照明のことが分かる講座
4-4 建築化照明の主な手法
建築化照明については様々な手法があります。以前に「間接照明とライン形LEDモジュール」の項で一部触れましたが、今回は前回に説明していないものを含め10の手法を以下に紹介します。
天井に小さな穴をあけてダウンライト器具を埋め込み、照明の目的に応じて必要な灯数を配置する方式です。様々な配灯パターンがありますが、床面や作業面レベルに平均照度を求めるために整列や並列、または千鳥配灯などが考えられます。(図1)

図1ダウンライトの配灯パターン例
ダウンライトを数多く天井に埋め込む場合、器具の開口径が大きく、器具自体が光って見えると天井の穴が目立って視覚的ノイズを与えます。しかし賑わい性を求める商業施設では器具の開口径が多少大きい方が器具効率(LEDモジュール一体型は固有エネルギー消費効率)も高く、そして器具自体まぶしくない程度に光って見えるほうが好まれることもあります。またそれとは反対に器具自体全く光って見えないタイプや開口径の小さなものはその存在が目立たないため、落ち着いた雰囲気を必要とするホテルのラウンジやロビーなどに使われます。
トロファー照明は長方形の直管型蛍光灯またはLED器具を天井に埋め込む照明方式です。おもに高照度の全般照度を求める空間に適しています。器具の配列パターンは縦、格子、四角などがありますが、パターンが複雑になるほど施工も難しくなります。(写真1)

写真1、トロファー照明(格子パターン)
最近は開口部が超細長いライン形LEDモジュール器具を天井に埋め込んで照明するケースがあり、今までは考えられなかった配灯イメージで空間印象を高めています。
コーブ照明は主に図2のような形状があります。天井面をできるだけ広く明るくすることで空間の明るさ感を得ます。そのために一般的な天井高さであればhは150~200mmほどの隙間があると良いです。また光沢のある仕上げ材を用いた天井面は天井にランプが映り込む恐れがあるため、できるだけマット仕上げが望まれます。

図2、コーブ照明例
天井面を丸や四角に切り込み、その内部に埋込み器具を取り付けることで天井の単調さをなくす方法です。エントランスホールやオフィスの役員室などに適しています。(写真2)

写真2 コファー照明
天井と壁面との境の角にライン型器具を配置して、天井と壁面の一部を同時に照らしながら室内を明るくする方法です。例えば地下道のように比較的低天井の細長い空間をライン状に光らせると誘導効果が期待できます。(写真3)

写真3地下道のコーナー照明
壁など垂直面の上から下に向かって照射する照明方式で、壁やカーテンなどを広く美しく表現したい場合に奨められます。今日では直管LED器具やLEDライン形モジュール器具が多用されていますが、例えば明るい仕上げ面のコーニス照明は周囲が暗いと壁面が光って見え、そのスケールの大きいほど空間の奥行や広がりが表現されます。動線の関係で内蔵されている器具が直接輝いて見える恐れのあるところは、ルーバや乳白カバーなどで適当に遮光しますが、ライン型のLED器具の中にはランプの輝きが直接見えることなく壁面を綺麗に照明してくれるものもあります。
コーニス照明の一種で、壁の垂直な面を下から天井面に向けて照明する方法で、空間に非日常的な雰囲気を表します。通常の生活視点で器具の発光部が見えやすくなるので、発光部を低輝度にするか、十分な遮光を考慮します。〈写真4〉

写真4 アッパーコーニス
コーブとコーニス照明を同時に表現した方式です。壁面も天井面も明るくなりますが壁に浮かした遮光板が大きいと、それがシルエットとなって重たい感じになるので注意が必要です。(写真5)

写真5、バランス照明
光天井照明は天井面に拡散透過板(乳白プラスチックや和紙のようなアクリワーロンなど)を貼り、その内部に光源をバランスよく配置することで発光面に光ムラのない柔らかい照明効果が得られる手法です。天井を全面と部分的に表現する場合があり、いずれもエントランスホールや車のショールームなどに用いられます、前者は空間全体を明るい感じにしますが、影のない柔らかな光が曇天空のような気分にもさせます。後者はダウンライトなどとの併用で空間に変化をもたらすことが可能です。

