空間の見た目の明るさ感を高めることも大事です。室内を見渡したときに床や机上面の水平面照度が基準の照度を満たしているからと言って、必ずしも空間が明るく見えるわけではありません。むしろ明るい作業面に対して空間が暗く見えると、長時間の視作業では目の疲労の原因になります。

空間の明るさ感は通常の生活視点で目によく入る面の輝度が問題になります。一般には壁面や柱面などの鉛直面が通常視点で目に入りやすいため、そこを明るい仕上げで明るく照明してあげることで、空間の明るさ感を高めることができます。(写真1) 

写真1(左)ダウンライトの照明(ソファや床面が明るい) (右)ダウンライトによる壁面照明(ソファやテーブル面は暗いが空間は明るく見える)

写真1
(左)ダウンライトの照明(ソファや床面が明るい)
(右)ダウンライトによる壁面照明(ソファやテーブル面は暗いが空間は明るく見える)



また部屋の広さに対して天井高が低い場合は天井面を明るく照らすことで、暗い天井に比べ圧迫感が和らぎ、明るさ感と安心感を空間に与えます。作業面と空間全般の明るさ感の比率を空間の用途別にどう考えるかは照明設計上の重要なテーマになります。

執筆: 執筆: 中島龍興照明デザイン研究所 中島龍興

『照明のことが分かる講座』の目次

第1章 照明の基礎知識

第2章 光源の種類と特徴

第3章 LED照明器具の選び方

第4章 照明方式

第5章 照明の視覚心理・生理

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