写真6、光天井照明
光天井照明の拡散透過板がルーバに置き変わったものです。ルーバ内部の光源が通常視点で見えないようルーバの遮光角が調整されますが、あまり深すぎると照明効率が低下してしまうので、そのバランスが難しいです。
『照明のことが分かる講座』の目次
第1章 照明の基礎知識
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1-1光とは光には私たちの目に見える光と見えない光があります。太古の昔から人が見てきた光は太陽や星の光、そして火の光です。
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1-2照度のお話し照度とは光で照らされた場の明るさのことを言います。
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1-3光束と照度の関係一般照明用の白熱電球(普通電球とも呼ばれる)は40Wより60Wの方が明るいです。そのためW(ワット)数の高いほど「明るいランプ」と思われがちですが、例えば蛍光ランプの40Wは電球60WよりW数が低くとも数倍明るいです。 この例でもわかるようにW数は明るさを表す単位ではないのです。
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1-4照度の黄金比明るさ感は照度の高い低いだけではなく、照度対比によるところも大きいです。例えば写真1と写真2を見て下さい。
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1-5輝度とは街の明かりが届かない自然豊かな場所で、懐中電灯を夜空に向けて照らすと、まるでレーザービームのような一筋の光芒を見ることができます。
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1-6白色光源の色温度照明ではよく「白色光」と言う名称が使われます。太陽の光や青空光は白色光です。またキャンドルや白熱電球・蛍光ランプなどの人工光源も白色光を放ちます。
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1-7色温度を測定してみるとCIExy色度図(以下xy色度図)はCIE(国際照明委員会)によって承認された光色の表し方です。照明関係者だけでなく色彩の勉強をされている方にもおなじみの図表です。
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1-8演色性とはお店で見た肉や魚の赤身がおいしそうに見えたのに家で見たら少し違って見えた、という経験をされた方は少なくないと思います。
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1-9配光と配光分類一般照明用白熱電球(以下、普通電球)を点灯するとフィラメントを中心に四方八方へ360度にわたって光の放射していく様子がイメージできます。
第2章 光源の種類と特徴
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2-1白熱電球、その進化白熱電球は1878年アメリカのトーマス・エジソンによって発明された、と言われています。
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2-2豊かな種類を誇る白熱電球白熱電球を用途別に分類すると前回紹介したように一般照明用、投光照明用、装飾照明用に大別されます。
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2-3蛍光ランプ、その進化とプロセスいままで家庭やオフィス照明などで欠かせない 蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ)は1935年アメリカの大手電気メーカであるGE(ゼネラルエレクトロニクス社)のインマンによって発明されました。
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2-4蛍光ランプの種類蛍光ランプを形状別に分類すると、おもに直管形、環形(丸形)、小型変形があります。
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2-5HIDランプの種類と性能HIDランプは高輝度放電ランプのことで「High Intensity Discharge Lamp」の頭文字をとった略称です。
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2-6LEDランプ、その進化プロセス今、照明=LED(発光ダイオード)と言われるほど、LEDがあらゆる空間の照明に注目されています。
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2-7LEDに関する用語の解説LEDに関する専門用語は多々ありますが、特にLED照明を理解するために必要な用語を整理して次に紹介いたします。
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2-8LED電球の種類LED電球(電球形LEDとも言われる)は白熱電球の代替になるLED光源で、口金の形状がE形(エジソンベース),B,GX53形のいずれかを備えたものを言います。
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2-9LED電球の選び方今日、一般照明用LED電球は多くの白熱電球用器具(以下、白熱灯)に使われています。そのなかで最近注目されているのが密閉対応型です。
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2-10直管形蛍光ランプ代替のLEDランプ直管LEDランプ(LED蛍光灯、直管形LEDなどともいわれる)とは直管形蛍光ランプの代替用途になるものです。
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2-11特殊照明用LEDランプ一般照明用のLEDランプ以外に特殊な用途を持ったLEDランプがあります。ここではその幾つかを紹介いたします。
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2-12有機ELと無機ELLED照明が普及しつつあるなかで、いまELが注目されています。ELはLEDの技術では難しいとされる、薄くてぎらつきのない面発光を特徴とする光源です。
第3章 LED照明器具の選び方
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3-1照明器具とその種類照明器具とは様々な素材を用いて光源とその点灯に必要な部品を安全に固定し保護したもので、電気的部分と光学的部分、および機械的部分からなります。
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3-2照明器具に使われる素材照明器具には様々な素材が使われていますが、その中でガラス、プラスチック、金属が3大素材と言われます。
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3-3日本の住宅照明に欠かせないシーリングライト1970年代、蛍光灯の普及によって日本の住宅照明には欠かせなくなった照明器具に大型のシーリングライト(以下、シーリングライト)があります。
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3-4ダウンライト器具の種類ダウンライトは天井に穴をあけて、そこに埋め込まれる器具です。したがって器具そのものの存在をあまり感じさせないで空間の明るさを得ることができます。
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3-5ダウンライトの選び方ダウンライトにはおもに全般照明用と局部照明用、壁面照明用の3種類があります。
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3-6ペンダントライト器具とは消費税が導入される前、個別消費税の一種で物品税がありました。これは主に贅沢品に課せられる税で、照明器具では一基に5灯以上のランプをもつ天井吊り下げ器具のシャンデリアが対象になっていました。
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3-7スポットライト器具の種類と選び方スポットライトを浴びるという言葉があります。これは大勢の人の視線を集める、注目されるという意味になります。
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3-84つの配光別スタンド器具スタンド器具(以下、スタンド)とは床や卓上に置いて使う器具のことで、前者をフロアスタンド(フロアランプと言う)、後者が卓上スタンド(テーブルランプとかデスクランプとも言う)になります。いずれも配線工事が不要で、近くにコンセントがあればどこにでも設置が可能なため使い勝手の良い照明器具です。
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3-9ブラケットと呼ばれる壁付け器具壁に直付けされる器具を一般にブラケットと言います。別にウォールライトとかウォールスコンスなどと呼ばれることもあります。
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3-10屋外用器具の種類屋外照明は道路、街路、広場などを安全な明るさにする目的で普及してきました。しかし今日ではそれに加えて夜の景観や雰囲気を高める照明が注目されています。
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3-11景観照明(ライトアップ)用器具夜、歴史的な建造物や土木的価値のある橋梁などが暗闇から明るく浮かび上がる様はとてもドラマチックで新たな空間の魅力を引き出す照明として、近年クローズアップされています。このような照明は一般にライトアップと呼ばれ、夜の風景に彩りを添える効果として期待されています。
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3-12間接照明とライン形LEDモジュール器具建築化照明とは建築の躯体に照明器具を内蔵して空間の明るさを得る手法です。様々な手法がありますがダウンライト照明が最も代表的な手法です。
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3-13調光・調色の制御方法照明の明るさを変えることはものの見え方と空間の雰囲気を変えることにつながり、人々の行動心理に与える影響は大きいです。
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3-14エネルギー消費効率の高いLEDランプLED照明が省エネになり電気代の節約になることは、今では周知のことと思います。
第4章 照明方式
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4-1全般照明と局部照明全般照明と局部照明は照明方式の一部で、どちらの方式をとるかで空間の雰囲気は大きく変わります。
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4-2タスク・アンビエント照明とはタスク・アンビエント照明は全般照明や局部照明と同じ照明方式の一部です。
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4-3直接照明と間接照明直接照明は天井に設置されたダウンライトやスポットライト器具などによって作業面や見せたい対象(視対象)を直接照らすため、照明効率が高く省エネ照明に寄与します。しかし一方で影が生じやすく、照射角度や配光によって生じる陰翳は人の顔や立体物の見え方を変えて見せます。
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4-4建築化照明と主な手法建築化照明については様々な手法があります。以前に「間接照明とライン形LEDモジュール」の項で一部触れましたが、今回は前回に説明していないものを含め10の手法を以下に紹介します。
第5章 照明の視覚心理・生理
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5-1視覚のメカニズム目は光によってモノを見ることができます。モノが何故見えるのか?その原理を「目から光が出ていて、目を開けたときだけモノが見える」と説いた古代の哲学者がいました。
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5-2目に優しい照明目を刺すようなギラつく光はその強さによって暴力的にもなり、眼を痛めます。日中の太陽光を直視すると危険です。
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5-3照度と視力の関係私たち日本人は北欧や北米諸国の人に比べると明るさの好きな人種のようです。
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5-4輝度と知覚効果輝度の高い光源や照明器具、窓明かりなどを直接目にすると、つい目を細めたり、まぶしすぎると手で光源を隠したりするような仕草をします。
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5-5色温度と照度の心理効果心理は効果の度合によって体調に影響することから、人の状態や行動に関わるために建築やインテリアなどの設計業務で活用されています。
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5-6光に関する脳の働き最近、照明の脳に与える影響が注目されています。